第四章 真実
――3月18日
年度末が近づいてきた忙しい日々の中、昂介は仕事に追われながらも充実した日々を送っていた。
そのうち、あの手紙のことは少しずつ頭から消えていった。
――そんなある日
あの封筒が久しぶりに届いた。
――やりたいこと その8
桜が見たい
一瞬ギョッとしてそのまま固まった。
国内にいるなら、大抵の人は桜を見られるはずである。いったいどういう訳だろう?
しかし、今回の手紙はいつもと違った。いつもはルーズリーフのような紙だったが、今回は何かの紙を破いて書いたようだった。
裏返すと薬の写真がいくつも載っていた。よく見ると、病院名も書いてある。
“金岡総合病院”
えっ!!!
(父さんが入院している病院だ……)
――次の休みに昂介は病院へ向かった。
受付で聞いてみるが、薬の紙の切れ端では誰のものか分かるはずもなかった。
念の為携帯の番号を教え、父の病室へ向かった。
父はまだ話を出来る状態ではなかったが、今までの出来事をとにかく聞いて欲しかった。
俺は父の手を握り、今まであった不思議な手紙と出来事を話した。
もし話が出来る状態なら自分のことをこんな風に話すことはなかっただろう。
しかし、今の父だからこそ逆に素直に話をすることができた。もっと母や父とこんな風に話をしたら良かったと今更ながら後悔した。
――数日後
トゥルルルル……
仕事から帰ると携帯がなった。
知らない番号からの着信だ。
何だか妙な予感がして、昂介は電話を取った。
「あ……、始めまして。金岡総合病院に入院している岡田聡太の母ですが……」
誰が何で俺に電話を掛けて分からず、頭に言葉が入ってこない。
「実は、矢島さんが届けてくれた手紙を書いたのはうちの息子の聡太なんです……」
「えっ?息子さん……?」
全く知らない人からの手紙なんて想像もしていなかった。
「息子はもう何年も入退院を繰り返していまして……実は、今は話もできない状態なのですが……」
聡太のお母さんと名乗る女性は涙声になった。
手紙のことをもう少し詳しく聞きたいと言うお母さんの希望で、次の日曜日に病院で会う約束をした。
俺は予想もしなかった展開に激しく動揺した。あの手紙は忘れていた自分を取り返すきっかけになった俺にとって神様からの贈り物のような手紙だ。
聡太君はなぜ俺に手紙を送ってきたのだろう?
自分だけ幸せである後ろめたさや申し訳なさ、不憫さなどいろんな感情が合わさり、何がなんだか分からない感情に陥った。
(とにかく事実を知らないと)
日曜日――
居ても立っても居られない気持ちで約束の時間より早く病院に着き、父の病室でソワソワしながら待ち合わせ時間までを過ごした。
「こんにちは……」
約束していた病院内のレストランに現れた聡太君のお母さんは、色白で頬は少しこけ、華奢な体であった。
「はじめまして。矢島です。」
今まで届いた手紙が入った鞄を気にしながら、俺は早る気持ちを抑えて自己紹介をした。
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