第六章 記憶、そして幸せの追求
俺はあれからずっとあの本のことがなぜだか気になっていた。
ある日、夢を見た。
男の子が駅のホームで笑顔で手を振り続けていた。
朝起きた俺は自分の奥底に隠していた大切な思い出を忘れている気がした。
(夢の少年は本と何か関係があるのか……)
思いきって俺は聡太の母に連絡した。
すると聡太の母は俺を家に呼んでくれた。
玄関を入り、そのまま真っ直ぐ聡太に引き寄せられるように仏壇のある部屋に向かった。
そこには俺が気になっていた聡太が読んでいた本が飾ってあった。
手に取ってみると、それは写真集だった。
(ずいぶん汚れているな……)
俺はゆっくりと本を手に取った。
それは電車の写真集だった。
忘れていた記憶が一気に蘇った。
俺は高校生の時にカメラで写真を撮るのが好きで、お小遣いを溜めてちょっとよいカメラを買った。
勉強に行き詰まった時は、こっそりカメラを持って電車に乗り、いろんな景色を撮った。
ある時、駅のホームで写真を撮っていると、目をキラキラ輝かせて電車を見ていた男の子がいた。
電車が大好きで将来は車掌になると言っていた。
俺は持っていた電車の写真集を彼に渡した。
あの時の男の子はもしかすると……
本をめくると、所々赤い丸がされたページがあった。
二重丸したページは“ドクターイエロー”
1番お気に入りだった電車だ。
間違いない!この本は俺があげた本だ。
その途端……
忘れていた熱い情熱が波のように一気に胸に押し寄せた。
そう……
俺はカメラが大好きだった。
将来はカメラマンになりたいと本気で思っていた。
でも、ある日凛子が病気になって入院した。
母は付き添うため、病院に寝泊まりするようになった。
父も出張で留守がちだったため、俺は家に1人きりで一夜を過ごすことも多かった。
薄暗く物音ひとつしない家は寂しさや不安な気持ちを煽り立てた。
その頃だろうか、将来は自分の力でしっかり生きなければならないと誓いを立てた。
安定を得られる道を常に選択してきたつもりの俺は、本当はいろんな不安から逃げたかっただけかもしれない。
――3年後
「はい、撮るよ!」
俺は凛子のお宮参りにカメラマンとしてかりだされていた。隣には知った顔の男がいる。
「父さん、ちょっと右寄って!」
凛子の横には杖を持ち、スーツを着た父と、少しふっくらした母が立っていた。
俺はカメラを構えた。
画面に映る幸せに綻ぶ妹の顔で胸が一杯になった。
良くも悪くも人生はいろいろだ。
だけど、それは全て運命と諦めてはいけない。
努力次第で変えられるし、誰かの助けで変われる人生だってここにある。
俺は聡太の手紙で人生が180度変わった。
そして、明日からの新しい第一歩は俺の人生から平凡の文字を消してしまうだろう。
俺は明日日本を離れて世界の子供の笑顔をファインダーに収める旅へ出る。
不安はあるがそれ以上に刺激的な明るい未来を感じている。
今度は俺が君に手紙を書こう。この命ある限り。
俺の新しい人生の門出を君はきっと喜んでくれると信じている。
END
平凡な俺の空想と妄想と現実 TOKI @tokirokutokiko0000
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます