第14話 ノルンとセレス

「おかえり。団長ちょっといいか?」

「分かった」


戻ってきたセラスタとポルトを見てセレストがセラスタの腕を引っ張って廊下に連れて行った


「どうした?」

「観客席で怪しいやつがいた」

「どんなやつだ?」

「マヴェッタ家のジジイ」


その後セレストからどんなことをしていたのかを聞いて観客席に戻った


「怪しいのはマヴェッタ家のじいさんやってな?」

「盗み聞きは感心出来ねぇな」

「そないなこと言わんでや〜手伝おか?」

「問題ない」


セラスタに誘いを断られて少し不満げに口を尖らせたポルトを小突いていたらカルエトの声が会場に響いた


『第参試合!

ノルン•カーマ!

   対

ゼースト•バーン!』


カルエトが呼んだ名前を聞いて観客席がざわついた


「ノルン様って女性よね?」

「女性が戦うっていうの?」

「ゼースト様って野蛮な人って有名だけれど……」

「騎士団は女性も戦わせるの?」


主にノルンが女性ということでざわついた。この人達は……いいやこの国は女性が戦うことへの偏見がある


「やっぱ言われたな〜団長さんどうするん?」

「こう言われるのもノルンは承知してる」


セラスタの性別を知っているセレストは観客席を苦しそうな顔をして見るセレスを心配そうに見ていた


「女対男の試合なんか勝敗分かってるじゃないか!」

「女の試合なんて見ても面白くないだろ!」

「女は戦闘に参加するな!」

「そうだ! そうだ!」


途中からノルンへの罵倒が目立った


「全員黙らせるか」

「いいよ」


ノルンへの罵倒を聞いて苛立ったセレストが剣を手に掛けてセラスタに問いかけると戻ってきたアレストも銃を構えて賛成した


「お2人さん落ち着け」


ポルトの静止の言葉を聞いても他の隊長達は観客を黙らせようと各々武器を構えていた


「団長さんどないするん」


ポルトが隣にいるセラスタのことを肘で小突いて聞く

ポルトの言葉もセレスト達の言葉も聞こえてないのかセラスタは目を閉じてただ黙って動かなかった


「騎士団長も何考えてるんだ!」

「ノルン隊長の戦いを見る価値なんて無い!」

「女が剣を握る必要なんて無いに決まってるだろ!」


そんな荒れた会場に臆せずノルンが入ってきた


「今すぐ辞退しろ!」

「お前なんかが勝てるわけないだろ!」


会場に現れたノルンを見てここぞとばかりに観客の罵声がノルン本人に伝えられた


「わらわは隊長じゃ。隊長が辞退なんぞしたら恥晒しじゃ」


堂々とそう言ったノルンにさらに罵声の声が大きくなった


「女が戦う方が恥だ!」

「女が隊長の時点で騎士団の恥だ!」


そんな言葉とともにどこからか観客が短剣を投げた


「そこまで」


ノルンに投げられた短剣を弾いてセラスタが会場の中央に立った。観客達はただ黙って中央にいるセラスタを見ていた


「ノルンに対して文句がある奴は全員ここに来い」


セラスタの言葉に観客はざわめいた

ざわめく観客を放置してセラスタは言葉を続けた


「ノルンは拳での近接戦闘はどの隊長よりも優れている。ノルンは人望、能力それらを評価して隊長に任命している。ノルンが隊長で文句があるのならノルンに勝ってから言え」


その言葉を聞いた観客は少しの沈黙の後すぐに野次を飛ばした


「女が隊長なのはいいのかよ!?」

「近接戦闘が優れてるって他の隊長達は恥ずかしくないのか!」

「人望なんか男を誘えばなんとでもなるだろ!」


そんな野次を聞いて席に座ってた隊長達が武器を構えて立ち上がったのを手で制して改めて観客に言葉を投げかけた


「女は戦うな。女が隊長なのはおかしい。だからあんたらは駄目なんだ」


セラスタの言葉を聞いて観客はさらに罵声を浴びせた


「駄目なのは女を隊長に任命するあんただ!」


「団長のこと馬鹿にしやがった! 黙らせる!」


観客のセラスタへの罵声を聞いた隊長達が殺気立って席を離れようとした瞬間に会場に凄まじい圧がかかった


「俺のことは何言われても良いさ。だがこれ以上ノルンに対して罵声を浴びせるなら早々に出ていってもらう」


観客は黙ってセラスタの言葉を聞いていた

まるで銃口を突きつけられているように震えて


「改めて言おう。ノルンは……全隊長は俺が俺の背中を預けられる人にしか任命しない。ノルンはこの騎士団にいなくてはならない存在だ」

「団長殿……」


セラスタの隊長達への信頼の言葉に思わず隊長達はニヤけていた


『皆さん少し冷静になりましょうか』


静かになった会場にマイクを通したキルトの声が響いた


『30分ほど休憩時間をとるのはどうですか? セラスタ団長』

「かしこまりました。ではそのように」

『ということなので! 皆さん30分休憩です!』


キルトの休憩の言葉で会場にいたノルンとセラスタは会場を後にした


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「団長殿……」

「ん?」

「その、ごめんなさ」

「謝罪なら聞かねぇよ」


ノルンの言葉を遮ってノルンの頭を撫でて優しく微笑んだセラスタを見てノルンが何かを言いかけた


だがセラスタが背中を向けて『席に戻る』と言って帰ってしまってノルンはその場で小さく呟いた


「ありがとうございます……」


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壁に手を当ててゆっくり歩きながら人がいないとこに向かっていた。


(呼吸が安定しない……)


会場に渦巻く罵声の声を思い出して頭を抑えた


(トラウマか……)


浅く不安定な呼吸をしながら進んでいたが、すぐにその場に倒れこんでしまった


(こんなとこ誰かに見られるわけには)


「セレス様!」


声がした方を見たらサミダレが走って来た


「サミ……さん?」

「失礼いたします。人気のないとこへお連れいたします」


そう言って俺を抱きかかえたサミダレの横顔を見てそのまま眠ってしまった


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燃える家と家の前で全てを諦めて泣いている少女


『悪魔の一族を殺せ!』

そんな言葉を言いながら逃げる人をどんどん殺していく人


「私達は悪魔の一族じゃない! あなた達と同じ人間よ!」

悲鳴と火の弾ける音の中で少女が叫ぶ


セレスはその少女に声を掛ける


「お前の言葉は届かないさ。俺達は……私達は人に捨てられた」

「どうして!? どうして私達が!? 私達が何をしたっていうの!?」


取り乱して泣きながら声を荒げる少女を見ながらセレスは表情も声色も変えずに少女に語りかけた


「人の願いを叶えた。それ以外何もしてないさ」

「そんなの……」


セレスの言葉に詰まる少女を見下ろしながら剣を少女の首に当てる


「残酷か? 人はそういう生き物だ」

「えぇ残酷ね……すごい残酷」


「そうだな」

そう言ってセレスは少女の首をはねた


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「お目覚めになりましたか」

「セレス大丈夫?」

「頭とか打ってないか?」


目が覚めるとサミさんとアレストとセレストがいた


「ここって……?」

「セレストの控え室だよ」


サミさんが「失礼いたします」と言ってセレスの額に手を当てて熱を測った


「熱はございませんね。水を用意してまいります」


そう言うとサミさんは控え室から出て行った


「大丈夫か?」

「うん……でも頭がぼーっとする」

「僕達が守るから安心して寝てね?」

「うん……ありがと」


そう言ってすぐに寝たセレスの頭を2人とも撫でていた

 

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「女だから……か」

「あの時のセレスの顔は見てて辛かったね」

「そうだな」


2人は眠っているセレスの頭を撫でてただ静かにセレスの側にいる


「セレスちゃんの様子はどうだい?」


キルトが様子を見に来た


「今はゆっくり眠っています」

「そっか……」


そう言うと静かに椅子に座ってセレスの手を握った


「なんで君だけが苦しまなければならないんだろうね……」


「キルトさん……」


セレスの手に額を当ててポツリと呟いたキルトを見てアレストとセレストは黙っていた


「カルエトっす。入ってもいいっすかね?」


ノックして、カルエトが控え室に入った


「ポルトさん達が探してたっすよ」

「分かった。僕が先に戻って適当に説明しとくよ」

「多分私も戻らないとバレちゃうだろうから帰るね」


セラスタが体調が悪いということが露見するわけにはいかないからアレストとキルトは早めに戻った


「じゃあ僕も司会で長く席外せないんで帰るっす」

「あぁ……」

「起きたら心配したって伝えといてほしいっす」

「ん。分かった」


さっきまでいた3人が帰って眠ってるセレスと2人きりになったセレストは静かにセレスの手を握った


「やっぱこう握ると女の子なんだな……」


いつからかセレスの顔をまじまじと見ていなかったから改めてセレスが女性ということを認識して少し頬を赤らめていた


「この手が俺達を助けてくれたんだな」


自分達が幼い時にセレスに助けられたことを思い出してふっと笑みがこぼれた


「セレスには感謝してもしきれないな」


普段は恥ずかしくてこんなことは言えない。

それでも感謝の気持ちはいつもある


セレスを起こさないように顔を近づけて独り言のように眠っているセレスに言った


「大好きだ」


そう言ってハッとしたように顔を離して控え室の入口に移動したらちょうどサミダレが水を持って戻って来たからサミダレにカルエトからの言伝を伝えて会場に戻った



「起きていらっしゃるのでしょう? セレス様水でございます」

「バレてたか〜。ありがとう」


起きてサミダレから貰った水を飲んでいたらサミダレが額に手を当てた


「ど、どうしたの?」

「顔が赤いようですが……何かございましたか?」

「何か……って言っても何も……」


サミダレの質問を答えようとして思い出していたら急に顔を赤くして慌てて手を横に振った


「な! なんにもない! ホントに! 熱も無いし!」

「本当ですか? 無理はよろしくないですよ?」

「ほ! ホントホント! 無理してない! お水ありがと! ちょっと1人にしてもらってもいいかな!?」


サミさんに部屋から出たのを確認して自分の両頬に手を当てて顔を真っ赤にして呟いた


「『大好き』か……」

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