第4話 ブローチと指輪と36
「さて……」
「団長どうする?」
一瞬にして拘束していた全員殺された現場にセレストと2人で残り、現場を眺めていた。
「一応、蘇生できるかやってみる」
「ちょっと待ってろ。周り確認してくる」
セレストが割れた窓から外を覗き込んでOKサインを出したのを確認してから足元に転がる1人の死体の額に手を添えて静かに『ルガン』と言ったが、何も起きなかった。
「駄目か……」
「あぁ。というか蘇生されないように妨害をかけられてる」
「だがお前のこれを妨害できるって相当じゃないか?」
セレストの問いにセラスタは自分の唇に手を添えて少し考えた。
「アレストとカルエトにもこのことは伝えた方が良いよな」
「そうだな」
その後セレストと死体や何かしら手掛かりになるような物が無いかを探したが何も見つからなかった。
セレスが見つけたブローチを除けば。
「えぇぇ!? 団長のルガンが妨害されたんすか!?」
「カルエト? 声大きいよ」
「あ。すいません」
立ち上がって驚いた声を出したカルエトをアレストが諭して、自分の口を両手で塞ぎながら静かに座ったカルエトを見て、セレスが話を再開した。
「俺が蘇生できなかったってことは俺と同等か、それ以上の魔力を持ってる可能性が高い」
「そうだとしたら敵になったら厄介だね」
「現状魔法が使えるって噂さえどこにも無いっすよ?」
「カルエトが情報持ってないんだったら情報を隠すのが上手いな」
「もしかしたら今後の対応が後手になりそうだね」
「頑張って情報は探しとくっす」
騎士団において情報収集に長けているカルエトが情報を持っていないのを聞いて今後の対応への懸念をする3人を横目にセラスタは今回の件がどれだけ難しい案件になるのかを考えていた。
(下手したら俺の正体がバレる。それはまだ良いとしてカルエトがバレるのは避けたいな……)
そう思った時、軍岐室の扉をノックする音がした。
「入れ」
「失礼いたします!2番隊副隊長サラン・ノール! 今回の件と今後行われる剣術闘技会の準備報告に参りました!」
「分かった」
サランによる報告によれば貴族の被害者は無し。建物は舞踏会場だけの被害に収まったとのことだ。だが舞踏会場には落雷のようなものが落ちたらしき跡があったという報告だった。
(落雷は俺だな…)
落雷のようなものが落ちたらしき跡という報告が出た瞬間他3人からの視線を感じた。
(視線が痛いな……)
3人の視線から静かに目を逸らしてサランの報告を聞いてたら1つ気になる報告があったからサランにその件についての調査はセラスタがやると伝えた。
「セレス。あの報告を自分で調べるって伝えたのは何で?」
「念のためだ」
「念のため? ただの落とし物の指輪じゃないんすか?」
「まぁセレスのことだ。いいんじゃないのか?」
「取り敢えず話し合いは終わりだ」
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話が終わり皆解散した後カルエトの部屋に行った。
「どうしたんすか? 僕の部屋に来るなんて珍しいじゃないっすか?」
「カルエト。今後はいつも以上にバレないように立ち回れよ」
「嫌な予感がするんすか?」
「そうだな。すげぇ嫌な予感がする」
「セレスさんの悪い予感は当たるんで注意しとくっす!」
「あぁ……。おやすみ」
「おやすみなさいっす!」
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カルエトの部屋を後にして自分の部屋に戻ってからあの時見つけたブローチとサランの報告にあった指輪の資料を眺めた。
「これが無関係なわけねぇよなぁ……」
セレスが見つけたブローチとサランの報告にあった指輪にはどちらとも【36】という数字が刻まれていた。
(この36っていう数字……魔力で刻まれてるな)
「早めに手を打たないとマズイことになるだろうな。けど、36ってどういう意味だ……?」
そう呟くとふと眠気が襲ってきてそのまま眠ってしまった。
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真っ暗な何も無い空間。誰もいない空間。そこを1人で歩いていた。
(またこれか)
足が勝手に進む。それが、前なのか後ろに進んでいるのか、それもわからない空間。
(いつまでこの空間にいるんだろうか)
いつも何も起きずにただ足が進んでふと急にその空間が途切れる。空間の中は何もないと言ったが何かの気配だけはする。だけどその気配が何なのかも分からない。
そして今日も急にその空間は終わった。
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「あの時と関係があるのか……?」
「セレス~『あの時』が何だって?」
「ん~? 今回の魔力の件のことだよ」
アレストが迎えに来ているのに気づかずにふと口に出た言葉を聞かれて何故か誤魔化した。昔からこの空間のことは誰にも言っていない。というよりいつも誤魔化してしまう。
「剣術闘技会の話進めないと本当に時間が無いよ」
「そうだな。セレストとカルエトは?」
「2人なら今剣術闘技会の話を各部隊長と先に話してるよ」
「ん。分かった」
寝ぼけ眼を擦りながら服を着替え、剣を帯刀して軍岐室に向かった。
「あ! セレスちゃん! おはよう! ちゃんと寝れた? うなされなかった? あ! 今日も寝癖ついてない! 偉い!」
「親父さん。この服着てるときは……」
「あ! そうだったね! セラスタ君だったね! 団長のお仕事頑張ってね~!」
軽く会釈して親父さんの横を通り抜けて軍岐室に向かった。
「朝から元気だったね」
「あぁ」
「セレス嬉しそうだね?」
「そりゃな」
「ならもっと分かりやすい反応してあげな? 軽くあしらわれててちょっと可哀想になるときあるから」
「あの人にこれ以上甘えられないからな。優しくすると昔に戻りそうであの人には優しく対応できないんだよな」
「不器用だねぇ」
「何か言ったか?」
「ううん」
『昔に戻りそう』そのセレスの言葉を聞いてアレストはセレスに複雑な感情を持った目でセレスのことを見た。
(誰よりも生きづらい運命を持っていて、さらに自分を追い込むセレスを僕はいつまで支えられるんだろうか……)
「おはよう。じゃあ剣術闘技会の話し合いを……」
セレスが軍岐室の扉を開けたら険悪ムードの隊長達が向き合っていた。
「ど、どうしたんだ?お前ら」
セレスの質問に先に軍岐室にいたセレストとカルエトが指を指した。
「この2人が……」
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