第28話 一番
「ねえ、鈴熊。」
彼女は爪を弄りながら、天音を呼ぶ。
彼は放課後も、宿題に追われている真っ最中。
2ヶ月以上も前のものを、やらされていた。
これだけ文字を書いていると、自分が今何を書いているのかすら分からなくなる。
その、自分がただひたすらに問題を解く機械になる感覚は、別に嫌いではないが。
「鈴熊。ねえ。」
倒置法か? いや違うか。
無視した。自分はあいにく忙しい。
「それ以上無視するなら友達やめる」
「……んだよ」
これではまるでツンデレのようだ。
天音が、狭山と友達じゃなくなるのがどうしても嫌みたいじゃないか。
断じて違うというのに。
「何でいつもあんな朝早いの?」
なかなか、言いにくいことを聞いてくる。
「そもそも何でお前、俺が朝早く学校来てること知ってんだよ」
彼女はそれを知れるほど早起きではない。
ギリギリに教室に入って来ているのを見たことがある。
「友達が前言ってたの。どれだけ早く来ても、鈴熊が一番最初に教室にいるって」
「そうか。でもそれは前の話で、今は一番じゃない」
「誰が一番なの?」
答えに、一瞬つまずくが、ハッキリ答える。
「鶴橋」
「……」
狭山は一瞬黙った。驚いたのか。
でも何かに気付き「あ、」と声を漏らす。
「はぐらかしたでしょ」
バレた。
「はぐらかしてないよ」
「嘘だぁ~。ならなんで鈴熊さんは朝早いんですか? もしかしてやましい事情ですかぁ?」
悪戯っぽく笑う。
天音もまた、笑って返した。
「ただ健康なだけだろお前と違って。授業中寝るのやめたらお前も早く起きれるだろうな」
「え、なんで鈴熊がそんなこと知ってんの?」
「寝息うっせえからだよ。勘違いすんな」
正しくは、狭山の情報を得るために観察していた、なのだが、誤解が生じるしこの方がいい。
そのせいでとてもツンデレらしくなってしまったが、気にしない。
狭山は、「え、マジ!?」とか言ってるし。
「マジマジ」天音はそう返す。
この適当な距離感は、想定外に嫌いではなかった。
「ねえ、鈴熊」
また、仕切り直すように名前を呼ぶ。
「鶴橋さんと、何かあったの?」
また、言いにくいことを聞いてくる。
鶴橋とは、特に何もない。
ただ、会っていないだけ。
ただ、話していないだけ。
だから、特に何もない。
「いや、何も?」
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