第27話 変化

 その日はそのまま解散といった流れになって、二人は帰った。

 車道を走る車の音はうるさくないけど絶え間ない。

 町は静かに夜を迎えている。

 人はいない。

 天音は気持ちよく自転車をこぐ。

 楽しい。

 それが友達ができた喜びだということは、気付かないけれど。


 翌日。

 とうとうリビングを空色に塗りつぶしてしまった綾文さんが、天音の部屋にまで入ろうとした。それを全力で説得して(土下座して)、プロレス技をかけられ、なんとかやめてもらう。

 たまったもんじゃない。

 あの人の作るご飯があれほど美味しくなければ訴えているところだ。

 悔しい。胃袋を掴まれてる事実が。

 あれやこれやで、登校はだいぶ遅くなってしまった。

 いつもと比べてというだけだから、遅刻するほどでもない。けど、鶴橋と話す時間は取れそうもなかった。

 あれ?


 ……鶴橋と話す時間?


 いつの間にか、すり変わってる。

 一人の朝の時間が、二人の会話の時間に取り替えられている。

 それを今、自分は自然に受け入れていた。

 その確かな変化に、天音は、自分が自分でなくなってしまうような抵抗感があった。怖さだ。

 しかし、こばめない。奴はどうせ、朝あの椅子に座っている。


 そんなことより、狭山ヒノメについてだ。

 言葉の上で友達になったからと言って、立場が激変するわけではないだろう。

 どこかで接触するタイミングがないといけない。

 友情を感じさせる位置にいなくとも、せめて観測できる位置には居ておこう。

 いや、と、天音は気付く。

(俺が友情見ても意味なくね? 鶴橋が見ないと詳しい死因は見えないんじゃ……)

 ならば尚更、天音が彼女と友達になる意味とは?

(放課後話し合うか)

 と、天音はまた、ごくごく自然に、一人の物だった筈の時間を、二人の時間に書き換えるのである。


 教室の賑やかさを不快に感じながら、彼はただひたすらにシャーペンを動かす。

 横では狭山ヒノメがスマホを弄っている。

 おかしい。想定と違う。

「友達ってんなら、当然自分の課題くらいやってくれるよね」

 教室に入ると、彼女はそう言って、天音に課題をやらせた。

 友達じゃなくなる訳にもいかないと考えて、大人しく従う。

 天音は動揺した。

 関係が、変わっている。

 前だったらこんな付きっきりで課題をやらせたりしなかった。

 昨日のアレだけでここまで急変するのはおかしくないか?

 警戒を強める。

 しかし、迫り来る大量の課題に圧殺されれば、そんな感情も消えてなくなってしまう。

 地獄だ。


 彼女のこういった行動は、それから毎日続いていった。








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