第15話 反省会

 校門を出れば、家まで残り十分。

 冬の空はもう暗い。そんな中、胸の内側で叫び散らしてる愚か者が一人、下校している。

(コミュニケーションめんっどくせぇぇぇ!)

 胸中でそう絶叫した。

 誤解しないで欲しいのは、これは天音ではなく、鶴橋の心中であるということだ。

 鶴橋タチ(16歳)は現在、コミュニケーションの壁にぶつかっている。いや、事故っている。

(会話疲れるしウザイしめんどい)

 タチは正直、久々の会話に心が折れていた。

 小学生の頃から人との接触を極端に避けていた弊害が、今になって自身にコミュ障の呪いをかけているのだ。

(自分のペースで話せないし、用意してた話全然出来なかったし、なんか邪魔入ったせいで順番狂ったし、あいつ私の言葉待ってくれないし!)

 電柱を蹴る。足の指先に痛みが来て、もうその事まで腹が立った。

 天音の対人経験と同じくらい、もしくはそれ以上に、タチのそれは少なかった。

 皆無と言って良い。

(顎疲れるし喉ちょっと枯れるし変な汗かいたし

 最悪――)

 こんなことなら、最初から全部ノートに書いて渡してしまえば良かった。

 大切なことは言葉で伝えたいだなんて願望は、自分には分不相応だったのだ。

(あ、ノート忘れた)

 一旦落ち着いて、ため息を吐く。

 愚痴を言ったなら次は反省会だ。

 考えるべきはまず、自分の伝えたいことはちゃんと相手に伝わったのか否か……。

 少なくとも想いは届いた筈。なんてたって数年振りの大声だ。これで相手が何の感慨も覚えていないのならこんな世界は壊してしまえ。

 だがしかし、要望が伝わったとは限らない。

 つまりは助けて欲しいのだ。タチが見て、あいつが助ける。そういうコンビを組みたい。

(お父さんにも、サノちゃんにも無理だった。けど、あいつなら……)

 実現不可能な希望。神には届かない要望。

 それが叶うかもしれないならば、タチには縋るより他になかった。

 この切実な願いは正しく伝わっただろうか。

 ……伝わっていない気がしている。

(あいつアホ面だしなぁ)

 タチからの評価はボロカスだ。

 考えを巡らせていると、いつの間にか家に着いていた。

 ドアの鍵は開いている。

 ふと、思う。

(あいつの名前……知らないなぁ)

 明日聞いてみようと思った。

 どうせ明日も、あいつとは朝に出会うのだから。

 ドアを開ける。

「お父さん、ただいま」

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