第14話 会話下手くそ

 ――死んじゃったから?

 死ぬ。

 天音もついこの間死にかけた。だが、その言葉の質量を測れる程の現実味は知らない。分からない。

 それは高校生なら当たり前で、大人だって知らない人はきっといる。

 だから驚くことも中途半端に口を出す。

「え、だけど……俺を助けたのはお前……だよな?」

 鶴橋は小さく首を横に振る。

「助からない筈だった」

「なんで」

「見えたら死ぬ。絶対」

「でも俺生きてるじゃん」

 自然と語気が強くなる。自身の存在を否定されてる気がしたから。

「多分……特別だから」

 少しイライラしてきた。

「お前がいなかったら俺は死んでた!

 つまりお前が俺を助けたってことだろ!」

「違う」

「何でだよ面倒くせぇなぁ」

 鶴橋を言葉を探しているようだった。

 天音も鶴橋も会話が得意ではないのだ。

「助けようとすると、動けなくなる。あの時は動けた。だからあれは予定調和で、私が何かしたからあなたが助かったんじゃない」

 居心地が悪そうに、鶴橋は眉を寄せて自分の腕を掴む。

 天音はまだ、納得していなかった。

「……でもお前がバットを持って――」

「だからぁ!」

 被せるように、鶴橋は自分にできる限りの声を上げた。

「私は私の見えた景色を変えることは出来ないの! 誰にも出来なかったの! でもあなたにはそれが出来たから! だから助けて欲しいってお願いしたいの!」

 案の定、それは大した声量にはならなかったが、想いを伝えるのには十分だったようだ。

 天音は唖然とする。それが鶴橋からの懇願だったからだ。

 特別な人間が、自分に何かお願いをしている。あまつさえ、自分を特別だと言っているのだから、驚かない筈がない。

「え、お願い? それを俺に伝えようとしてたのか? ずっと」

 鶴橋は口を押さえた。どうやらまだそれを言うつもりはなかったみたいだ。

 天音は鶴橋を観察する。

 天音の視線に耐えられなくなったのか、鶴橋は口を開いた。

「そう。あなたには、運命を変える力がある」

 鶴橋は慣れてなさそうに舌を回す。

「私には助けられないから、その力で私……私が見た人を助けて……」

 間が空く。

「助けて、くれても良い」

 目を逸らして、言い直した。

 嘘には見えない。

 だがまだ疑問は山程ある。

 天音は返答に躊躇した。

 脳の容量を超えると動けなくなるのは、天音の悪癖だ。

『狭山先生、狭山先生、至急職員室までお越しください』

 間の抜けた放送が鳴る。

 鶴橋はいつの間にかバッグを抱えていた。

 そのまま外に出ようとする。

「帰るのか?」

 何故か呼び止めようとした。

「疲れた。帰る」

 それだけ言って、鶴橋は教室を出ていくのだった。

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