第13話 今まで

 委員長と目が合う。

 彼女はすぐに視線を外し、半笑いで捲し立てた。

「あーごめんね、忘れ物で~すぐ帰る。ホントすぐ帰るから。大丈夫。続けてて。ホントに!」

 大袈裟に自分の席(多分)まで走って、机の中に腕を突っ込み、何かを掴んでまた走り出す。

「ごめんねっ」

 そう言って、教室を出ていった。

「…………」

 残された天音達は、あまりの勢いに思考が追い付いていなかった。

 天音が整理する。

「……どこから聞かれてたんだろうな。やっぱり能力のことって聞かれたらまずいのか?」

「まずくない」

「まずくないのか」

 ちょっとだけ落ち込んだ

「そんで、その、『見えた、今』って言うのはもしかして……」

「そう」

(そう、だけじゃわかんねぇよ)

「見えたのか。委員長にも。俺と同じように。死ぬ未来が」

「……? そう」

 さっきそう言ったじゃんみたいな雰囲気で、鶴橋は繰り返す。この女との会話は疲れるな。

「どんな景色だった?」

 鶴橋は思い出すように下を向く。

「暗い部屋で、倒れて……」

 ふむ。

「いきなり死んだ」

 ふむふむ。

「……終わりか?」

「終わり」

「情報薄っすいな」

「こんなもん」

 これだけだとほぼ何も分からない

「ちなみに、俺の時は何が見えた? 最初」

「暗い部屋で、倒れて」

 オイ

「いきなり死んだ」

「そうだっけ!? いやでも確かにそんな気もする……」

 これじゃあ今までも当てにならなかっただろう。

 もしかしたら、鶴橋にも救えなかった命があるのかもしれない。

「それで……こっからどうやって助けるんだ? 何か手伝うか?」

 鶴橋は目を丸くする。

 明らかに驚いた顔だ。おかしなことでも言ったろうか。

「助ける……」

「えっと、助けるよな?」

「…………ない」

 よく聞こえなかった

「すまん、なんて?」

「助けたこと、ない」

(あーもうそれじゃあ色々足りないだろ)

 天音は一つずつ日本語を完成させていく。

「スー、誰を?」

「人を」

「誰が」

「私が」

「えっと、何故?」

「出来なかったから」

「どのように?」

「……どうゆうこと?」

 混乱していた。

 繋げてみると、鶴橋は人を助けたことがない。

「いや俺は? 忘れんなよ俺のこと」

「助けてない」

 フルフルと首を横に振る。

「は? それこそどうゆうことだよ」

 鶴橋はすぐには話さない。

 天音にはそれが、気まずそうに見える。

「初めてなの」

「何が?」

「あなたが」

 まだ、意味が分からない。

 鶴橋は、少し息を吸った。


「今まで見えた人達は――」


 その姿は涙を堪える女の子にも見えるし、涙を枯らした戦士にも見えた。


「どんなに頑張っても、何をしたって、

 死んじゃったから」

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