時は巡る

第10話 会話

 母親は捕まった。

 騒ぎを聞いた隣人が通報したらしい。

 天音自信も警察に話を聞かれて、概ね正直に答えた。

 鶴橋のことは話さなかったが……。

 聞いた限り母親も鶴橋のことは話さなかったみたいだ。

 頭を殴られた衝撃で忘れたのかもしれない。

 母親が殴られたことは言い逃れられないので、知らない誰かがぁ~って感じで貫き通した。

 事件は終幕、だけども『これから』は山積みだ。

 目下最大の目的は、鶴橋の秘密を探ること――

「って感じだな。そんで、そっちは説明する気になったかよ」

 朝、当然のように彼女はいて、話しかけても無反応。

 しょうがないのでここ四日くらいの経緯を話したのだった。

 相手の反応がないので、人形に向かって独り言を話している気分だ。

「おい、聞けよ」

 天音が鶴橋の肩を触ると、鶴橋は雷に打たれたみたいに跳ね上がって、天音の手を払う。

 両者固まった。

「……悪い」

「……うん」

(うんってなんだよ。結局聞いてたのか! 聞いてなかったのか!)

 天音は内心ぐちゃぐちゃだったが、何を話せば正解か分かるほど経験がない。

 故に動けない。

「学校は?」

 どうやら話は聞いていたようだ。

 鶴橋からの質問に天音は少し饒舌になる。

「あー、変わんねえよ。叔母さんがこっち来るみたいでさ。転校はしない」

「へぇ……」

「なんだ? お前は十文字以上喋ったら死ぬのか? 頼むから会話してくれよ」

「実は死ぬ」

「嘘吐け前に言ってた」

「実は死んだ」

「なら死してでも会話しろ」

「今は殺されそう」

「123456789文字かよ惜っしいなぁ」

「会話、出来そうだね」

 鶴橋は目を合わせない、だがどことなく楽しそうなのは気のせいだろうか。

「……説明は出来んのか?」

「する、放課後にまた」

 気づけばもう7:30だ。そろそろ他にも人が来る。

「……んじゃな」

 天音と鶴橋は、いつも通りの距離になった。


 ⚫


 退屈な授業とHRが終わり、いざ鶴橋の所へ。

 と思った所で、その女はやってきた。

「ねぇ、鈴熊」

 鈴熊――それは天音の名字だ。

 振り向くと、随分下の方の一本結びが特徴的な、委員長が睨んでいる。

 きつい声である。

「宿題やって」

 お願いではない。それは一種の脅迫だった。

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