第3話 嫌な奴
「俺はさ、独りが好きなんだ。独りの朝が。俺以外誰もいない朝が。毎朝早く学校に来て、何もせずただ時間を浪費していたい」
嫌み作戦――いやどちらかと言えば『嫌な奴作戦』である。
誰だって自分を不快にしてくる人間とは同じ空間に居たくないものだ。
こうしてタラタラと自分が嫌み事を放ち続ければ、あるいは鶴橋もこんなに早く教室に来なくなるかもしれない、そういう狙いだった。
肝心の鶴橋だが、相も変わらず窓の外を眺めていた。
我関せず、とでも言いたげ(天音視)である。
天音はさらに続ける。
「あ~誰かが教室から図書室か自習室行ってくれたらな。もうすぐ他の人もくるんだけどな」
できる限り嘲笑気味で、自分の思う最も嫌な奴に脳を入れ換える。
「何もしないだけなら――」
「はぁ」
「……」
――こんな朝早く学校来る意味ない。
そう、特大のブーメランを全力投球しようとしたが、その捨て身の攻撃は全部言い終わる前に、鶴橋のため息によって書き消された。
鶴橋はそれ以外反応しない、気付いていないようにすら思える。
時計を見た、思ったよりも針は進んでいない。
天音は羞恥と罪悪感の入り交じった、何とも不快な気持ちになり、それ以上言葉を並べるのをやめた。
⚫
(あの作戦はやめよう。俺も嫌な感じだ)
放課後には、天音はそういう結論を出した。
今日のことは放課後にでも謝ろう。
いくらイライラしていたと言えど、自分が嫌いな自分になる必要などない、取り敢えず謝って今日の気持ちを清算したかった。
自分勝手極まりないが、それ以外に方法はない。
幸い放課後も、学校が閉まるギリギリまで鶴橋は教室に居残っている、まあそれも、鶴橋がくる前は天音がしていたことだったのだが。
「あの! 聞いてる?」
突如として、そんな声が聞こえてくる。
天音はつまらなそうに顔をあげた。
「化学の提出物集めてるんだけど、今日は持ってきた?」
天音は相手の名前を覚えていないが、確か学級委員だったと記憶している。
彼女はいかにも面倒くさそうに話しかけてくるが、天音だって面倒くさい、何故なら
「あー……」
「やってないね、分かった」
この反応を知っているから
彼女は言葉の後、足早に教室を出ていった。
残された天音は、毎度の事ながら気の毒だなぁと思ったが、特に何をするでもなく、時計を眺める。
残されたのは、天音と、鶴橋だった。
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