第5話 めでたい

ライフはとても不快な表情で立ち上がり

「……つまり、私とここで殺し合いたいというのか?」

全身から殺気を満ち溢れさせながら凄みだした。

ミカリも焦った顔で立ち上がり、少し後退した後に

「ちっ、ちが……そういうんじゃなくて!愛でたいなぁって!」

「めでたい?何がめでたいのだ?私を否定することが!」

一瞬でミカリの前に詰め寄って、見下ろしてきたライフを

ミカリは見上げて、そして意を決した顔で刃物のような殺気を放つライフに

抱き着いた。

「……殺意はないな……魔法力も発動していない」

ライフは拍子抜けした顔で殺気を消した。ミカリは必死にライフに抱き着いたまま

かなりの早口で

「あっ、あの……こんなの説明しても分かんないと思うけど

 私ってキモいし、全然人とうまく繋がれないけど

 色んなことを愛でたり、尊いなって思うことは凄く得意だって

 勝手に思っててて!それでそれで!パートナーにはなれないけど

 ライフちゃんのことをちょっと距離を取りながら

 愛でることはできると思うの!」

ライフは微かに困惑した表情をした後に

「ああ……おめでたいではなく、愛でたい、つまり慈しみ愛したいということか?」

ミカリは抱き着いたままライフを見上げ

「……いや、そこまで重いものじゃなくて!

 これとても好きだなぁのもっと強い感じといいますか……」

バサッと前髪が横に流れて、また澄んだ真っ青な瞳がライフを見つめだした。

ライフは美しい銀髪を少しいじりながら、難しい顔で考えて

「……良いだろう。勇者であるミカリが私の敵でないのならば

 私としてもそれ以上のことはない。存分に愛でたらよい」

「ライフちゃん大好き!」

ミカリは強くライフに抱き着いて、ライフは軽くため息を吐いた。


二人は再びベンチに座って、気持ちが落ち着くのを待ち

それから、再び目が長い前髪で隠れたミカリが

「ジョニオラスとネルファゲルトは、このベンチで何を語り合ったんだろうねぇ」

ポツリ呟くと、ライフは足を組んで少し真剣に考えて

「わからんな。伝承によると大魔道ネルファゲルトは黒髪瘦身の淑女だったそうだ。

 もしかすると、愛を語り合ったのかもしれん」

ミカリは急に項垂れると

「屈強な天帝と痩せた美男大魔道のカップリングを妄想してたんですけど……」

ライフは笑いながら

「ゲイカップルだったということか。それは面白いな。

 この世界は同性愛に対して否定的だが、古代では当たり前だったのかもしれない」

「そんな異世界があったら、楽しそうだけど……オール三次元だからなぁ

 でも薄い本みたいに奇麗なのかな……いや、奇麗なのが大事じゃないけど。

 ……二人に愛があるかよね……でも愛でられるかどうかは……うむむ」

ミカリはブツブツと呟き始めた。ライフは星空を見上げていると

スーッと紫色の人影がベンチの二メートルほど前に出現してきて

「ライフ様……トゥミール地方のドラゴンたちが……反乱を起こしました……」

静かな口調で告げてきた。ライフは険しい顔で立ち上がると

「……それはいかんな。やつら、運動不足の解消のために暴れるからな。

 ミカリも行くか?」

いつの間にか自分の後ろに隠れて、人影を恐々と見つめているミカリを振り返る。

「ら、ライフちゃん……あれは部下よね?幽霊?」

ライフは一瞬呆気にとられた顔をした後に、噴き出して人影を指さし

「幽鬼のレイス族の末裔スンドールだ。世の中からは魔王四天王と呼ばれている。

 レイスのネットワークを辿って、いける場所にならどこへでも出現するので

 わが軍の情報責任者を務めてもらっている」

「そ、そう……あの、よろしく。ミカリです……勇者です」

ミカリはおずおずとスンドールの前へと進み出て、右手を出した。

スントールはサッと紫色の影でできた手で握り返し

「……敵意はありません……善意の人間ですね。よろしく、スンドールです」

そう言うと、スッと手を離した。

ライフはミカリの肩に腕を回すと

「さあ、戦場へと向かうぞ。勇者よ」

そう言って、スッとワープした。

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