第3話 魔王城

ミカリとライフは次の瞬間には、悍ましい雰囲気の大回廊の中に立っていた。

壁には抽象的な絵画や、悍ましい彫刻たちが飾られ、それを等間隔に白く光る鉱石で造られた照明が照らしている。

ライフの長い腕に肩を抱かれたミカリは身震いしだした。ライフは長身から見下ろしながら

「どうした、勇者ミカリよ……怖いのか?」

と尋ねる。ミカリは身体を震わせながら

「いっいい……いいいいー--っ!」

と奇声を上げると、近くの壁に設置された

半分が頭蓋骨になったライオンの様な、頭部のみの彫刻へと駆け寄り、スリスリとほおずりし始めた。

ライフは無表情でしばらくその姿を眺めると

「何が良いのだ?」

ゆっくりと頬ずりしているミカリへと近づいていく。ミカリは手入れされていない黒髪を翻してガバッと振り返ると

「まっ、まっまっまっまああああー----っ!」

とまた叫び声をあげた。ライフは微かに顔を顰めて、首をかしげる。

ミカリは興奮しすぎて荒くなった呼吸を整えると

「ふっ、ふーっ……ふーっ……ごめんなさい……」

頭を深く下げて謝ってから、神で半分隠れた顔を上げ

「魔王城って言おうとしたんだけど、嬉しすぎて言葉が出なくて」

ライフは鼻で哂いながら

「そうだな、如何にも魔王城と呼ばれている。私の本拠地だ」

「かっ、かっかっ……かっこいい……。そ、そうか、私的には首輪物語みたいな海外風の異世界を想像していたけれど、ここは、どっちかというとロープレの世界なのね……」

「ロープレとは?」

ミカリは待ってましたと言わんばかりに

「ロープレとは、ロールプレイングゲームの略です!私の住んでいた世界のボードゲームとか、電子ゲームのジャンルのひとつよっ!」

ビシッと大回廊の漆黒の天井を指さしてポーズを決めた。ライフは首を横に振って

「すまないが、理解できないな。ミカリ、能力測定器にかけたいのだが良いか?」

ミカリはまた興奮しだして

「れっ、レベルを数値化する的な機械があるの!?」

ライフはそれには答えずに、背中を向けて黙って歩き出した。

ミカリは慌てて大股歩きでついて行く。


異様な大回廊を五分ほど歩くと、壁に錆びた鉄扉が現れた。ライフは翳した右手の指先を軽く動かして、扉を念力で開けると

「さあ、少し驚くかもしれない」

少し冷ややかに笑い、中に入っていく。ミカリもドタドタとそれに続くと、黒い壁に囲まれていた大きな部屋の中には室内の中央に二メートルほどの場所に浮か丸い水槽のそのさらに中に沈んでいる灰色の脳みそから幾重にも外へと伸びる触手が、忙しなく室内中の石や金属で造られた計測器のついた様々な形の箱のレバーやボタンを操作していた。


ミカリはすぐに脳の真下へと駆け寄って

「すっ、すごいすごいいいいいい!いややややややあっはあああああ!!」

絶叫をあげる。ライフは少し驚いた顔をして

「人間なのに、魔物に怯えぬのか」

ミカリは興奮した顔色で振り返ると、ニチャアとほほ笑んで

「こっ、こういうクリーチャーわっ!映画で見たことあるけど!実物は初めてなのっ!!ああ……夢がかなったかもしれない……」

ライフは眉をひそめて

「ふむ……変人の類なのか、それともお前の世界ではそれが当たり前なのか」

尋ねるような、独り言のような口調で呟いた。ミカリはスッとライフに近づくと複雑な表情で

「ヲタクなら当たり前だけど……普通の人はキモいかも……」

ライフは腕を組んで、しばらく考えると

「まぁ、いい。その生き物は検査官のパーミィだ。言葉は発しないが、機器の操作を察してしてくれる」

と言いながら、扉から少し離れた紫色の体重計のような機器の近くに行き

「これが能力測定器だ。全て脱いで、ここの上に立ってくれないか?」

ミカリは大きくのけぞりながら

「うっ、ちょっと待って……私、運動苦手でお腹プニプニしてて太もも太いし、けっこうヤバい体系でして……あの……」

少しずつ下がっていこうとしているところを、ニヤリとしたライフから腕を掴まれて

「私の胸を揉んだだろう?まさか、ただで揉ませるとでも?」

背中をゆっくりと紫の機器へ向けて押されていく。ミカリは焦りながら早口で

「いっ、いや、揉んだのは謝るけど!あの、その、それと脱ぐのとは話が別でして……水泳でいつも男子からからかわれてたし、それに体重計に似てるって女子としてはほんと論外というか……ってちょーっ!」

ライフは慣れた手つきであっという間に、ミカリのセーラー服を全てはぎ取ると、白い下着まで瞬く間に取り払いそして、そのお腹や太もも周りがゆるんだ体を軽く持ち上げてサッと測定器の上に乗せた。

「あっ、あああー----っ!!待って、待ってえええええ!!」

悲鳴がワンテンポ遅れて、ミカリの口から漏れてきた時にはライフから瞬時に下着を着させられてセーラー服の上下を着せられているところだった。

「あっ、えっ……?」

ライフはニヤリと笑いながら

「ふっ……まるで、男を知らぬ乙女のようだな」

「……いっ、いや……その……」

真っ赤になってうつ向いたミカリを機器から降ろすと、その表面に出た数値をライフは見つめて、しばらく難しい表情した後に

軽く舌打ちをする。ミカリがしゃがみ込んで数値を眺めて

「……あの、解説してくれませんか」

ライフは顔を顰めながら

「能力レベルは1だ。腕力知力なども平均的……いや、体力に至っては低い。しかし、魔力が既に670000ヌーレルもある。これは驚異的な数値で、そこらに居る人間の大魔道を超えている」

ミカリはニチャアと笑うと

「つっ、つまりー?私はー?伸びしろしかないよ!って感じ?」

ライフは深刻な表情で頷くと

「属性は、無属性、氷、炎の矛盾配列だ。つまり混沌魔法を使うことができる。混沌魔法とは、通常の魔法の範疇に収まらぬ特殊魔法のことだ」

「たっ、例えば!?」

カニの様な動きで詰め寄ってきたミカリを、ライフは見下ろして

「男性を女性に変えたり、老人を若返らせたりできる」

ミカリはサッと後ろを向くと、怪しげな含み笑いをしながら

「くっふっふっ……つまり……やおい穴を持つ男子を創ったり……薄い本の中にしかいないショタたちの絡み合いを現実に……くっふっふっ……」

ライフは軽くため息を吐いて

「ミカリ、怪しげな想像をしているようだが

混沌魔法とは、そのように自由には創作できない。創作者の強い願望と圧倒的な才能で

ようやく生涯にひとつオリジナルを創れるかどうかだ」

ミカリはあからさまに落ち込んで、その場に座り込むと

「そっかぁ……そんなに上手くはいかないよね……」

ライフは思い出した顔で

「いや、しかし、遥か太古の昔にジョニオラス天帝教皇という、人間の偉大な混沌魔法使いが居てな。彼は、いくつもの混沌魔法を創り出したようだな」

ミカリはサッと立ち上がると、ライフに詰め寄って

「そっ、その人のことを教えて!」

ライフはフッと笑うと

「いずれな。それよりも、勇者殿に魔王城の中を案内せねばな」

ミカリは黙って頷いた。

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