第2話 御堂坂美狩

眼を隠した髪形の下の口でニチャアと嫌らしく笑ったセーラー服の女子は

「よかったー!これで私はもう異世界の住人だね!」

とボソボソと鼻に通らない声で喜び勇みながらライフの元へと駆け寄っていった。

そしていきなりライフの胸に両手を当てると

「やっ、柔らかい……これが異世界の温かさか……」

ニチャアと笑いながら揉み始めた。

ライフは無表情のまま、自らよりかなり背の低い女子の

まったく手入れされていないボサボサで長い黒髪を見下ろす。

「……」

しばらく女子はライフの胸を揉んだ後にふと気づいた顔で

彼女の黒い肌と流れるような銀髪の美しい顔を見上げ

「あっ……ごめんなさい……私、つい、嬉しくて」

ライフは軽く息を吐くと

「……敵愾心はないようだな。名前をきこうか、勇者よ」

女子はショックを受けた感じでライフを見上げたまま固まり

そしてアワアワと口を動かしてから

「ゆっ、勇者……私が?」

ライフに恐る恐る尋ねてくる。

ライフは威厳のある表情で黙って頷いた。


女子はセーラー服のスカートの脇をモジモジしつついじりながら

「あーっ……そういうパターンね……異世界に行った女の子が

 勇者になりました的な?あーそっかーそこまでは考えてなかったなー」

ライフはさっきから挙動不審な女子を黙って見下ろし

そして灰になった焚火の周囲で唖然として、そちらを見ていた賢者たちは

一斉にハッと気づいた顔になりライフと女子の私有委に駆け寄ってきて

「ゆっ、勇者さまー!そやつは魔王じゃ!魔王ライフ!

 この世の全てを征服した悪逆非道の魔王ですぞ!」

女子は唾を飛ばす勢いで訴えかけてきた老人たちを見回して

「あーっ……ってことはー?オープニングで勇者を全力で魔王が潰しに来て

 このあと強制負けイベントがある的な?

 フォーリンファイト3の序盤的な展開なの?」

意味不明なことを言ってきた女子に老人たちは口を開いて固まり

ライフは大きくため息を吐くと

「……別に悪逆非道ではない。人も魔物たちも

 皆、平和に暮らせる世界を創りたいだけだ。それに全ては征服していない」

「うっ、嘘ですぞ!そやつの言うことを信じてはなりませんぞ!」

老人たちがライフに裏返った声で抗議するのを女子は見回して

「ふむー……おじいちゃんたちには悪いけど

 私は魔王ライフちゃんに興味があります!」

ビシッと右手の指を天へと掲げて宣言した。老人たちは一斉にその場にへたり込む。

ライフは顔を顰めたあとに気を取り直した表情で

「名を名乗れ。私はライフ・アーゴッテ。家のないダークエルフだ。

 世間や仲間たちからは魔王と呼ばれている」

女子はゾゾゾッと体を震わせて

「かっ……かっこいい……でっ、では、私も名乗ります……」

そのあと、顔を真っ赤にしてうつ向いて

「私は御堂坂美狩……ミドウザカ・ミカリ……高校一年生です!」

また天を指さして、真っ赤な顔で上を見上げながら名乗った。

微かに長い前髪が横に流れ、澄んだ青い瞳が見える。

ライフはその様子を長身から見下ろしながら

「ミカリ、悪いが、勇者であるお前を、

 賢者たちと一緒に置いておくことはできない。私と一緒に来ないか?」

ミカリと名乗った少女は、少し後退して自分の身体に手を回して自分で抱きながら

「いっ、いいいい……いいの?あ、あの……

 自分でこんなこと言うのもなんだけど……」

ライフが首をかしげると、ミカリは言いにくそうにした後に

「わっ、わわわ私って……キモくない?」

ライフは呆れた顔でミカリを見つめ

「ただの人間の女にしか見えないが」

次の瞬間には、ミカリはライフに抱き着いて

「好き!魔王ライフちゃん大好き!私を人間扱いしてくれるなんて!」

ライフは大きく息を吐いて、周囲でへたり込んだ老人たちを見回し

「ということだそうだ。では、勇者ミカリはもらい受けることにする」

自らに抱き着いたミカリの身体に右腕を回して

そしてその場からスッと消えた。

残された老人たちの中には、絶望のあまり失禁する者たちもいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る