最強チート魔王エルフのライフさんは勇者の能力を持って異世界転生したあの娘に勝てない

弐屋 中二(にや ちゅうに

第1話 魔王ライフ

「ふっ……楽なものだな……所詮は、庶民の苦しみか」

銀の刺繡が神々しい漆黒のマントを纏い

銀髪を腰まで伸ばした長身のダークエルフが薄暗い石造りの小屋の中の

古びた装置の前でニヤリと笑った。

その近くには、くたびれた作業着姿の中年の男女が

「二秒で直していただけるとは……ライフ様!ありがとうございます!」

涙を流して頭を下げている。

ライフと呼ばれたダークエルフはマントを翻して小屋の扉に右手を翳して

念力で扉を開けながら

「……この町の上下水道はもう安全だ。その浄化装置が壊れることはない」

毅然とした口調で去っていく。

その背後では中年の男女が頭を深く下げていた。


ライフは小屋から少し離れた場所で、軽くため息を吐くと

「ふぅ……無能な庶民どもは世話が焼ける。

 次は、ファルド王国の財政問題か……皆殺しにしても良いのだが

 そうすると、私への貢ぎが減る……仕方ない。五分で解決してやろう」

と言って、その場からスッと消えた。


場所は変わり、眉間に皺を寄せた男たちが並んだ会議室の上座の椅子へと

ライフが突如姿を現した。

一斉に男たちはライフに向けて頭を下げる。

彼女は男たちを一瞥すると

「チッ……メィモはどこだ。あの女を財務大臣にしろと言っただろうが」

男の一人がライフに向けて慎重な口調で

「我が麗しの魔王ライフ様、メィモ事務長は、自ら大臣を辞退したのです。

 我が国としての女性大臣の前例はありません」

ライフは男を殺気に満ちた目で睨みつけると

「いいか?メィモがこの国で最も有能な者だ。彼女無くして財政問題は解決しない。

 貴様らクズどもを私が生かしているのも、メィモが止めているからだ。

 分かったら今すぐに連れてこい」

男は冷や汗を垂らしながら、立ち上がると一礼して去っていった。

すぐに着古したローブ姿の地味な顔つきの中年女性が会議室へと連れてこられると

ライフは華麗に椅子から立ち上がり、女性を手招きして自らの席に着け

「クズども、今日からメィモがファルド国王だ。女王ではない。王だ。

 いいか?この星でもっとも栄えているこの国の経済こそが世界の要だ。

 その要を任せられるのは彼女しかいない。メィモも分かるな?」

ライフが怪しげな表情でそう言うと、女性はあきらめた顔で頷いて

「仕方ありませんね。では、わたくしが、今日から空席だった王の席に座ります。

 皆様の協力をお願いします」

頭を下げそうになった女性の顎を、右手の長い人差し指を伸ばして止めると

ライフはしゃがんで、美しい顔を女性の横に並べ

「……協力を求めるな。支配しろ。私が後ろ立てになる」

そうつぶやくと、スッとその場から消えた。

 

ライフは次の瞬間には、虹がかかった桃源郷の

中心部付近の天然温泉の畔に姿を現していた。

天然温泉の手前には、全身傷だらけの紫色の肌を持つ男の細身の悪魔が浸かり

そして奥の深い場所には体長十メートルはありそうな

一つ目の青い肌をした巨人が座り込み

さらに奥には体長二十メートルの真っ赤な鱗をもつドラゴンが寝そべっていた。

「ふん、四天王のうち、三体がお揃いか」

細身の悪魔は、ニコリとほほ笑んで

「お嬢様、今日も下等な人間どもの統治お疲れ様です」

巨人は無邪気な低く恐ろしげな声を立てて笑い

「がははは、がはははは、ライフ様、お優しい、世界よくなる」

ドラゴンは真っ赤な瞳を微かに開けて、愛おしそうにライフを見つめる。

ライフは躊躇なく全ての服を脱ぎ捨てて、美しい黒い肌の身体をさらすと

静かに温泉へと入っていきながら

「四天王には苦労をかけた、傷が治るまでゆっくりしていてくれ」

先ほどまでの引き締まった表情ではない、優し気な眼差しを向けた。

悪魔がライフへと近寄り

「低級悪魔だったこのドゥベリーを大悪魔に育ててくれたお嬢様の御恩は

 いずれ、必ずお返しします」

一つ目巨人も楽し気に微笑みながら、温泉が波打つような低い声で

「このガンスリューも、ライフ様、大好き!」

ライフは少し恥ずかし気にうつ向くと

「娼館に捨てられていた小娘の私が……全てを手に入れられたのは

 みんなのお陰だ。くれぐれも身体を大切にしてくれ」

巨人と悪魔は静かに頷いて、ドラゴンは瞳を閉じた。

ホッとした顔で、しばらく温泉に浸かっていたライフの近くの畔へと

いきなり紫色の人影が現れて

「ライフ様……いつものルメケーレ地方に……勇者召還を目論む魔術師たちが

 集結しています」

静かな口調でライフへと告げてくる。ライフは舌打ちをして

温泉から水しぶきを立てて素早く出ながら

「スンドール、よく知らせてくれた」

そう言いつつ小さく「ウォーム」と呟いた。途端に体中の水滴が蒸発して

ライフは人影がうやうやしく渡してきた着替えと漆黒の鎧を身に着けていく。

「これで七十五回目だ。年寄りどもの遊びに付き合うのも

 そろそろやめにしたいが?」

ライフは着替えながら悪魔の方を振り返る。

温泉に浸かったまま悪魔は少し考えると

「……仕事を与えてみてはどうでしょうか?やりがいがないのでは?」

ライフは苦い顔をして

「仕事ではないがボランティアの機会も存分に与え

 王侯の年収並の十分な年金も奴らには払っている。なにが不満なのか……」

悪魔は苦笑いをしながら

「人とは愚かなものなのですよ。魔王という名だけで反発するものです」

ライフも美しい顔で苦笑いをしてその場から消えた。


暗い森の中、天まで炎が立ち上るような大きな焚火を囲んで

七人のボロボロのローブのフードを目深にかぶった老人たちが

ブツブツと何か唱えている。

その近くへと現れたライフが苦い顔をして焚火へと近寄っていき

「七賢者よ。やめよ。この世界はもはや争いを繰り返す七国のものではない。

 この魔王ライフが統一して、愚かな人間どもを治めているのだ」

毅然とした口調で注意をすると、老人たちのうちから一人が立ち上がると

「……魔王よ。我らは貴様の統治など認めぬ。

 我らは人だ。人の国は人が治める。汚れたダークエルフの血などいらぬ」

ライフは見下げた表情になり

「ふっ……七賢者も堕ちたものだな。

 ダークエルフも魔物たちも悪魔でさえもこの世界の住人だ。

 白きエルフは尊ぶ癖に、我ら黒きエルフは魔物扱いか」

老人は唾を地面に吐き出すと

「所詮は下賤な出のものか」

と言って、座り直しまたブツブツと何かを唱え始めた。

ライフは大きくため息を吐いて、焚火へと両手を翳す。

「いつも通り、その魔方陣ごと消させてもらうことにしよう」

すると、翳した先の炎へと真っ白な光が空から降りてきて

そして炎と混ざり合い、神秘的な輝きを辺りへと放出し始めた。

ライフが舌打ちをして

「悪いが少し、強めに行くぞ!滅せよ!メドゥーラのドラゴン!」

翳した両手から光の龍を発して、炎へとぶつけた。

光の龍と炎は絡み合うように溶け合って、そして辺りを朝日のように照らし消えた。

恐れ戦いている老人たちを見て回り

怪我がないのを確認して、ホッとした顔のライフがその場を立ち去ろうとすると

焚火の灰の中で

「けほっ……けほっ……」

という若い女性のせき込む声が聞こえて、バフっと音がして

焚火の燃え残りの中から灰に全身がまみれたセーラー服姿の女子が立ちあがった。

そして、辺りを見回して、ライフと目が合うと

「えっ、エルフだぁぁぁぁぁあ……それもダークエルフだよね……。

 凄い……ほんとに異世界に来られたなんて……」

ブツブツと鼻に通らない声でそうつぶやくと

肩まで伸ばした黒髪の前髪が鼻まである煤だらけの顔の口を

ニチャアと嫌らしく歪ませた。

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