第2話 残されるもの。
「あー痛かった・・・
マサキさんは理解できましたか?」
イヨは俺がゲンコツした頭を押さえている。
「ああ、嫌だが、やらないと生き返れないのだろ?」
「はい、条件を全部満たした時に手続きが出来ますので。」
「それなら、やるしかないだろ。」
俺は覚悟を決めるしか無かった。
「お兄ちゃん起きてる?」
マサキの義妹ハルカはマサキの魂が無くなっている事など気付く余地もなく、毎朝の日課として起こしに来ていた。
「もう朝だよ、起きないと会社に遅れるよ?ねえ。」
ハルカはマサキを揺するが何の反応も無い。
「お兄ちゃん、起きないとキ、キスしちゃうんだからね。
あと十秒だけ待つから。
十
九
八
七
六
五
あ、あれ、本当にキスしちゃうんだからね。
ねえ!」
ハルカは反応の無いことに少し動揺しつつも、深呼吸をする。
「お、お兄ちゃんがその気なら私も覚悟しちゃうんだからね。
いい、
四
三
二
一」
ハルカはマサキの唇近くまで来ていた。
あと少し、あと少しで唇がくっつく、
ハルカはドキドキしながらその時に向かっていたのだが・・・
「お兄ちゃん?ねえ?お兄ちゃん!
どうしたの!お兄ちゃん!」
普段と違う寝顔に気付く、よく見ると生気が感じられないのだ。
ハルカはマサキの身体を揺さぶり起こそうとするものの全く反応がない、それどころか全く身体にチカラが入っていない。
「お母さん!お兄ちゃんの様子がおかしいの!救急車!救急車を呼んで!」
「何ハルカ騒がしいわね、マサキさんも寝たい時ぐらいあるでしょ?」
「そんなんじゃないの!もういい!私が呼ぶから!」
ハルカは救急車を呼び、マサキを病院に連れて行く。
結果は・・・
「お気の毒ですがマサキさんは脳死と判定出来ます。」
「お兄ちゃんが脳死・・・?」
ハルカは青い表情でうなだれ、現実が受け入れない。
母親のメグミが詳しく聞くことにする。
「マサキさんが脳死ですか?原因は何なのでしょうか?」
「それが・・・原因はわかりません。
頭部を含め外傷はありませんし、血管、内蔵も異常がない。
病気も見当たらなかった。
身体自体はいたって健康なのですが、意識、反応が、全くありません。」
「あら、それなら臓器とか移植できるのですね?」
「ええ、それはもちろん。」
「お医者さんに聞くのはどうかと思うのですが、いくらぐらい頂けるものなのでしょうか?」
「・・・医者として金銭での取引は行いません。」
「あらあら、そんなものなんですね。てっきり謝礼とかの形で頂けるものだとばかり。」
「私が紹介するわけではありませんが・・・」
医者が口を開こうとする前にハルカが声を上げる。
「お母さん!!何を話しているのよ!お兄ちゃんは死んだわけじゃないのよ!」
「だってねぇ〜
ハルカも見てたからわかるでしょ?
先生こうなった患者が生き返るなんてあるのですか?」
「無いとは言いません、ですがいつ目覚めるかは不明としか・・・」
「ほら、こう先生もおっしゃっているし。」
「目覚めるかも知れないって言ってるじゃない!」
「でもね〜
ほら先生、マサキさんをこの先維持するなら、いくらぐらい、かかりますか?」
「はっきりとは言えません、入院と栄養補給だけで済むならまだいいのですが、延命治療をするようになるといくらかかるとまでは・・・」
「ハルカ、家にお金はないのよ。
マサキさんにかけるお金なんてありません。」
「お母さんの馬鹿!なんでそんな事を言うの!
お兄ちゃんは家族じゃない!」
「家族?マサキさんがですか?」
「そうよ!」
「ハルカも知ってるでしょ、マサキさんはお父さんの前の奥さんの連れ子で私達とは何の繋がりも無いの。
お金を稼いで来るうちは家に置いてあげたけど、お金がかかるなら話は別よ。」
「そんなの関係無い!お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ!」
ハルカはメグミと口論になるが・・・
「まあまあ、お母さん一先ず自宅に持ち帰られた方が、娘さんも感傷的になっておられると思いますので。」
「あら、お恥ずかしいところを・・・
この話はまた後日させていただきます。
なるべく早く来ますので。」
「ええ、ご家族でジックリと話し合ってください。
命のことですので、残される貴方想いが残らないようにするのが大事な事ですよ。」
「はい、それでは失礼します。
ほらハルカ帰りますよ。」
その日の夜も話し合うも話は平行線だった・・・
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