第042話 『たいせつなひと』①
ネモネ・ハーヴィン。
シロウにネモ姉と呼ばれ、カインがネモネさんと偽りない敬意を持って呼ぶ女冒険者。
シロウとシェリルが今も属している同じノーグ村の孤児院出身。
ありふれた捨て子の一人だったが、10歳の時に『聖別』を受け冒険者になる資格を認められ、王立学院ヴァグラム分校冒険者養成学部を経て15歳の時から冒険者を続けている。
当年取って27歳。
冒険者歴がシロウやカイン、フィアの年齢と同じという
スタイルの方も引き締まっている割には出るべきところはきっちり出ている、魅力的な女性である。
もっとも『
にも拘らず未だ
ないのだが同じ冒険者同士でうまい具合に恋に落ちでもしない限り、一般人との恋愛がかなりハードモードになるのは女性冒険者の
男性にはあまりない、女性冒険者特有の頭痛の種の一つとして、わりと世間にも知られている話だ。
ヒトの域をはるかに超えた戦闘力を有した彼女、奥さんというものは、自身もそうでない限りできれば避けたいと思う男性が多いものらしい。
本気で喧嘩などした日には瞬殺される、という事実に「立つ瀬がない」というのはわからなくもないのだが、共に暮らすのであればそれってそんなに問題かなあ、というのが多くの女性冒険者たちが疑問に思うところである。
共に暮らす――鍵のかかった扉の内側で共に眠るということは、その気になれば普通の女性であっても相手を瞬殺することなど簡単だ。
そんなことはあり得ない、もしあり得ても受け入れる。
それこそが他人同士が鍵の内側で共に暮らす――伴侶になるということなのだから。
にも拘らず冒険者としての戦闘能力が、女として忌避される理由になるのは納得いかないということらしい。
男性諸氏に言わせれば「そういうこっちゃないんだよ!」だそうだが、女性冒険者はそれに対して理が通っていないとぶーぶー言っている。
言ったところで事実として女性冒険者の
もっとも自分の血筋から冒険者を出したい貴顕や富裕層は相当数存在し、最終手段としてお見合いなどの婚活を行えばどうとでもなる。
容姿でいえばすこぶる美人なのも事実なので、愛妾兼
数十年前、某国第二王子の身辺警護から王妃になりおおせた女冒険者の究極玉の輿譚は、派手な装飾を施されたうえで現代でも人気の演劇や物語のネタとなっている。
だが冒険者である前に一人の女性である以上、そういった
同じ冒険者の男どもは市井の女性たちから熱い視線を向けられ、真面目な恋愛も一夜限りの遊びも謳歌しているとなればなおのこと。
それに冒険者である以上、経済的には相当に恵まれた立場でもある。
それゆえに
ちなみに女冒険者が
主として女冒険者同士のコミュニティ内においてだが。
最近ではノーグ村を訪れた際、シロウ、カイン、ヴァンの三人に対して「お嫁に要りませんか?」などと半ば冗談、半ば以上本気で口にしたりするので、フィアとシェリルは警戒を厳にしている。
なまじ妖艶な美女で充分通じるだけに
優しい言葉を口にしつつ目が素で流すカインや、無表情のままに沈黙を維持するヴァンなのでフィアはまだマシと言えるだろう。
問題なのはシェリルである。
初恋というにはまだまだ淡いものだったとはいえ、シロウが最初に認識した「大人の女性」がネモネであるため、その手の発言にけっこう可愛らしい反応を返してしまいがちなのだ。
そしてネモネもそれを嬉しそうにしている。
冗談ではない。
世にどれだけ歳の差カップルがいようが知ったことではないが、ことシロウに関してだけは15歳差など認めるわけには断じていかない。
たった一歳しか違わない、しかも年下である自分こそがシロウを歳上の毒牙から護らねばならないと、いかにも
だがいかに美しく育っているとはいえ、未だ11歳でしかないシェリルの
実際の戦闘ではネモネに完勝できるシェリルだが、女としての
さておき。
迷宮都市ヴァグラムを拠点として活動する
中堅どころからは頭一つ以上抜けてはいるが、頂点にはまだ二、三歩及ばない。
それが『
そこで不動の
だが今ほど稼げるようになるかなど、まだまだ未知であった冒険者となった15歳。
その当時からずっと、ネモネは自分を育ててくれた孤児院に相当額の寄付を続けている。
そのおかげでシロウやシェリルが物心ついた頃には命に係わるほどの貧困からは完全に無縁となっており、ネモネの意志もあって孤児院で育てる子供たちの数も多くなっていったのである。
シロウが5、6歳の頃、二十歳前後のネモネに対して淡い想いを抱いてしまうのは致し方ないことと言えるだろう。
こればかりはいかにシェリルが努力してもどうにもならないことである。
その頃シロウに対して「いいお姉さんムーヴ」をすることに妙な高揚と達成感を得ていたネモネ本人は、自分が27歳でなお独身だとは想定していなかったのだが。
ちなみにメダリオン大陸の女性結婚平均年齢は十代後半である。
そんな『
レアルが慌てるには十分な理由と言えるだろう。
「…………お止めはしたのですが」
「レアルさんの責任ではありませんよ。冒険者を止められるのは冒険者か、それ以上の力を持った存在じゃないと無理ですからね」
カインの言うとおりである。
一度でも『
大げさではなく、文字通り存在としての
駆け出しとはいえ
単純な力はもとより、その反応速度とそれについて行けるだけの肉体はその時点ですでに常人の域などとっくに超えている。
冒険者としては上位陣――『
そんな相手に普通のヒトであるアレンが危険を説いても、聞き入れられるはずもない。
止められなかったアレンも、監督官の義務を果たそうとしたネモネも、誰も悪くない。
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