第358話 街を歩いていたらスカウトされた?
スイが教会を出て歩いていると何やら騒がしくなり始めた。しかも楽しい感じではなくどう見ても悪い感じの騒ぎである。スイはその騒ぎの方へと足を向ける。
騒ぎの中心部に居たのは小さな女の子だ。胸が明らかに嫌な感じに凹んでおり骨が折れている事が見て取れる。どうやらこの街とは違う別の街で魔物に攫われた子供が空から落ちてきたようだ。
そう滅多にあることでは無いが魔物も人を攫って食おうとして抵抗された結果落とす事がある。女の子の奥に大人二人分程の大きさの鳥の魔物が息絶えている。落とした女の子を拾おうとして近くに居た兵士に殺されたようだ。
女の子を助けようと必死に治癒魔法を掛けている女性が居るが骨の構造などを知らない為に上手く治っていない。このままでは遠からず女の子は死ぬだろう。スイはティルをフードの様にしてから少し離れた場所から手を伸ばして治癒魔法を掛けた。胸骨が陥没したことによる内臓の出血だろう。サーチをかけてから的確に治癒魔法を掛けた。
暫くすると女の子の胸が盛り上がるように骨が治っていき息を吹き返した。見ていた人達が盛り上がる。一番困惑しているのは治癒魔法を掛けていた女性だろう。スイは目立つつもりは無いので存分に賞賛の声を受けていて欲しい。
「今の君だろ?」
スイが離れようとすると後ろから声を掛けられた。そちらの方に目を向けると糸目の男性と何故かその背中に担がれている男性、熊の亜人の男性が居た。三人の男の目は完全にスイをロックオンしており誤魔化しが効きそうに無かった。
「……何の話?」
「いやいや、さっきの女の子の治癒さ。ここから遠隔で治してみせただろう?魔力を幾ら隠蔽しようとも僕の目は特別製でね。魔力そのものが見えてしまうのさ」
「魔視眼(アルケーシス)」
「良く知ってるね。まあつまり君が治したことは一発で分かったわけだよ」
糸目の男性はそういって笑う。どうでもいいけど笑うと背中の男性が落ちそうになるのでやめた方がいいと思う。
「例え私が治したのだとして何の用?」
「警戒されるのは分かるけど大した事じゃないんだ。その治癒の腕を見込んで治して欲しい人が居る」
「見ず知らずの人に治して欲しいだなんて不用心だと思うけど」
スイの治癒魔法は確かにこの世界の人達からすれば凄い魔法に見えるのだろうし見た目子供だから警戒が薄れるのは仕方ないだろうが、見ず知らずの子供に話し掛ける内容とは到底思えない。
「勿論治癒の時には僕達も一緒に居るけど時間が無いって言うのが一番の理由さ。多分これを逃したら死ぬだろうからね。僕達はそれを防ぎたい。形振り構っていられないというのが本音さ」
その怪我か病気かは分からないが治癒出来なければ死ぬというのならば見ず知らずの人に頼みたくもなるのかもしれない。
「……まあ良いよ。治せるかは知らないけど」
「……!ありがとう。治せなくても報酬は払うよ。だから頼む」
頭を下げる糸目の男性に手をヒラヒラさせて案内するように指示を出す。というか背中の男性や熊の亜人の男性は全く喋らなかったけどこの三人どういう関係なのだろうか。
男に連れられてやってきたのは街の中心部に位置する屋敷だ。この時点で物凄く嫌な予感がしたが一度引き受けた依頼を放り出すのはもっと嫌だったのでその屋敷の中へと入っていく。
メイドさんに屋敷の中を案内されて辿り着いた部屋に入ると女の子が一人ベッドに横になっていた。そしてそれを見てスイは受ける依頼を間違えたと頭を抱えた。
「……治癒魔法?」
思わず呟いたのは仕方ない。だってこれは治癒魔法の領分じゃない。目の前の女の子の身体には絡み付く草がありその草は女の子自身から生えていた。草は酷く多く女の子の下半身は殆どが草で覆われていた。
「はぁ……これは治癒魔法じゃ無理。だってこれは呪いだもの」
呪いの種類は流石に分からないがどう見てもかなり高位の魔物による呪詛だ。一朝一夕で治せる呪いじゃないしそもそもスイは呪いに対して対抗する術をあまり持たない。魔族には呪いが効かないからだ。
勿論呪いに対しての対抗策位ならば分かるし弱い呪いならばスイの魔力だけで幾らでも弾き返せる。ただ高位の呪いは専用の道具や物が必要になる。そしてそれをスイは持ってない。
「それにこれ現在進行形の呪いだから弾き返してもすぐに呪い掛けられて終わりじゃないかな?」
呪いの大半は死の間際に掛けるものなので弾き返せば終わりだが偶にこうして生きたまま呪いを掛けてくる魔物も居る。そしてこれはそういう類の魔物による呪いだ。
「呪詛を使える魔物に弾き返しても仕方ないし原因の魔物を殺してゆっくりでもいいから呪いを駆逐していくしか無いかな」
今指輪を見たら何故か霊骨があったので弾き返すだけならば今すぐでも出来るがしても仕方ない。ならさっさと原因を殺した方が早い。それに男は時間が無いと言っていたがまだ上半身が草に覆われていない以上猶予としては一月はあるだろう。
「さっさと殺しに行くからこの子に呪詛を掛けた魔物を教えて?」
「それは……分からないんだ」
糸目の男性が説明してくれた所ではこの女の子は突如として意識を失い倒れた後数日してから草が生えて覆い始めたのだという。
「……この女の子ってお転婆で街の外に飛び出したりする馬鹿だったりする?」
「いやその逆で割と儚げな感じだ。外で遊ぶより本を読んでいることの方が多いくらいには」
「となると……」
スイはあらためて女の子を見る。その表情は少し苦しげだ。
「無差別呪詛かな?相性の良さそうな相手を探して呪詛を掛けて弱らせる……ティゴートかな?この辺りにヤギっぽい見た目の魔物とか居る?」
「ああ、ゼムゴートというヤギの魔物が居る。だけどあいつらは大人しいし魔力も殆どないぞ」
「ゼムゴートは弱いんだけどそれの突然変異でティゴートっていうのが居るの。群れの長をしていることが多くて見た目はそう変わらないんだけど角が一部黒くなっているの。呪詛を無差別にばら蒔いて死んだらそっちに群れを向かわせて献上させる中々うざったらしい魔物だよ。でもティゴートの呪詛はそう強くない。だからティゴートが複数体発生してるんじゃないかな」
スイはそこまで言うと魔力を薄く広げて街の外へと伸ばすと暫くしてから魔物の群れを見付けた。ティゴートらしい魔物は魔力感知が高いのですぐに逃げ出したがスイは逃げた先に天雷(ケラウノス)を落として殺しておいた。
「……まあこれで……うん、供給元が居なくなって呪詛を返せるようになったかな」
スイはそう言うと呪いをどうやって返していくのかを説明した後はさっさと屋敷から出て行った。このままこの場にいれば面倒臭そうだからだ。というか既に糸目の男性から感じる意識は高い好意だ。ちなみにここまで語っても熊の亜人の男性と背中に担がれている男性は一言も喋らなかった。
「……まあ後は呪詛を少しづつ治していけばいいよ」
そう言ってから糸目の男性からお金だけ貰って屋敷から出る事にした。
「……というか間違いなくあの男の人この街の領主一家の人だよねぇ。あの二人は護衛かな?」
スイはそんな事を呟きながら歩いていく。一言言うのだとしたら背中に担がれている男性はとりあえず降りろとだけ言いたい。
「まあ良いか。もう関わる事ないだろうし」
ふと思った。これがフラグだったのかもしれないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます