第351話 混乱させる者



「ころした!ころした!」


少し大きめの屋敷からお金を根こそぎ貰っていたらリーリアが満面の笑みで私の元へと走って来た。サーチを掛けてみたら街の住人達は既にシィとリムを除いた全員が例外無く死んでいるようだった。どうせなら私が殺したかったとは思うが逃げたエデル達を追い掛ける方が面白そうだし、そもそも一人一人嬲ってから殺していたら追い付けなくなる。


「良くやったね」


リーリアの頭を撫でるとえへっと顔を緩めて私に身体ごと抱き着いてくる。可愛い。身体の何処を見ても血だらけなのを除けば子供に興味ない人でも多少は可愛いと思うんじゃないだろうか。

リーリアと手を繋いで屋敷から外に出る。外に出ると既に結構な時間が経っているからか辺りは暗くなり始めていた。リーリアは闇の意味を持つ名前だからか迷いなく歩いていく。スイも夜目はそれなりに効く方だが瓦礫なども点在する中でここまではっきりとは歩けない。やはり力ある言葉で名付けるのは影響が大きい。不用意に名付けるのはやめておこうとスイは思った。

シィとリムは街の外周部で待っている。どうやら私とリーリアを見送りたいようだ。門の前まで辿り着くとリムが最初に私に気が付きその後でシィが気付き手を振っている。


「創造主殿、こやつらはどうすれば良いのかの?」


レヴィアタンが困った様に私に声を掛けてくる。その視線の先に居るのはレヴィアタンの身体の下に潜るかのように隠れている人々。通り抜けられないと分かった人々がレヴィアタンが殺す気がないと知りレヴィアタンの近くで生活し始めたのだろう。ある意味凄い胆力である。

そしてそんな人々も私の姿を見た瞬間恐慌状態に陥る。平伏して許しを乞う者、レヴィアタンの身体を頑張ってよじ登ろうとする者、死んだ様に反応を返さない者、泣き叫ぶ者、何処からか持って来た武器を構える者、毒薬を前に泣く者と中々阿鼻叫喚である。


「ん〜」

「ころす?ころす?」

「殺す事は間違いないけど……この人達って生かしておいたら凄い魔力を生むんだね」


リーリアが生まれたのはあそこで大量に負の感情と環境、自死による死の飽和が発生して閉鎖空間内で魔力が満ちた事で生まれた。つまりあんな短時間で魔族が産まれるなどほぼほぼ有り得ない話なのだが、スイが現れた瞬間凄まじい程の魔力がこの辺りに満ち始めて魔族の発生の予兆がある。ほんの少しの後押しで生まれそうだ。


「レヴィアタン、この人達の今までの生活的にどんなのが生まれそうか分かる?」

「ふむ……まあ順当に考えれば生きたいと願う気持ちじゃな」

「生命を望む声か……成程、リーリア殺してあげなさい。出来るだけ惨たらしく。そうしたら貴女の弟か妹が生まれるよ」

「おとうと?いもうと?ほしい!ころす!ころすよ!」


リーリアが張り切って突っ込んでいく。どうでもいいけど私の死神のイメージがそうだったせいかそれともリーリアが作り出しただけなのか分からないけど大鎌をぶんぶん振り回す私より小さい幼女というのは中々絵面が凄い。拓なら多分喜んでいるだろうが。

リーリアの活躍を見ていたらレヴィアタンがぬぉっ!?とか変な声を出したので目を向けるとレヴィアタンに匿ってもらおうと言うことなのか口の中に入ろうとする馬鹿が居た。流石に口の中に入られるのはレヴィアタンが可哀想なので魔力を伸ばして引きずり落としておいた。そんな事をしていたら魔力が暴発寸前まで集まり掛けていた。


「リーリア戻っておいで」

「あはははは!……う?」


笑いながら人を殺していたリーリアが私の呼び掛けに振り向いて笑みを返す。その隙を付いたのか遠くから弓を持っている恐らく兵士の男がリーリアの頭に矢を当てた。ぐらっとよろめいたリーリアが倒れる寸前で持ち堪える。


「……ぃたい?いたいよ……いたいいたいいたいいたい!!いたいぃ!!!!!」


痛いと言いながらも矢を抜いたリーリアが男の元へと走って行き、その矢を男の身体に突き刺す。何度も何度も突き刺しまくるリーリアは何度刺しても飽きたらぬとばかりに刺し続けている。スイは呼ばなければ良かったと思ったが、後悔先に立たずという。つまり諦めた。


「……えっと、リーリアごめんね」

「いたいいたいいた……うぅ、うあぁぁぁぁん!いたかったぁ!ままぁ!」

「抱き着いてくるのは良いんだけど私ってリーリアのママ扱いなの?」

「うぅぅ?」

「……まあ良いか。とりあえずリーリアの最後のあれで一気に発生したみたいだし」


スイが目を向けた先にはぽつんと座り込んでいる黒い衣を羽織った子供。どう見ても生命関係の素因持ちには見えないのだが一体何が生まれたのだろうか。その子供はスイとリーリアを見ると笑顔を向ける。理性が生まれていない筈だがスイとリーリアが自分を生んだと理解しているのかもしれない。

リーリアがその子供、男の子か女の子かは傍目からは分からない子にテンション高く近付いて行く。その子供も近付いて来るリーリアに笑顔を向けて歓迎する。


「レヴィアタン、そろそろ封鎖も解いていいよ。拓達はどうしてる?」

「創造主殿の弟御は我から少し離れた位置でキャンプをしておる。幾度かやってきた魔物を狩って食べておるみたいだの」

「そっか。ありがと。じゃあ後はジャバウォック召喚するだけかな」

「ぬぅっ!?彼奴を呼ぶのか!?」

「そうだよ。魔物達に宣誓しておかないと此処に来ちゃうでしょ?」

「彼奴の声耳に痛いんじゃよなぁ……」

「……まあレヴィアタンは私の身体の中に入れば大丈夫でしょ。私は直接聞かないといけないんだから」


ジャバウォック、司る能力は言語の混乱、訳の分からない言葉を発する存在だが、逆にスイはそれを逆手に取りどんな言語を扱う存在だろうと一律して言葉を聞かせる存在として生み出した。但し金切り声と重低音が混ざり更にエコーが掛かった上で喋っている最中に山彦のように同じ声が再びリピートしているかのような余りに不快な声を我慢しなければいけないが。ちなみに人型にはなれる。というか基本的には怪物状態だとそんな声になる為、スイが用事が無い時以外は人型で居るように命じた。


「……ふぅ、覚悟を決めた。ジャバウォックおいで」

「我は戻る!ではな創造主殿!!」


レヴィアタンが凄い速度でスイの身体の中に逃げ込む。それと同時にしょんぼりした顔の女性が出て来る。人型状態のジャバウォックだ。見た目は眼鏡を掛け背中から小さな黒い羽を出した高校生女子だ。まあ創命魔法的に女性体しか作れないのだが。


「……私って嫌われているのでしょうか?」

「……なんかごめんね」


ジャバウォック、改めバウちゃんが私に問い掛けてくるが私を目を逸らしながらそう答えるしか無かった。


「……ふふ、まあ仕方ないですよね。私って怪物ですし……」


どんよりしたバウちゃんの背中を摩っているとバウちゃんが立ち上がる。


「まあさっさとお仕事を終わらせようと思います。それで何をすれば宜しいですか?」

「あ、えっと、この街に一年の間魔物が寄ってこないように言い聞かせたいの。出来る?」

「勿論、その程度でしたら簡単です。では早速やりますね」


バウちゃんがそう言うとその姿が変じていく。頭は魚のようで額に二本の触角、口元にも二本の触角、口の中には鋭い門歯がある。身体は爬虫類のような鱗で覆われており首は細長い。直立歩行する恐竜のように手足が二本ずつありそれぞれ三本と四本の鉤爪がある。長い尾の先には鋭く尖った棘があり、背中にはコウモリのような翼が生えている。体高は正確には分からないが二メートルを少し超えた辺りだろうか。爛々と輝く赤い目が恐ろしい。


「gjowp6m'387tpwng!!!!53#wmpm,jpada3jam4mtwh!!!!」


さっぱり何を言ったのか分からないが意味だけは分かった。この地を一年の不可侵域にする的な事を喋った。多分。スイですら自信が無くなる程理解不能な声を発したバウちゃんはその姿のまま私にドヤ顔を向けてくる。褒めて欲しいのかもしれないが頭の位置が高過ぎて撫でることも出来ないからとりあえず人型に戻って欲しい。人型に戻ったバウちゃんの頭を撫でてあげているとすぐに切り替えてバウちゃんがキリッとする。


「これで魔物は近付いて来ないと思います」

「断言出来る?」

「はい。私の声は深層心理にも働き掛けますから言葉を理解出来ない馬鹿でもこの地には一年間来ては行けないと理解した事でしょう。流石にその一年の間に生まれた魔物が突撃してくる可能性は否定出来ませんが基本的には親の魔物が止めるでしょう」

「ん、ありがとう」

「いえいえ、とりあえずレヴィの事を虐めて来ますので戻りますね」

「え、あぁ、うん」


バウちゃんが私の身体の中に戻って行く。身体の中でレヴィアタンが悲鳴をあげている気もするが無視をした。


「……中の声は私にも聞こえるから程々にしておいて欲しいなぁ」


真剣に娘達を身体の中から出しておこうかスイは迷った。

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