第350話 死を齎す者
「あ、後エデルとアウラリアの事を待っているなら恐らく戻ってこないと思いますよ」
街の中を何故かシィとリムを引き連れて歩いているとリムがそう言った。
「どうして?」
「アウラリアの素因が自身に迫る危険を感知するという物で貴女が来る三日前に慌てて出掛けていきましたから戻ってくる気は無いかと」
「……仮にも街の統治者が逃げ出したって事?」
「ええ、あの二人ならそうするでしょう。断言してもいいです」
リムの言葉には嘘などは一切感じられない。実際その言葉にはウラノリアの記憶があるスイにとって何ら違和感は感じなかった。というかスイ自身多分これ戻って来ないなと思っていた。
「何処に逃げたか分かる?」
「表向きの理由で移動したなら少なくとも隣街には確実に寄ったかと。森に埋もれた所にある街でコーマと言います。魔物はそれほど強くないのでそれなりに盛んな街だった所だったかと」
スイの記憶には無い街だ。やはり数千年以上前の記憶は当てにならない。この街が残っていたのもエデルとアウラリアという当時から生きている魔族が居たからだろうし仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。
「そう。コーマとやらには興味無いしこの街の人を全員殺したら追い掛けるよ。どれだけ遠かろうが追い付けないとは思えないし」
スイはそう言って手近な建物に入ると中で震えていた男性とその後ろに隠れるように母親らしき人と息子らしい子供が居た。
「く、来るな!」
「……家族か」
「頼む……俺はどうなってもいい。だから妻と息子だけは助けてくれ」
男性は私と向き合って本能的に私の力を感じてしまったのだろう。膝を着くと私に頭を下げる。その後ろで女性と子供が抱き合っている。だから私は男性の横を通り抜けると抱き合っている二人に近付き子供の頭を前蹴りで蹴り抜いた。グチャっという音と共に脳漿が壁にへばりつく。一瞬にして首から上が無くなった子供の姿を見て母親が叫び掛けて……私の踵落としを喰らって下顎だけを残して息絶えた。
「……あ、あぁ……悪魔だお前は……」
既に戦意が消失している男性はそれを見ても憤慨することも出来ず涙を流す。
「悪魔じゃなくて吸血鬼だよ?」
そんな的外れな事を言って男の頭を掴んで握り潰した。
暫く二人を引き連れて殺して回ったが時間がとにかく掛かる。流石に万単位で住んでいる街を一人一人殺していくのは手間が掛かる。どうにか集められたら楽なのだがそんな方法は無い。
「リム、何か方法はある?」
「無いかと」
「無いんじゃないかなぁ」
適当に聞いたが二人も無いという結論に至ったらしい。まあ当たり前と言えば当たり前だが。街中にあるテレビみたいな魔導具も街の住人が観ないなら意味が無い。幸いなのがサーチの魔法を遮る術は誰も持っていないのか使えば何処にいるかが分かるためすぐに見つけられることか。ちなみにリムが見付からなかったのは最初は屋敷内に居なかった為でシィは居たのは分かっていたが街の住人の抵抗で瓦礫の中に沈んでしまったからだ。
「そう言えばどうしてお金や家具を集めているのですか?」
「ん?ああ、この大陸の貨幣価値って低いんだよね。私達が普段居た大陸だと価値が高騰しているから小銭感覚の銀貨ですらそこそこするんだよ。だから金貨や白金貨なんて私が国を治めることになった時に個人的な資産として使えそうだから貰ってる。家具は正直な話を言うならどうでもいいんだけど素材自体はそれなりにいい物だから分解したり技術的な物を学べるかもしれないでしょ?職人を育てるのに使えるかなって」
「国を治める……ですか?」
「うん」
それから私達が抱えている問題を掻い摘んで二人に説明してあげた。シィは途中で完全に理解出来なくなったのか店の中から駄菓子を摘んで食べている。私も指輪の中に駄菓子をある程度貰っておく。近くにはスイーツ店もあったから少しだけ貰っておいた。ちなみにリムが指輪を持っているようで少し興奮しながらスイーツを詰め込んでいた。どうやら有名店らしいが少し食べた感じだと悠久大陸のスイーツ店の方が余程美味しく感じた。
「サーチ……あれ、少なくなってる?」
まだ数百人単位で残っていた筈だが何故か既に半減している。レヴィアタン達は街の外周部に配置している為中に居る者達を殺したりはしていない。餓死するにしても少し早すぎる。気になったので少し飛ばして近寄ると理解出来た。
「……チッ、私に殺されるくらいなら自死を選ぶって?舐めた事を」
そこには首元をナイフで切ったり毒か何かを飲んだのか倒れた人々の姿を見付けた。殆どは既に死んでいるようで動く様子は無い。偶に生きている者も居るのでそいつの顔を踏み潰していく。
「ん?」
建物の中で大量の死体に囲まれるように何かが居た。スイが近付くとそれは急速に実体化していく。実体化したそれはスイを見ると噛み付きに来たので迷わず平手で頬を打ち壁に叩き付ける。
「きゃう!」
「珍しいものを見た。発生の瞬間なんて中々レアな経験だよ」
「くぅぅあぁぁ!」
平手打ちで壁に叩き付けられたそれは再び噛み付きに来たのでもう一度躱した瞬間に平手で打ち同じ所に叩き付ける。
「きゃん!」
「犬みたいだなぁ。まあ言葉も知らない今だとそれくらいしか言えないのかな?いや、でも素因による知識継承は流石に行われているだろうし理性が無いだけかな?」
スイは冷静に分析するとその子どもの姿の魔族に近寄る。流石に敵わないと分かったのかその子供は大人しく動かない。翠の瞳と灰色の髪を持つ何処かスイに似た雰囲気の子供をスイは抱き上げた。抱き上げられた瞬間こそ暴れそうになったが、スイが少し笑顔を向けると逆にスイに抱き着いてきた。どうやら懐かれたようだ。平手打ち二回と抱き上げて笑顔を向けただけでこうなるのなら将来が少し心配になる。
「その子は……?」
「スイちゃん子供居たの?」
リムとシィが疑問を浮かべていたのでスイは首を振る。
「違うよ。新生した魔族ってだけ。私の保護すべき子だよ」
中性的な顔の為はっきりとは分からないが恐らく女の子のその子は抱き上げられたままシィとリムに牙を剥く。あくまで私に懐いただけな為、頭を撫でようとしていたシィが威嚇されてショックを受けている。
「しかしこの子どうしようかな……素因がちょっとおっかないから連れて行きたいけど」
この子の素因はあんな場所で生まれたせいか"死"の素因を持っている。別に死の素因を持っているからと言っても余程格下でも無い限り殺したりは出来ないので別にこれで拓達が死ぬとは思わない。どちらかと言うと連れて行かずに放置した結果、凶獣に殺されて素因を奪われる方が怖い。
「連れて行けば宜しいのでは?」
「ん〜、まあ大丈夫か」
拓達はこの子に負ける程弱くない。というか生まれたばかりの魔族なんて亜人族にすら負ける程度に弱い。流石に人族に身体能力で負けることは無いが戦い慣れた兵士に勝てるかと言われたら無理だと答えられるだろう。例外は生まれたばかりで大量に人族も亜人族も魔族すら関係無く滅殺したウラノリアとかいう父様だけだ。
ちなみにそれ程暴走していたウラノリアを止めたのが当時生きていた最古の勇者茜である。今はもう既に死んでいる茜だが未だに幽霊としているのはその身にある魔力やらが強すぎる為だろう。というか多分茜は気付いていないようだが望めば魔族に転生する位は出来るだろう。吹き飛んだ後どこに飛んで行ったか分からないので伝えようが無いが見付けたら伝えてあげようと思う。
「名前はどうしようかな……」
「あうぅ?」
「…………力ある言葉で名付けるか」
流石に普通の名前にするのは躊躇う。魔族だからというのもあるが、そもそも素因が恐ろしいのでちゃんと制御出来ない方が怖い。力ある言葉による名付けはその者の人生を固定するような行為でもある為、あまり推奨されるものでは無いが仕方ないだろう。
「……………………よし、決めた。けどその前に貴女って女の子だよね?」
「あぅ?」
女の子が身体に纏っている黒い衣を少し持って中を確認する。
「…………ん、女の子だね。じゃあ貴女の名前はリーリアだよ。美しき者、死神、闇の三つの意味を持つ言葉だよ」
「…………ぅ、ぃーぃぁ」
「リーリア」
「リー……リア?」
「そうだよ。それが貴女の名前」
「リーリア……リーリア!リーリア!」
喜んでくれたのか女の子が笑顔で私に抱き着いてくる。可愛い。
「ふふ、じゃあリーリア早速だけどお仕事を頼もうかな?」
「ぅ?」
首を傾げたリーリアに私は弱めの素因を二十個ほど渡す。
「その力を使って街の住人を全員殺してこようか?」
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