第344話 神代の世界



「…………姉さん」

「…………何?」

「…………此処は何処かな?」

「…………さあ?」


私達は門を潜ってアルーシアへと帰ってきた。それは間違いないのだが今現在目の前に広がる光景は途方も無いほど広大な砂漠。ジリジリとした熱が皮膚を焼き足元の流砂が酷く歩きづらい。


「アルーシアにこんな場所あったっけ?」

「ん〜、無いわけじゃないよ。魔の大陸の南側には砂漠があるしね。ただここは違うかな」


拓の質問に答えると拓は少しの間考えた後周りを確認する為に魔力波を送ろうとしたのでそれを全力で止める。


「姉さん?」

「ここでそれはしない方が良いよ。世界地図的にこの場所が何処にあるのかは私も知らないけどこの場所が何かは知ってるから」


私はそう言いながら左側に避けるとその瞬間地面から全く気配も音も出すこと無く何かの魔物の口が出てくる。その大きさは私と拓達を全員飲み込んでも余裕がある程の巨大さだ。

その口は飲み込めなかったのが驚きなのか一瞬だけ見えたその目には驚愕の色が込められていた。私はそれを見ながら瞬時に貫手でその魔物の腹を突き刺してそのまま腹を縦に裂いた。


「あれだけで来るのかー。やっぱりこの大陸の魔物は化け物ばかりだね」


一瞬にして現れ死骸となったその魔物に拓は目を開きルーレちゃんはビクついてシェスは周りを警戒し始めた。


「えっ……姉さん、今のって」

「ジグラームだったかな?この魔物の名前は。モグラみたいな魔物だよ」

「いや違う。そんな事が聞きたいんじゃなくって」

「あ、気配も音も無かったこと?それはこの大陸の魔物には標準装備だから気にしちゃいけないよ?魔力の揺らぎを確認したら分かるよ。まあそれすら誤魔化すやつばかりだけど」


拓達が愕然とした後一歩も動けなくなったようで周りを頻りに気にし始める。


「この大陸は忘れ去られた大陸、捨てられた大陸、神々の大戦により滅びを迎えた大陸。まあ分かりやすく言うなら大戦の舞台となった大陸だよ。そして今では変貌に変異、変質を重ねて産まれ落ちた究極の世界」


私はそこまで言ってから三人を振り返りながら声を掛ける。


「大陸型ダンジョン、異境世界アルガンディア。この大陸は全てが荒廃して全ての魔物が凶獣と言える世界にとっての唯一の汚点。地図からも消されたこの大陸はアルーシアのどこら辺にあるんだろうね?」


私の言葉に三人が引き攣った表情を見せた。





「アルーシアに渡る時に悠久大陸って指定出来たら良いんだけどね。流石の私も地形を指定は出来ても地点の指定までは出来なかったんだよね。というかアルーシアが地球から見てどの辺りにあるのかも定かじゃないのに指定出来るわけが無いんだけどさ。大まかに陸とだけ指定したら変な所飛んじゃった。そりゃそうだよねぇ。私忘れてたんだけど悠久大陸とか魔の大陸よりもアルガンディアの方が陸地面積多いんだからこっちに飛ぶ可能性の方が高いよね」


私の言葉に拓が頭を抱える。


「ねえ、スイ。この場所が何処か分からないって事は私達はどうにかして船なりなんなりを用意して悠久大陸まで頑張って帰らないといけないの?」

「そうなるね」

「ヴェルデニアに色々好き勝手されない?大丈夫なの?」

「ああ、それに関しては大丈夫」

「どうして?」

「地球からこの世界に渡る時に時間軸がずれるのは知ってるよね?」


ルーレちゃんの問いに私が問いを返すと頷く。


「あれは地球とアルーシアとの位相がずれているからなんだよね。百年前の召喚と今の召喚でほぼ同一の時代の人間が呼び出される。あれはそのタイミングで召喚がされているからなんだよ。ちょっと前に言ったけど位相自体は揺れ動いていて近い時と遠い時がある。つまり遠い時に召喚をしたら多分過去の時代か未来の時代の地球人がやって来ることになると思うよ。というか正確にはアルーシアから見たら私達の時代は間違いなく過去になるんだけどね」


途中から三人の頭にはてなマークが浮かび始めたようなので結論だけ言うことにする。


「つまり簡単に言うとその位相のタイミングが分かってさえいれば時間の調整は幾らでも可能ってことだよ。だから私はアルーシアに戻ってくるタイミングを測ってたんだから。今の時間は私達がこの世界にやってくるよりも前。およそ五年と二ヶ月前のアルーシアなんだから」


私の言葉に今度こそ三人が愕然とした。私はそれを見て笑顔を向ける。


「ね?だから時間は気にしなくても大丈夫だよ」




砂漠を歩きながら私達は話す。拓とシェスは体力を温存する為に黙っているが私とルーレちゃんは魔族なのであまりその辺りを気にする必要は無い。


「過去の世界ってことは色々と変えられたりするんじゃない?」

「あ、それは無理。既に観測された世界を変えることは出来ないの。というかそれをすると私達消滅するよ?」

「え、怖っ」

「まあ消滅云々は冗談……じゃないけど軽いものならそこまでの事は起きない。けどちょっとした事でも結果が変わるとろくな事にならない。間違いなくね。道端の小石を拾って適当に投げ付けて人に当たれば巡り巡って何故か自分の腕が消し飛んでたりとか有り得るからね」

「それって大丈夫なの?」

「まあ今回に関しては大丈夫。そもそも五年以上前に私達がこの大陸に居ることは既に世界としては観測されている事象だから」

「今初めてここに来たのに?」

「うん。だって私達は四年後くらいにはこの世界に居るでしょう?その時点で私達が観測された扱いだから大丈夫。タイムパラドックス的なことで危なくなることってそうそう無いんだよ。ただ大きな出来事を改竄しちゃったらアウト。消滅は確定して周りも巻き込む可能性大」

「ひえっ……」

「まあこの大陸にいる限りそれは有り得ないから大丈夫。そもそも五年掛けても出られずにこの大陸にいる可能性あるから」


私の言葉にルーレちゃんが冗談だよねと聞いてくるけど私は笑みを返すだけにしておいた。アルガンディア大陸は途轍もなく広い。具体的な大きさまでは知らないが少なくとも悠久大陸、魔の大陸、獣国、天の大陸のそれら全てを合わせた大きさの三倍以上はある事は間違いない。

というか皆疑問に思わなかったのだろうか。魔の大陸や悠久大陸に大戦時の爪痕とでも呼ぶべき地形変化が余りにも少なかったのを。まさか年月で消えたとでも思っていたのだろうか。

海を割り山を裂き海より深い穴が出来て天が堕ちてきたとか色々と伝承自体残っているのだから分かって欲しい。まあ御伽噺的な扱いをされていたのだろうとは思うけど。

そんな事が行われていた大陸が悠久大陸みたいな小さい大陸程度で行われていたわけが無い。というか逆に行われていたら大量の諸島群になるか地図から消え去っていただろう。


「スイ、気のせいかしら。私の目には物凄く大きな魔物が見えるのだけど。具体的には立った姿だけで二十メートルはありそうな魔物が」


私が考え事をしているとルーレちゃんがそう声を掛けてくる。成程、確かに居る。凄く大きなエリマキトカゲみたいなのが居る。

エリマキトカゲは此方を確実に見付けているが襲いかかっては来ない。私は指輪から適当な魔物を取り出すとそのエリマキトカゲに向かって投げた。オーク三体でも渡しておけば良いだろう。エリマキトカゲは私がそんな行動を取ると思っていなかったのか一瞬反応が遅れたがすぐにオークをその口で咥えるとそのまま一呑みにした。

続いて投げたオーク二体は器用にその手で掴み取ると脇に抱えた。脇に抱えた……シュールだ。


「…………あのエリマキトカゲに付いていこうか」

「ええっ!?あれに!?」

「うん。この大陸にもやっぱり知性ある凶獣ラグランドは居るんだね。話が通じそうだしどこか休める所を提供してもらおう」


私の言葉に三人は半信半疑と言った感じだが私に続いてエリマキトカゲに付いていくのだった。

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