第345話 砂漠横断の旅



「シュー……シュル…シュー」

「うんうん……つまりここは大陸としてはど真ん中と言っても過言ではないんだね」

「シュルシュ……シューシュー」

「でも海側に行こうとすると別の知性ある凶獣ラグランドの縄張りにぶつかったり地形的に通れなかったりすると」

「シュッ……シュッシューシュルシュー……」

「だから遠回りだけど回り込む動きの方が結果的には早いんじゃないかと……うん、ありがとね」

「シュリシュー」

「お礼はオークでも良いのかな?……ありがとうゼノペ」


私はゼノペと名乗ったエリマキトカゲにオークを五体ほど渡すとゼノペはもう夜になるからと寝床に案内してくれた。寝床はゼノペの力で作った洞窟だそうだ。


「えっ、何の話してたの?」

「分からない。ゼノペってエリマキトカゲの事かな?」

「ねえちゃ凄い」


三人が私とゼノペの会話を見て頭を捻っている。目とか身体の動きや私の言葉に対する反応とかで何となく分からないのかな?結構ゼノペは分かりやすい方だったと思うけど。

寝床に着くとゼノペは奥の方に私達を案内した。手前側に居ると何も知らない魔物が舌で絡め取りに来たりするからだそうだ。ゼノペの力だと引き剥がせるし何だったらそのまま食料に出来るが私達だとそのまま引っ張られかねない。

奥の方に行き適当な魔物の毛皮を指輪から取り出す。狩った魔物の中には毛皮がふわふわしていたりして触り心地が良いものがあるので冒険者ギルドで買い取って貰う時に毛皮だけ戻して貰ったりしていた物だ。これは多分ジークニスとかいう虎の魔物のだと思う。ツルツルしていて毛皮っぽくないのに暖かいので結構こういう場面では使っていたりする。それに加えてトルスとかいう小さい鳥の魔物の羽毛で自作した掛け布団と敷布団で横になれば快適な寝床が完成する。魔物の素材は丈夫なのが多いから地面に直に置けるのが嬉しい。

幾つか素材違いで自作していたようでベッド型だったりする物もあるが洞窟自体それほど広い訳では無いのでやめておくことにする。入口付近は大きいんだけどね。あと単純に足場が悪いので傾くし。

私が布団を幾つか敷くと皆を呼ぶ。三人には私が渡した魔物の素材で料理を作ってもらうことにした。魔物はゼノペの寝床に来る途中で現れた巨大魚である。砂漠なのに魚とはと思わなくもないが実際に居たのだから言葉を呑むしかないだろう。

見た目は魚の胴体に海月みたいな足が下半身にぎっしりと詰まっているという割と気持ちの悪い姿をしていたが父様の記憶ではこれは案外美味しいと記憶されているのだ。全長だけで三メートルはあるだろうそれを焼いただけで味付け無しに食っていた記憶しかないが。ちなみに下半身の海月部分は食いたくなかったので上半身と下半身で切断して下半身部分はゼノペに渡しておいた。

意外と美味しかった気持ちの悪い魚を皆で食った後は布団に包まって眠ることにした。ゼノペの身体が入口付近から入ってくる風を遮断していたので寝心地はそう悪くなかった。欲を言えばゼノペには風呂に入ってもらって匂いだけ消して欲しかったが風呂なんて砂漠のど真ん中で望めるわけもないので諦めた。せめてと魔法で生み出した水で水浴びだけはしてもらったが流石に匂いはそう取れなかった。

翌日ゼノペの洞窟から出てまた歩き始めることにした。ゼノペはあの洞窟付近を縄張りにしているので洞窟で別れることにした。つまりまた四人で砂漠横断の旅だ。


「ねえ、スイ。この大陸ってどういう大陸なの?もしかして砂漠しかない?」

「そんな事ないよ。砂漠化してるのはこの辺りだけ。ゼノペから聞いた限りでも普通の草原とかもあるみたいだから」

「ふうん、それにしてもこの大陸って何で捨てられたの?大戦の爪痕が酷いって言うのは分かるけど捨てる程なの?あとこの大陸って魔物しか居ないの?」

「捨てられた理由はこの大陸に魔素が満ち溢れすぎてダンジョン化しちゃったからだね。魔物の凶暴さとか凶悪さを感じたから分かると思うけど当時の人類的に魔物に対抗出来なくなってきたからかな。超越者の理が残っていたら話は変わったかもしれないけど。それと魔物以外も居るよ。大陸に置き去りにされた人類とかね。子孫が残っていたらもしかしたら国とか作ってるかもね」


そんな事を話しながら時折襲いかかって来る魔物を狩りつつ歩を進める。魔物の出現にも慣れてきたのか初撃さえ回避出来れば三人でも倒せるので今は少し慣れさせるために私より前を歩かせている。凶獣程度なら難なく倒せる三人だしね。初動の感知さえ出来れば苦戦することも無いのだ。


「置き去りにされたってどうして?」

「犯罪者だったり差別されていた種族だったり人里離れた場所に住んでいたりと色々かな。まあ大半の種族は悠久大陸に移動してるけどそうやって残された種族の中には特殊な種族も居たりするんだよね。特殊環境下に特化しすぎて他の所では生きられないとかも居たかな」

「特殊環境?」

「うん。火山の中とか海底とか風が吹き荒れる足場数センチの山の中とか」

「特殊過ぎない?そこでしか生きられないっていうのが信じられないんだけど」

「火山の中に住んでるのは氷帝人ひていじんとかいう身体が氷で出来た亜人、海底の種族は闇留人あんりゅうにん、風の山の種族は枯木人かれきびとだったかな。いずれも見た目が結構特殊だよ。環境によって人は変わるんだなってのを全力で体現してる」

「名前聞くだけで凄そうね。枯木人が凄く気になるわ」

「幅数センチ、体長平均五メートルの人が気になる?」

「ごめん、やっぱ無しで」


そんな糸みたいな種族見たくはないのだろう。ルーレちゃんは変に想像したのか少し顔色が悪そうだ。気のいい種族であるのは分かっているのだがスイだって見たくない。都市伝説にでも出てきそうな種族は普通に怖い。

そうして話しているとまた暗くなってくる。夜が近づいてくると光源は無いしかなり冷え込むので早めに休む事にした。魔法で砂場を盛り上げる形で砂の家を作ると中に入って休むことにした。

普通は見張りでも付けるべきなのだろうがそれよりは家の中という閉鎖空間の中で魔力を漏らさない方が余程襲われないので全員で休むことにする。何せ砂漠は大きい。食べられる魔物ばかり手に入るという訳では無いので無駄に体力を使っていられないのだ。砂漠には待ち伏せばかりする魔物というのもある。勿論徘徊する魔物も居るが何れも知性ある凶獣ラグランドだったりするので気にしない。

そうやって話しながら進み続けて行く事二週間、ようやく景色に変化が訪れた。突如として現れたのはオアシスだ。一瞬蜃気楼かとも思ったが近付いても消えなかった。魔法で水は生み出せるから脱水症状などは起きはしなかったが熱線は常に浴びているせいで水はいくらあっても困らない。

オアシスの水を適当な皮袋や水筒に詰め込むと周りに生えている木を一本ずつ確かめていく。木の実あたりが生えていたら嬉しいのだが残念なことに生えていなかった。野生動物や水浴びしている凶獣なども居なかったのでただの水汲みしか出来なかった。食料調達はまだ頑張らないといけないようだ。


「それにしても急だねオアシスなんて」


ルーレちゃんが不思議そうにオアシスを見つめながら言うので私は真実を話した。


「まあ誰かが作ったんだと思うよ。だって不自然だし」


木の間隔があまりにも綺麗すぎるのと水場自体がそれほど大きくないこと、そもそもこの辺りには地下水源が無いのに引っ張られてきていること等を話す。


「つまり誰かがここを休憩所にする為にわざわざ水を引っ張ってきたんだよ。木の実が無いのは動物とか凶獣が寄る理由を無くすためでしょ。多分何処かとの通り道なんだと思う。だから此処で待ってみようか。きっとそう待たない内に人がやってくるからね」


私がそう言うと皆は驚いた後頷いた。さてとどんな亜人がやって来るのかな?

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