第342話 別れの日はすぐそこに
「…………」
確かにやばいやつだろうなとは思っていたけどまさかここまでやばいやつだとは思ってなかった。私の目の前に居るそれは最早山そのものである。というか大きすぎて頭部ですらまともに見えていない。広場じゃ絶対に無理だと思ったからわざわざ海まで出て来たのに想像以上である。
『…………何故話さぬ?』
「え、あぁ、驚いてた。大きいんだね」
『であろうな。我が大きさは其方の産みし命の中でも一位二位を争う程の大きさであろう』
「一応私が生み出したんだよね?魔力量的には私と同等になる筈なんだよね?」
『む?その筈だが?』
やばい、全く勝てる様子が思い付かない。というか何をどうしたら致命傷になるのかすら思い付かない。いやまあ実際に戦えば多分勝てるのだろうけども。
『あぁ、そういえば名乗っていなかったな。我が名はヨルムンガンド、ミドガルズオルム等とも呼ばれておる。幾つか呼び名はあるがどれでも構わぬ』
「えっと、じゃあムンちゃんで」
『ムン……まあ良い。我を生み出したということはフェンリルもヘルもおるのか?』
「フェンリルだけなら」
『であればヘルも頼む。我らは三兄弟……ではないのであったな。三姉妹となるのだ。あまり共に過ごせた記憶が無いのでな。このような時位は家族として過ごしたいのだ』
ムンちゃんはそう言って目を細める。というかそろそろ人型になって欲しい。首を上げるのもちょっと辛い。とりあえず私が頷くとムンちゃんは多分笑った?と思われる蛇の鳴き声を出してから私の身体の中に入っていった。
そういえば何故か創命魔法を使っていたら習熟してきたのかやたら弱い状態で生み出せるようになった。これはつまり一日に生み出せる数が増えたということだ。ゆっくりずつ増えていて今は五体生み出せる。まあこれ以上増やせる気がまるでしないが。
「じゃあ次はヘルを生み出そうかな」
私の中に眠る創命体は既に二十を超え始めていた。
そんなある日拓が聞いてきた。
「姉さん、姉さんはあっちの世界に戻るつもりはあるの?」
「あるよ?どうして?」
「いや気になっただけ。姉さんがこちらの世界で一生を過ごしたいって言うならそれはそれで良いかなって」
「……私がそう言ったら拓はどうするの?」
「僕は姉さんに付いていくよ。迷惑だって思われても絶対に付いていく」
拓の目は嘘を吐いている様子は無く、私が残ろうとしたら本当にここに残るんだろうなと思わせた。その横ではルーレちゃんが頷いていたのでこちらも同意見だろう。シェスは言葉の意味が分からず首を傾げているが日本語だったからね。そりゃ分からないよ。
「まあ戻るんだけどね。ただ戻り方は考えてるんだよ。というか戻るだけなら今からでも出来るよ」
「へ?」
「その場合何人もの人を巻き込んで異世界転生、異世界転移する羽目になるけど。あっちもこっちもどちらも巻き込んでね」
流石に拓もそれは許容出来なかったのか首を横に振る。この世界地球とあちらの世界アルーシアは近くて遠い存在だ。位相そのものが被ったり被らなかったりしていて控えめに言ってもかなり恐ろしい事になっている。何故ならほんの少し世界に穴でも開こうものなら互いが互いを飲み込もうとまるで渦潮の如く世界による引力が発生するだろう。可能な限りそれは避けたい。そしてそれを避けるだけならもう少し時間があれば出来ると思う。
「拓、ルーレちゃん、シェス……は私と一緒に居ようか。拓とルーレちゃんは別れの言葉を今から考えておいた方が良いよ。一月もこの世界に居ないから」
最近創命魔法によって生み出した子達の補填にこの世界の魔力を使っていたらこの辺りの魔力が枯渇し始めていたのだ。生み出せる数ももうあと一、二体といった所だろう。
「三週間後かな……」
私の言葉に二人が少し考えた後に頷いた。シェスは良く分かってなかったのでとりあえず頭をわしゃわしゃして抱き締めておいた。体温がそれなりに暖かくて意外と気持ち良かった。
「みどりちゃん、帰るの?」
帰る日まで二週間を切った辺りでママからそう尋ねられた。
「うん」
「そう、寂しくなるわね」
ママはそう言いながら私の身体を後ろから抱き締めた。
「みどりちゃん、何時頃帰っちゃうのかしら?」
「……二週間後くらいかな。日付は前後すると思うけど多分その辺りになると思う。三日くらい前には確定で言えると思う」
「そう……みどりちゃん一つ訊いても良いかしら?」
「何?」
「みどりちゃんは私達と過ごして楽しかった?」
「うん。皆優しくて私だけじゃなくて拓やルーレちゃんにシェスまで受け入れてくれて感謝してる。得体の知れないどころかはっきり言ってこの世界にとっては異質極まりない私という存在にも笑顔を向けてくれた。手を握ってくれた。私は幸せ者だよ」
「そう、それなら良かったわ……先に言っておこうかしら。私ってばきっとその日が来たらちゃんと話せないから」
ママはそう言ってさっきよりも強く私の身体を抱き締める。
「貴女は私達の大切な娘、幸太の可愛い妹で花奈の……姉か妹よ。私達は離れていても家族。だから元気でいてね。幸せでいてね。愛しているわみどり」
最後に私の額にキスを落としてママは照れくさそうに笑う。
「……私も大好きだよママ。でも……二週間前に言うのは流石に早くない?」
私の言葉にママは困ったように笑った。それを見て私も思わず小さく笑った。そして誓おうと思った。全てが終わった時何時になるかは分からないけれど必ずパパとママの元に戻ってこようと。
それからの日々は少し慌ただしく過ごす事になった。まず幸太お兄ちゃんが泣いた。それはもう凄い泣いた。後出来たら私達の世界も見てみたいと言われたけどそれは無理と全力で断っておいた。だってこれだけ長く一緒に居ながら私の魔力の影響を受けないってことはアルーシアに連れて行こうものなら濃い魔力の影響で即死する事は間違いない。それは家族全員に言える。だから連れて行くことは出来ないと言ったのだが幸太お兄ちゃんが納得しなかった。
「…………絶対に気分悪くなるよ?」
「いいからやってくれ!俺も魔法使ってみたい!」
「お願い!みどりちゃん!」
幸太お兄ちゃんと便乗した花奈。二人と手を繋いだ私が呆れながらほんの少量の魔力を二人に流す。みるみるうちに顔が青ざめていく二人を見てママとパパが心配そうに見ている。
「…………はい。これで終了。どうだった魔力の体験は」
「……………………最悪」
「……………………やらなきゃ良かった」
「だろうね。明らかに魔力の耐性が無い二人が耐えられる訳ない。これが日常、空気に含まれる状態なの。言っておくけど私が流した量なんて赤ん坊が持つ魔力よりも少ないからね。耐えられると思う?」
「…………」
「…………」
返事をする気力すらないようでぐったりした二人をベッドに運んであげる。治癒魔法なんて掛けたら逆効果だからね。
「……パパとママもやってみる?」
私が訊いたら二人は慌てて首を横に降っていた。その後起きた二人は私を見るなり土下座した。別に怒ってはないんだけどなぁ。代わりに私の世界での出来事を話す事になった。何故か途中から何人かが泣いていたけど泣く場面あった?
そしてそんな慌ただしくも愛おしい日々が過ぎていきお別れの時間はもうすぐそこまでやって来ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます