第341話 敵対する存在?



今日もまた広場へと向かう。今日で来た回数自体は五回目だ。暇なのかそれとも監督役なのか警察の上司らしい人だけが来ている。まだ一度も喋ったことは無いけどいつも険しい表情で私の事を見ている。

睨まれたとしてもこの人が私を……いやそもそもこの地球上に私を傷付ける事が出来る人は居ないので睨まれたとしても怖くない。というか普通に不愉快だ。一応はパパの上司となるので殺したりしないが痛め付けるぐらいは良いんじゃないかとすら思ってきた。


「やっぱり……一日に生み出せるのは……三体が限度かな」


ジズ達を生み出した時から分かっていたが創命魔法の消耗度が半端じゃない。地球には使われていない失活した魔力がかなりの量漂っているので消耗しても二日も寝れば全回復しているのだが体力の消耗だけは慣れない。こればかりは普通に休まねば治らないしそのせいで生み出すペースも一週間に一回しか出来ない。

今回生み出した子達でちょうど十体目となる。三体じゃなくて二体で生み出したり一体で生み出したりしてる日があるからだ。気分の問題とかではなくて生み出す子達同士の相性があるので同時に生み出せなかったりするのだ。まあ元々一体ずつ生み出す魔法だ。複数体同時に生み出せることがあるというだけで十分だろう。

そしてさっきからちょろちょろ動いている子達は私の事を色んな角度から見たり近寄って来て匂いを嗅いだり最後には離さないとばかりに抱き着くと小さな舌を出して手を舐めてきた。マーキングなのかそれとも私は自分の物だとでもいうのか。


「……ぺろっ…………はっ!紹介が遅れたのだ!私はハティ!月を追う魔狼ハティ!」


そう言ってようやく離れたその子はもう一人の方も引き剥がす。引き剥がされた子は「うぬぅあぁぁ……」とか言って嫌がってたけど。二人の見た目はかなり似ている。

互いに私の髪色に近い銀の髪を持ち瞳が金色の小学生かそこらにしか見えない女の子である。ちなみに私が生み出した十体は全員例外無く女の子だったのでやはり同性以外は生み出せないのだろう。という事はイル・グ・ルーのような存在でも一応女性ということなのだろうか。精神生命体のような存在の筈だが。

そしてハティによって引き剥がされた子はハティに対して不満そうな表情を浮かべながらも私にぺこりと頭を下げる。私はその二人の頭に付いている狼の耳を見てふと思い出した。いや正確には思い出したというより何か違和感がありそれで気付いたという方が正しい。


「……アルフ」


名前だけだ。見た目も声も何一つ思い出せないけれどただ一つ名前だけが思い出せた。他にも居た筈なのに思い出せたのはその人だけ。気付けば私は涙を流していたらしくハティともう一人が涙を拭ってくれていた。


「……ふふ、ありがとう」

「大丈夫なのだ。きっと思い出せるのだ。ハティが保証する。だから安心するのだ」

「うん……ハティだけじゃ心配だからスコルも保証する。きっと大丈夫。ママはあの世界に戻れる。ううん、戻す」


ハティとスコルの頭を撫でると少し先で居心地悪そうにしていたもう一人が歩いてくる。この子はどうも人との関わり自体が苦手なようだ。


「マーナガルム……です。あの……う、頑張ります」


マーナガルムの見た目はオドオドとした中学生程度に見える女の子だ。ハティとスコルと同じ狼だが二人が耳があり尻尾があるのに対してマーナガルムには何一つとして見た目に変化が無い。ただ不思議なのがどうして眼鏡を掛けているのだろう。別に目が悪いとかは無いと思うのだけど。


「マナは人と目を合わさなくて良い理由にぼやけた眼鏡を付けているのだ!」

「人見知りもここまで来ると最早病気」

「うぅ……だって……怖いよ?人って怖いのに二人が凄いだけだよ……」


マーナガルムの愛称はマナだそうだ。呼ぶのに楽なので私もそう呼ばさせてもらおう。ちなみにこの後日にフェンリルも創ってみたらハティとスコルがビクビクしていた。私がママなのは間違いないようだが同時にフェンリルも親になるらしい。良く分からないが神話的にはフェンリルの方が正しいのだろう。





そしてハティとスコルを生み出してから一週間が経過した。今回生み出す存在的に誰一人として付いてこさせなかった。正確には遠目から拓とルーレちゃんとシェスが居ることは分かるがそれ以外は居ない。というか拓達は毎回ついてきているのでカウントしてなかった。

詠唱はしない。というかすると強い状態で生み出されるのでやめておいた。別に強い状態で生み出したからと言って負ける訳では無いがどうせ最終的には他の子達と同様の強さまで成長するのだから気にする必要も無い。

そうして生み出されたそれは当たり前のように人型にはならずその場にて現界する。それだけで私に対して叛意がありますよと言っているようなものだ。その光景に拓達も異常を察してこちらに向かってくるがそれよりも早くそれが行動した。


『失せろ。塵芥程度が我が前にて立つ事は許さぬ』


その口を開いたと思ったらそこから紫色のブレスが吐き出される。私はそれを結界を張ってやり過ごす。防がなかった地面は一瞬の内に溶け腐りぐじゅぐじゅになっていた。


『ほう?我がブレスを受けて死なぬとは不思議な……!?』

「喧しい。直しもしないのに周りに被害を及ぼすな殺すぞ」


私は先程から喋っていたそいつの口を下から蹴り上げて上顎だけ吹き飛ばす。どうせ魔力で出来た身体だ。身体が吹き飛ぼうが私が生きている限り死にはしない。蹴り上げた足をそのままそいつの頭に振り下ろした。地面に当たる寸前に私が薄く張った結界に激突して衝撃を食らった後結界がキラキラと輝く薄片になってそいつの身体に突き刺さる。


『ぐあぁぁぁ!?』

「貴女の主人は私。分かった?分からないのならば分かるまでその身を切り刻んであげましょうか?」


そいつの頭をグリグリと踏み付ける。その間にも薄く尖らせた結界を身体の至る所に突き刺していく。二百本を超えた辺りで泣きが入ったのでそこでやめてあげた。というか丈夫だなぁ。


「ひっく……我……私……は……ひっく……アジ・ダハーカです……もうやらないので……やめて……ひっく」


めっちゃ泣いてる。ここまでやるつもりは特に無かったのだけど反抗心だけ凄いから思わずやりすぎてしまった。というかアジ・ダハーカは三頭竜だ。先程までは一つの頭しかなかった。どういう事だろう。


「アジ・ダハーカとしては……舐められたら……駄目だと思って……ひっく……調子に乗りました……ひっく……でも、本気でやったら……殺されちゃうかも……うぇぇん」


つまり手加減して舐めないでよね的ツンデレみたいなのを発揮したら私にボコボコにされたって事か。いや分からないって。流石の私も竜状態の人の表情まで読めないよ。暫くして泣き止んだアジ・ダハーカの頭を撫でながら話しかける。


「ん……まあ、私もちょっとやり過ぎたかもね。ごめんねアジ・ダハーカ」

「いえ、調子に乗った私が悪いので……それと呼びづらいなら好きな様に呼んでくれて大丈夫ですよ?」


アジ・ダハーカはそう言って上目で私を見てくる。アジ・ダハーカの見た目は何処にでも居そうな普通の女の子だ。高校生ぐらいか。そんな子に上目で見られているという事実に変な高揚感を感じる。このまま見られていたら思わず痛め付けてしまいそうで怖くなる。


「あぁ……じゃあ……アジ・ダハーカから取って名前を……どう取ろう?」


やばい、思い付かない。アジ・ダハーカってこんなに愛称を決めづらいんだ。初めて知ったよ。全く役に立ちそうもないけど。


「あ、でもザッハークはやめてください。あれと私同一視されること多いんですけど別に同一存在とかじゃないですから」

「ザッハーク?まあ知らなかったけど分かった……それと愛称は思い付かなかったから貴女自身が呼ばれたい名はある?」

「私ですか……では」




そうしてダーちゃんが私の中に眠ることになった。いやダーちゃんって……。

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