第340話 三頭一鼎
「……むぅ」
私が今居る場所は警察が用意してくれた広場?というか多分工事現場っぽい場所だ。勝手に使って良いのかとか思うのだけどどうも工事を請け負っていた会社が不祥事を起こして工事自体が無くなりそうだとの事。不祥事の内容が欠陥工事だったみたいだし中途半端に工事が進められているこの場所はある意味うってつけだろう。
「みどりちゃんが可愛いものを召喚?するって本当!?」
「いやいやあのみどりだぞ?格好いいやつに決まってるだろ!」
「姉さんが生み出すやつはどれも凄いやつばかりだよ。可愛くても格好良くても気に入ることは間違いないね」
「スイの生み出す子達ってまだ私しっかり見た事ないのよね。期待して待ってるわ」
「何で俺まで居るんだ……?」
「うふふ、良いじゃないですか貴方。こんなの滅多に見られませんよ」
何故か私の後ろで花奈に幸太お兄ちゃん、拓にルーレちゃんにパパとママが居る。あともう一人パパの上司らしい警察の人が居るけど何でこんなに居るのだろうか。
「あの……今日は生み出すだけだし楽しくなんてないよ?」
「「それが見たい(の)んだ!」」
花奈と幸太お兄ちゃんに力強く宣言されてしまった。本当に生み出すだけなんだけどなぁ。それに今回ので終わりじゃなくて何体も生み出す予定だからそこまで気にしなくてもいずれ見る機会もあるだろうに何故そこまで力強いのか。
「ふぅ……まあ分かった。とりあえず危ないから下がっててね。踏まれて死ぬとか嫌でしょう?」
「「え?」」
「言っておくけど私が生み出す子達はベースのイメージこそ私だけど実際の大きさや性格は決めてないからどういう風に動くかとか分からないからね。餌かと思われて喰われたり私の敵かと思って踏まれてもおかしくないよ。それにそもそも私の味方かも分からないし」
創命魔法はその名の通り命を創る魔法だ。別に味方を創る魔法じゃない。私のイメージ次第では敵対する命が生まれても何らおかしくない。まあその場合は魔法を解除して殺すだけなんだけど。
私の言葉を聞いた二人は大人しく後ろに下がった。パパが二人の首元の服を掴んでいるから生み出した後に突撃して来ることは考えなくて良いだろう。なので私は魔力を練り上げ始めた。創命魔法は注ぎ込んだ魔力の量で力量が変わる。なので今の私が出せる全力で生み出していく。消費した魔力は大気の魔力を取り込んでいく。幾ら失活状態だろうが幾らでも起こす手段はあるからね。まあそんなこと出来るのは私限定だろうけど。
「……空を象徴する気高き獣、其の大いなる翼は太陽をも隠す。天を覆い隠す気高き獣、地上の全てを睥睨する。
私が生み出した子達は即座にその身を人の姿へと変貌させていく。有難い。君達がまともに生み出されたらこの辺り一帯が吹き飛びかねないからね。自主的に変わってくれて何よりだよ。
「…………すやぁ」
「おい、寝るな地の。此度の我らの創造主の前ぞ」
「地のは仕方ない。こやつは何時もの事じゃ。それより我らだけでも挨拶せねばの」
三人の美少女、美女が私の前で話し合っているけどなんかおかしいなぁ?私少なくとも一体はオスのつもりで生み出した筈なんだけど……もしかしたら今までの創命魔法の経験からして私は女性型しか生み出せないのかもしれない。というより同性しかというべきか。
「では改めて創造主よ。我は空を象徴するもの。本来の姿で挨拶するべきなのであろうがそれは今は勘弁を。この場にて降り立てば創造主と他二名は無事でもそれ以外はほぼ間違いなく死に絶えるが故に。御身の前でありながら偽身にて挨拶する事をお許しくだされ。我の名はジズ。これより御身の為にこの力を捧げてゆきます」
そう言って挨拶したのは三人の中では高校生程度に見える女の子。髪に鳥の羽飾りが付いていて知的な感じの雰囲気とのギャップが可愛らしい。羽飾りの色は三色あって赤と青と白の色だから元の姿も恐らくそんな感じの色の羽を持つのだろう。
「我は海を象徴するもの。空のと同じくこの場にて偽身で挨拶する事をお許しを。名はレヴィアタン。御身の為にこの力を捧げる事を誓おうぞ」
その隣で同じく高校生、もしくは大学生に成り立てと言ったくらいの女性がそう自己紹介する。腕輪をしていて鱗らしき物が幾つも付いている。美しく深い青色で彩られており元の姿が凄く気になる。
「地を……象徴するものです。名は…………ふわぁ。ベヒモス。御身の為に……zzz」
一番自由気ままに過ごしているのがこの子だ。最初から寝た状態で現れてそれ以降も我関せずとばかりに身動き取らなかったけど二人からべしべし叩かれて起きていた。けど自己紹介の途中で再び寝始める。それを見た二人は頭を抱えていたけどこれはこれで面白いから良いと思う。
ベヒモスは本来かなり大きい筈だけど人型になった時一番小さかったのもこの子だ。どう見ても中学生位にしか見えない。この子は本来の特徴らしい特徴が全く出ていなくてこれだけでもジズやレヴィアタンより魔力の操作が上手いことが分かる。それなら何故他二人と年齢を合わせなかったのかとか思うけど。
とりあえず三頭一鼎の存在として生み出したけど別に出す時は毎回三体出てくるとかそういう訳では無い。というか関連付けしただけでケルベロスやヒークと同様普通に生み出したのを三体連続で出しただけだ。何故かと言うと毎度毎度全力で力を注ぎ込むと一体生み出す度に気を失いかねないからだ。だから今回は全力の魔力を三分割して渡してある。器の大きさ自体は私の魔力と同じように調整したから自動的に大気の魔力を吸って成長してくれることだろう。
「…………とりあえず今日はこれが限界かな?」
身体がぐらつきそうになった所を拓とルーレちゃんが支えようと走ろうとして凄まじい速度で近寄って来たジズが私の身体を支えた。
「御身は疲れておいでのようです。今宵は大人しく眠りましょう。眠れぬのならば我が寝歌でも歌って差し上げます故」
ジズの胸がそれなりに大きくて抱き締められている頭が心地良い。包容力が無駄にある子だ。胸に頭を埋めていると幸太お兄ちゃんの悲鳴が聞こえた。何かは分からないけど多分馬鹿な事を言って花奈かパパ辺りに殴られたんだと思う。
「空のよ。創造主殿を頼むぞ。我は地のと同じく創造主殿の内にて休むこととする。何かあれば即座に出る」
「頼まれた。御身よ、失礼します」
レヴィアタンがベヒモスを連れて私の身体の中に潜り込むと同時にジズが私の身体をヒョイっとお姫様抱っこをする。恥ずかしいけれど創命魔法の反動が大きくて暫く動けないのだから仕方ない。
「姉さん大丈夫?」
「創造主は魔力の使い過ぎによる疲労で倒れているだけ。命に関わるような状態ではありませぬ。心配めされるな」
ジズの言葉に小さく頷く。それを聞いた拓はほっとした様な表情を浮かべた後ジズから私を受け取ろうとしたけどそれだけは何故か全力でジズが拒否をした。
「創造主の弟君とあれどこればかりは譲りませぬ。御身を守護するこの栄誉は誰にも渡せませぬ」
ジズは相当私に入れ込んでいるようだ。献身的を過ぎて忠誠、いや盲信とかと言っても良いのかもしれない。
「あ、うん。そっか」
若干拓が引いているけど拓も似たようなものなのだけどなぁ。同類を見ると変な気分になるのかもしれない。
「詠唱をした後に生まれてきたのは美少女、美女……!妹よ!何処まで属性を増やせば気が済むんだ……っ!」
とりあえず馬鹿な事を言っている幸太お兄ちゃんは無視しよう。あ、花奈に脛を蹴られてる。
「ジズ、とりあえず皆の所にお願い」
ジズが頷いて歩き出した所で私は背後を振り返る。ほんの少し、一秒にも満たない時間現界したジズ達三体の誕生した場所を見る。そこには三体の凄まじい重量によって耐えるという言葉を忘れた地面が陥没していた。
「……(次生み出す時は地面を補強してから生み出そう)」
一人そう本気で思った。
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