第339話 コンビニ
救急車に乗って病院に向かった後、病院の入口で待っていると暫くしてパパが慌ててやって来た。連絡を聞いた後すぐに車で飛ばして来たのだろう。
「大丈夫か?」
「うん!みどりちゃんが凄かったんだよ!こうずばばって!」
「お、おう。それでみどり殺してないな?」
「ん?殺してないよ」
パパに花奈が身振り手振りで説明している中、パパが小声で私に問いかけてくる。確かに殺していたら面倒な事になっていたのは間違いないだろう。だからと言って私が確実に殺さないとは言い切れないから心配になったんだろうね。
「そうか……というかどうしてこうも面倒に巻き込まれるんだ?そういう星の下にでも生まれてきたのか?」
「そんな……ことは無いと思いたい。私だってしたくてした訳じゃないもん。ただ面倒だと思いっ切り殴り飛ばしたくなるだけで」
トラブルメーカー呼ばわりされたけど大半は私の方に勝手にやってくるだけだ。私から起こしたトラブルなんて……割とある気もするけど今回は違う。関係の無い事まで自分のせいにされるのは嫌だ。
「とりあえず帰るぞ。ここに居ても仕方ないからな」
「あ、待ってパパ。悠くんと圭くんのお見舞してからでも良い?」
「悠くんと圭くん?誰だ?」
「私達をナンパしてカラオケに行った男の子かな?名前まで覚えてなかったけど。一応今回の事件?の被害者になるよ」
「……色々言いたいがまあそれくらいなら良いだろう」
「大丈夫!安心してパパ!二人の事を彼氏にとかは思ってないから!」
「……そうか」
パパが複雑そうな表情で頷く。私も何と返したら良いか分からなくて思わず病室に居るであろう二人に同情した。
そう話していたら看護師さんに聞いた病室に着いた。扉を開けると男の子達が湿布やら包帯やらをされていた。包帯を見た花奈が心配そうに近寄る。
「あ、二人とも大丈夫だった?ごめんね。僕達何の役にも立たなかったや……」
「悪い。怖かったよな。助けてあげられなくてごめん」
二人の男の子、悠くんと圭くんは私達の姿を見ると頭を下げる。ちなみにどっちが悠くんでどっちが圭くんかは私には分かりません。というか名前名乗ってたかなあ?多分したんだろうけど適当に流しちゃったのかもしれない。
「そんな事ないよ!弱くてもあんまり何も出来てなくても格好良かったよ!みどりちゃんが格好可愛過ぎるだけなんだから二人は気にしちゃだめだよ!」
花奈、それフォローなの?どちらかと言えばトドメな感じがするけど。あ、二人が凹んだ。
「まあ……うん、花奈の言う通りじゃないけど弱くても勝てないって分かってても立ち向かおうとするのは格好良かったと思うよ。もしも次があったらその時の為に身体を鍛えておいた方が良いとは思うけど」
私の言葉に二人が頷く。個人的には二人がすごく強くなって花奈とそれなりに遊ぶ友達になってくれたら有難いんだけど。私がいなくなったら花奈やパパ達を守る事が出来ないから。創命魔法で適当に作った子を渡すという事も考えたけど恐らくこちらの世界で活動するのにあたって必要な魔力を得られないだろう。この世界の魔力は飽和状態であるにも関わらずほぼ全てが失活状態で役に立たないからね。
二人とはその後暫く話した後帰ることになって病室を後にする。何やらパパが少しだけ個人的に二人と話をしたいと言って病室に戻ったけど私は聞いてません。私とか花奈を大切にとかそんな話は聞いてません。
「コンビニに寄っていいパパ?」
車で家に帰っていると花奈がパパにそう声を掛ける。パパはそれで察したのか最寄りのコンビニに止まる。花奈が何故か私の腕を取って中に入ろうとするので仕方無しに付いて行った。
何だろうと思っていたら御手洗だった。成程、というかパパもあの言葉で良く理解したなと思う。こればかりは二人が親子として過ごしてきた時間による積み重ねだと思う。ちなみに私は扉の前で門番よろしく待機しているだけです。私いる?
少しの間待っていると挙動不審気味な男がコンビニに入って来た。パパも職業柄なのかそれには気付いたようでコンビニの中に入って来た。私とパパは目配せをするとその男に近寄ろうとするが男の行動の方が早かった。近くに居た小さな女の子を掴んでその首にナイフを突き付けたのだ。
「おい!!か、金を出せ!!それに詰め込め!!早くしろ!」
男はそう言ってレジに鞄を投げる。店員さんは戸惑いながらも男の声に急かされるようにお金を出して入れていく。けど焦っている……ように見せて店員さんはわざとお金を外に落として拾い集め始めた。完全な時間稼ぎだろう。とはいえ男の周りには人が居ない上に女の子の首にナイフが突き付けられているせいで助けようにも助けられない。
パパもそれは理解したのか睨むだけで行動に移せない。御手洗から出て来た花奈は良く分からないままに私の傍に近寄ってきた。
「みどりちゃんなら何とか出来る?」
「……まあ出来なくもない」
ぶっちゃけ男が反応出来ないくらいの速度でその腕を叩き折ってやれば行けるとは思う。ただし人の目が多すぎて目撃者多数になるだけだ。
「みどりちゃんお願い。あの子を助けてあげて」
花奈が私に頼み事をする。その表情はパパにそっくりで思わず笑みを浮かべる。
「任せて。格好可愛い私が全部解決してみるよ」
花奈の影に隠れるようにして御手洗の近くまで下がると私は魔力を練り上げた。
「
私は二つの力ある言葉を使って私の虚像と私自身の存在を限り無く薄くした。これで監視カメラは誤魔化せるだろう。
普通に制圧しても良いのだがそれだと私がわざわざ虚像を生み出した意味が無い。花奈には可能な限り血みどろの世界は見て欲しくない。となると花奈に言った通り格好可愛い解決方法しかないだろう。そして花奈の格好可愛いの定義が微妙におかしいことも私は知っている。
ならやることは一つ。私は魔法で自分の身体に幻影を被せていく。細部までしっかりしないと違和感が生まれてしまうし花奈は絶対に気付く。それにナイフを突き付けられている女の子もきっと喜ぶだろう。
細部までしっかりした私は男の前に跳躍して右手に持った星型ステッキを突き付ける。そして口上を述べた。
「人の世界に悪い心が蔓延る限り私は何処にでもやって来る。煌めく世界の為にも悪い心はお仕置きするよ!魔法少女ハートブレイカー!貴方の心を打ち砕きます!」
魔法少女コスチュームの私を見て男は呆然とした。ついでに花奈と女の子と少し離れた所にいた知的な感じのOLさんが黄色い声を上げた。
「え、あ、な、なんだお前!」
「私の名前は魔法少女ハートブレイカー!悪い心を打ち砕く正義のヒロイン!さあ女の子を離しなさい!じゃないとマジカルステッキでポカポカしちゃうんだから!」
私はそう言って星型のステッキ、マジカルステッキを男に再度突き付ける。男が戸惑っているので私は仕方なく口上を先に述べる。
「そう、離さないんだ。私がこんなに穏便に済ませようとしているのに……。もう怒っちゃうよ」
私の台詞に花奈とOLさんが小さく思った以上に更に短気だった!とか驚いているけど男の人どうもハートブレイカーの事知らないみたいだし仕方ないじゃん。
「煌めく世界を作るために私は悪い心を打ち砕きます!マジカルステッキ!エボリューション!ピコットハンマーフォーム!」
マジカルステッキを大きなハンマーのように変化させていくと男の顔が青ざめていく。しかしそこで男は女の子を更に引き寄せてナイフを突き付ける。
「星の光は大地を照らす。大地の熱は日々を照らす。海の輝きは世界を照らす。人の心は未来を照らす。万象の光でもって悪しき心を打ち砕け!」
私はそこまで詠唱をすると男に向かって駆け出す。男の腕が動きそうになった時私が魔力で動きを止めた。流石にハートブレイカーには相手の動きを止めるとかの力は無いからね。動かない腕に男の顔が引き攣った時に女の子が自力で脱出……したように男の身体を操って無理矢理見せ掛けた。
「悪い心さん!次は善い心になるんだよ!必殺!ハート!ブレイク!インパクトー!!」
男の身体をハンマーで打ち据えた。ちゃんと力加減はしたから天井まで吹き飛んだだけだよ。気絶してるけど。
「一件落着!」
その瞬間私の胸に付けているように見せている赤い宝石が黒くなっていく。
「いけない!もう変身が解けちゃう!。ごめんね、皆!私もう居なくならなくちゃ!」
魔法少女ハートブレイカーって何故か活動時間が限られているんだよね。これって多分有名な巨大化するヒーローのパクリだと思う。慌てた私に女の子が近寄ってくる。
「……お姉ちゃんありがとう!」
「うん、助けられてよかったよ。今度は気を付けるんだよ」
私が女の子の頭を撫でると女の子は笑顔で頷いた。それを見た私は少し離れる。
「それじゃ皆バイバイ!危ない事には出来るだけ関わらないように!それと悪い心にも染まっちゃだめだよ?じゃあお別れ!会わないことを祈っておくよ!」
私はそう言ってマジカルステッキを振ると星型の光がキラキラと周りを煌めかせて見えなくなったところで私は全力でその場を離脱した。もう二度とやりたくない。恥ずかしいよこれ。
元の位置に戻った私はとりあえず花奈の背中に隠れてコンビニを後にした。花奈は私がやったと分かっているから苦笑い気味だ。でも花奈もあの子も何故かOLさんにも楽しんで貰えたようだから良いとしよう。
その後後始末をしたパパに散々に怒られた。花奈が助け舟を出してくれなかったら家に帰るまでどころか家に帰ってからも怒られていたかもしれない。ありがとう花奈。
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