第337話 あれも回収しないと



「…………むぅ」


ソファでゆったりと座り……というか最早だらけているとしか思えないほどぐったりとしながら私は呻く。指先をふわふわと適当に動かしながらああでもないこうでもないと悩む。


「どうしたみどり?」


幸太がそんな私を見て不思議そうに尋ねながらひょいっとくまのぬいぐるみを私の上に、正確にはだらけていたせいで見えそうになっていた胸の上辺りを隠すように置く。


「幸太お兄ちゃんってゲームとかアニメとかに詳しい?」

「ふっ、俺に語らせたら中々終わらないぜ?というかいきなりどうした?」

「実際にゲームとかアニメの話が聞きたい訳じゃないんだけどね。神話とかに出てくる人外系の生物って語ることとか出来る?」

「ん?いやまあそれなりには語れるとは思うけど何で?」


幸太が意図が読めないのか首を傾げる。


「作ろうかなって」

「???」


私の言葉に更に困惑したようだ。そんな時に拓が玄関から戻って来た。拓には私の力の回収に向かわせていたけどどうやら感じる感覚としてはほぼ全ての力を回収したようだ。後の残りは回収出来ないほど希薄な力として世界のどこかに漂ってしまっているのだろう。その程度であれば世界に影響も無いと思うのでこれで一旦力の回収作業は終了としても良いと思う。


「姉さん戻ったよ……って幸太兄さん。姉さんの胸を見たね!記憶が飛ぶまで殴るしか……!」

「はいはい、どうどう」


拓が私の姿を見て即座にどういう状況になったのかを理解して幸太に飛び掛かろうとした瞬間拓の後ろから出てきたルーレちゃんに押さえ付けられる。シェスはそんな二人の後ろから我関さずとばかりにちょこちょこ入ってきて私に回収した力を渡してきた。


「ねえちゃ、これで完全?」

「うん、ありがとうシェス」


シェスの言葉は日本語では無いので返答も日本語ではなくあちらの世界の言葉だ。まあ日本語の方も片言でも覚え始めているみたいだ。恐らくは私が再びこちらの世界に戻って来たとき用に覚えたいのだろう。

そんな健気なシェスのことを覚えていない事に罪悪感を感じる。私の記憶はイルゥ、もといリュミが死んだ以降の記憶を持ち合わせていない。どうやって魔の大陸から出たのかすら分からないのだ。シェスとは恐らくは戻って来た悠久大陸の何処かで出会っているので覚えていないのだろう。

シェスの頭を撫でながらぬいぐるみ越しにシェスの事を抱きしめる。……くまのぬいぐるみがそこそこ大きいせいで普通に邪魔だが気にせずに抱き締める。シェスが嬉しそうに笑う。拓がそれを見て更に飛び掛かろうとしてルーレちゃんに地面に押さえ付けられる。どうでもいいけど床に押し付けすぎて壊さないようにね?二人の力なら普通に壊せちゃうから。


「あ、それで話の続きなんだけど作りたいから神話とかに出てくる人外系の生物の事を教えて欲しいなって」

「姉さん!僕がそれを教えるよ!創命魔法でしょ!特徴とかなら僕も教えられるよ!」


拓が幸太に対しての対抗心からか名乗りを上げる。ルーレちゃんは最初からそういったものには私と同様お手上げ状態なので拓を離した後はもう一つのソファに座りながら指輪からコーヒーを出して飲んでいる。……指輪から?


「拓ちょっと黙ってて。ルーレちゃん」

「何かしら?」

「指輪だよねそれ」

「?そうよ。スイも持っているんじゃないの?」

「無い」

「…………え?」

「忘れてたから仕方ないのかもしれないけど……指輪もグライスもティルも無い」

「……それって大丈夫じゃないわよね?」

「かなりやばい。指輪とか特にやばい」


私の言葉に拓が反応する。


「姉さんの指輪の中って何が入ってた?」

「……大量の魔物の死体、後大型の魔物とかその他諸々の魔導具とか私が作った鉱石とか適当武器とか防具とか食べ物とかとにかくいっぱい」

「具体的にどの位の量か分かる?」

「……魔物の死体だけで首都が壊滅するかな?」

「姉さん指輪ってどれくらい魔力込めなくても持ってくれる?」

「…………計算したら多分後二週間くらいで保存期限来るかな?」

「急いで探そう!」


拓が慌てて外へと飛び出す。それを見てルーレちゃんも頭を抱えながら私に問い掛ける。


「スイ、どうせ貴女の事だから何とかする方法あるんでしょ?」

「どうして分かったの?」

「拓をからかってる時の顔してたから」

「むぅ……流石にルーレちゃんには隠せないかぁ。まあ実際に指輪の保存期限の事は忘れちゃってたから焦っているのも間違いじゃないんだけどね」


私はそう言いながらも魔力を練り上げていく。それを薄く伸ばしてひたすらに練り上げていき制御の素因も使いながらひたすらに膨大な魔力をこねこねしてから輪のようにするとそれを一気に全方位に解放する。魔力が必要なだけなのでこうして解放して魔力が吸われればそこに指輪があるということだ。グライスやティルも魔力を吸収するだろうしすぐに見付かる事だろう。

十分もすると三つの反応が全く同じ所から返ってきた。場所は……警察署のようだ。残念な事にパパの職場ではないようだが。まあ何かは分からなくても短剣と羽で出来たマントと指輪が一所に置いていたら全部一緒に回収するよね。見付けた人が警察署に持って行ってくれてて有難い。


「うん。見付けたから取りに行ってくる。ルーレちゃんは……幸太お兄ちゃんから話を聞いておいて欲しいな。あ、一応花奈とかにもどんなペットが欲しいかみたいな話はしておいて」

「分かったわ。行ってらっしゃいスイ」


ルーレちゃんに見送られながら私は靴を履いて外に出る。外に出るとすぐにからかわれてる事に気付いたのか拓がむすっとした顔で私を見ていた。それを見て私は小さく笑うと拓に手を伸ばす。


「一緒に行こっか」


拓はむすっとした顔だったけど差し出した手に素直に手を乗せる。私は拓の腕を掴んで引き寄せると腕を組んで拓の肩に頭を乗せる。


「拓、ありがとね」

「何に対してかは流石に分からないけど……僕は姉さんの為に動いているけど姉さんがそれを気にする必要は何処にも無いんだよ。僕は僕の為にも動いているからさ」

「うん、知ってる。でもありがとね。あと拓が望むならフェリノとの縁も繋ぐから」

「ぶふっ!!な、なんで!」

「拓は素直じゃないからね。そこが可愛い所だけどフェリノは素直だからツンデレ気味にするともしかしたらフェリノも傷付いちゃうかもしれないしそれを見て拓も後悔しちゃったりするかも。そうなったらお互い不幸でしょ?私だけだと心配ならルーレちゃんにも手伝って貰うから安心してね」


私がそう言うと拓は顔を真っ赤にして否定しようとして否定したら可哀想とか恐らくは思って何も話せず口をパクパクさせている。そういう素直じゃない所も可愛いと思う。


「でも今は私とデートだからね。拓にはしっかりエスコートして貰わないと」


グイッと拓の腕を掴むと少し早足で歩く。拓が慌てて付いてきてエスコートするように私の前を歩く。警察署までは電車等を乗り継げば二時間程度掛かるが私達の足ならそう時間は掛からない。私達は比較的ゆっくり、常人からしたら目を疑うような速度で歩いて行った。あ、ちなみにちゃんと認識阻害の魔法は使っている。都市伝説化するつもりは無い。

そうして着いた警察署で私達は捕まった。パパから私の事で連携を取った警察署だと聞いていたので大丈夫かと思って素で中に入ろうとしたら怒られたのだ。私の事を知っている上司らしき人が来るまで私達二人は婦警さんに説教されていた。上司の人は慌てていたけど私からしたら怒られる事をしたから怒られたという感じなので責めないであげてほしい。むしろ久し振りに本気のお説教を食らって新鮮な気持ちになっていた。


「怒られちゃったね」

「怒られたね」

「まあ普通に何も言わずに警察署の奥なんか行こうとしてあまつさえ階段を勝手に上がろうとしたらそりゃ怒るよね」

「入っていいわけがないよね。僕も止めるどころか普通に入りそうだったし」

「申し訳ありません。あの子はまだ貴女達のことを知らなくて」

「いや怒ってないよ。むしろ楽しかったし責めないであげてね。当然の事をしただけなんだから」

「そう言って頂けると有難いです。それで……短剣等を回収しに来たとの事ですが」

「ん。何時回収したのかまでは知らないけど短剣と羽のマントと指輪があると思うんだよね。それを回収しに来たの」

「それでしたらあちらの部屋にあります」


上司らしき人に案内された場所には短剣とマントと指輪がまるで祀り上げられるかのように安置されていた。


「…………うちの道具達が失礼しました」


私は上司らしき人に頭を下げた。これほぼ間違いなくグライスが無造作に置かれるのが嫌で暴れたでしょ。無駄にプライドが高いんだから。

上司らしき人は少し疲れが滲む顔で笑う。申し訳ないからこっそりと疲労を癒してから回収した指輪から梨っぽい果物を取り出して渡しておいた。美味しく食べてください。

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