第336話 決意
「姉さーん、おはよう?」
「………………寝ている姉のベッドに入り込む弟ってどう思う?」
「叩き出されない分信頼されているし愛されてるなぁって思う」
「そっか。じゃあ叩き出すね」
ゲシっと拓を蹴り飛ばした後ベッドから起き上がり縁に座る。久し振りに会えたからか弟の愛情表現が酷くなっている気がする。いや気がするというより確実に酷くなっている。前はベッドにまでは入って来なかった。蹴落とされた拓はクッションを掴むとそれに座った。
「はぁ……それで終わったの?」
「うん。とりあえず全員殺したけどそれで良かったよね?」
「大丈夫」
「悪事の証拠とかは集めてパパさんに渡しておいたから。あの二人は一応今は警察署に居るよ。記憶を消すにしても消さないにしても姉さんがやった方が良いだろうし」
「分かった」
「それとこの家って」
「ん、私の……家族になってくれた人達の家かな」
「そっかぁー。だからなのか。僕が来た時も凄い歓迎されたんだよね」
拓がその時の事を思い出して苦笑する。花奈辺りは確かに凄い歓迎しそうではある。幸太はどうだろう?異世界転移物来たぁーとでも叫んでそう。ママは……いつも通りほわほわしてるかな。
「昨日の内に来たの?」
「いや、夜中に来るのもどうかと思ったから流石に朝に来たよ。姉さんは寝てて起きなかったけどもう昼だからね」
「……まあ、昨日は色々とあって疲れたから」
「何となく想像ついたよ」
そうパパに連れられて帰ってきた家では花奈には泣き付かれママからお小言を少し貰ったあとは抱き締めてお帰りなさいと言われて幸太は頭をぽんと撫でてお帰りと言われた。それだけで居てもいいんだって思えて少しだけ泣いてしまった。
まあそれ以降は色々と話をした。私がどんな存在なのかどんな事をしてきたか覚えている限りの全てを話した。家族には隠し事をしたくないと思った。
「色々あったのねぇ。あ、紅茶お代わり入れるわね」
とはママの反応。いやいくら何でもその反応は無いと思う。でも実際にママはそう言って紅茶を入れた後は私を膝に乗せて頭をずっと撫でていた。物凄く調子を狂わされたとだけ言っておく。
「リアル異世界少女で魔法少女で吸血鬼の姫……だと。しかと転生者で可愛くて頭も良くて可愛くて俺の義理の妹になるとか……そうか。俺の物語はここからだ!」
始まらないです。幸太に特別な力は特に感じないし魔力も持ってないです。転生してきたらチャンスは無くはないけど転生自体そんなに行われるものでは無いだろう。そもそもそんなことで死んで欲しくない。
「……ん〜?よく分かんない!」
分かって。頼むから分かって?結構説明したよ?懇切丁寧って言葉が合うくらいがっつり説明したよ?花奈って頭はいい筈だよね?どうして理解してくれないの?私の説明下手だった?
「…………なんかすまんな」
パパに謝られちゃった。まあ普通の反応ではないよね。私が家出したことには反応したけど魔法とか人を殺したこととかに対しての反応殆ど無かったしね。ママは理解した上で流してそうではあるけど幸太と花奈は多分違うよね。
「それよりみどりちゃん、魔法を使ったら魔法少女になれるの!?え、なら魔法少女ハートブレイカーにもなれる!?」
花奈がそう言って私に抱きついて来る。私そのアニメ知らないけどその魔法少女は本当に魔法少女なの?ハートブレイカーって物理的に
「なら異世界物のお決まりである獣人にもなれるのか!え、ちょ、猫耳と犬耳と狐耳と熊耳のパターンとか見せてくれ!それでちょっとポーズを!」
幸太は落ち着こう?早口過ぎてちょっと何言ってるか分からないし興奮しすぎでちょっと怖いから。
「あら?ならメイドさんとかの服装も出来ちゃうのかしら?ちょっとママ、みどりちゃんのメイドさん姿とかドレスを着たお姫様姿とか見たいわ」
あれ、ママもなの?皆して異世界に対しての反応軽くない?パパなんて最初に言った時結構驚いてたよ?多分パパの反応が正解だよ?それでいいの?
「だってみどりはみどりだろ?別にそれで変わるわけじゃねぇし」
「みどりちゃんは私の妹だもん。変わらないよ?」
「可愛い娘よ?ママはどんなみどりちゃんでも受け入れるわ」
三人に気負う所など全く感じなくて本気でそう思っていることが分かって私は涙を流してママに抱きついた。抱きついたらママにぎゅっとされてそれがまた暖かくて私はそのまま寝入ってしまった。泣き疲れて眠るなんて初めての経験だったので起きるのに時間が掛かったのだろう。
「まあ良い家族だよね。姉さんが大切にしたがってる意味も分かった気がする」
拓はそう優しく言うと立ち上がる。
「それより聞きたいんだけどね拓。どうやればあっちの世界に戻るのか手段はあるの?」
「あはははは……ごめん、無い」
「ん、だと思った」
「でも戻っていいの?ここの家族は良い人達だよ。あっちの世界に戻ったらもう会えなくなる。転生や転移で来るなんて信じてるの?」
「ん?流石にそんなこと思ってないよ。私から会いに行くだけだよ。憂いなく会えるようにしたいから、だから私はやり残したこと、やりたいこと全部やってこっちの世界に改めて戻ろうと思うんだ。だからといってあっちの世界を蔑ろにするつもりなんてないけどね」
そう言うと拓の頭を撫でる。
「拓、私ね。本気で頑張ってみようと思う。今までも別に本気じゃなかった訳じゃないけどどこか真剣味が足りなかった。体調がずっと悪かったから仕方ないのかもしれないけどそれを置いても本気だったかと言われたらそうじゃなかった。でも目的が出来ちゃった。だから私頑張るよ。拓も手伝ってくれる?」
「うん。姉さんの望む通りにして。僕は姉さんに従うよ」
「ありがとう。ならまずはこの世界からあっちの世界に渡る為に色々としないとね。早速だけど拓、お願いがあるの。ルーレちゃんと協力して私の力を集めてきて。私は私なりに力を増やしてみる」
「分かった」
拓はすぐに返事をする。私はそれに対して笑みを返すと拓の頭を撫でていた手を止めて拓の腕を取る。
「それじゃあまずは食事からしましょう。そろそろ花奈が起こしに来るからね」
「みどりちゃぁ〜ん」
私の言葉に合わせるかのようにタイミング良く花奈の声が階下から響いてくる。拓と二人少し笑うと一緒に降りていった。食卓にはルーレちゃんやシェスも着いていて何だか不思議でそれでいて暖かくて私は小さく笑った。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
花奈の問いにそう返す。そう、なんでもないこんな日を私は求めてるんだ。だからその為に全てを終わらせよう。未来にこんな日を続かせる為に。
「……頑張ろう」
私の言葉は誰にも届かない。私だけに届けばいい。さあ少しばかり本気で頑張ってみよう。どんな手を使ってでも私はこんな日を掴んでみせるよ。
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