第335話 二人に任せた
「う、んぅ?」
頭が痛い。鐘がずっと間近で鳴り響いているみたいにズキズキする。気持ち悪くて吐き気もするしいっそ頭を交換したくなるぐらい酷い。
「あ、起きた。ルーレ、シェス一応警戒ね」
黒髪の少年、というより私の弟である拓也が二人に話しかけている。ルーレは覚えている。私の幼馴染である湊ちゃんのあちらでの転生体だ。もう一人の少年は分からないけれどこちらも知り合いなのだろう。
「拓……」
「姉さん僕の事が分かるの?」
「今何時?私が気を失ってから何分経った?」
「え?えっと、多分十分か十五分程度かな?僕達も時計とかは無いから正確な時間はちょっと分からない」
「そっか。ん、頭痛いけど……拓、ちょっと周りの後始末とかお願いね。ちょっと急いでるから私行くね」
私の言葉に対して拓からの質問が来る前にさっさと車を回収すると飛んで戻る。私に無駄な時間を使わせた挙句にパパとの約束を破らせるなんて地球の神に対して凄く腹が立つ。
しかも私が意識を戻したことに気付いたのか何らかの干渉を行おうとしてくる。酷く気持ちの悪いその気持ちは最初から感じているものだ。
「あ……あぁぁ……」
私の様子がおかしい事に気付いたのか拓が慌てる。
「……私の、私の身体を!勝手に触るなぁぁぁぁ!!!!」
私の怒りの咆哮に魔力が一気に溢れて周りを染めあげて行く。そして私はその溢れる魔力を束ねると私を操ろうとするその糸の出処に向かって拳を振るった。当然この世界どころか次元すら異なる場所だ。攻撃なんて当たりはしない。けれどその糸の出ている場所は一気にひび割れ世界に悲鳴を上げさせる。
空間が軋み歪んでその様相を変貌させていく。この世界では決して有り得てはいけないほどのその魔力の行使はかなりの負担が掛かったらしく周りの空間が歪んでこの世界とは異なる理によって支配されていく。けどそんな抵抗すら私の魔力が壊して潰していき、最後にそのひび割れの中心部、より正確にはその内部へと魔力を叩き付けると糸がようやく切れた。
「……ふぅ、スッキリした。あ、じゃあそろそろ行くね。話がしたいなら私の用事が終わってからだよ。またね」
私はスッキリした気持ちのまま拓達と離れてさっさと車を回収して戻って行った。パパ達を待たせる訳には行かないしね。
「……え、えぇ?」
拓のその変な声が聞こえた気がしたけどその場を私はもう離れていたのだった。
パパ達と合流するとパパが少しだけ心配そうに私を見る。
「少し遅かったが何かあったのか?」
「ん、あったと言えばあったけど心配するような出来事じゃないよ」
地球の神の目的自体は良く分からないけど別に害意あっての事でないことは分かる。というか本当に害意があるのならば私が記憶を失って此方に来た時点で消し飛ばしているだろう。いやその前にこの世界に渡ることすら許さないか。地球の神ならば転移自体を止めることすら出来るだろう。
「服装とかも汚れているし本当か?」
「あぁ、うん。とりあえずぱぱっと。大丈夫だよ」
パパの言葉にようやく汚れていた事に気付いたのでさっと魔法で綺麗にした後再度パパを安心させる為に微笑む。実際本当に何も無いからあまり心配させるのもどうかと思うし。
「ね、姉さん」
拓が急いで来たのか息を切らしながら空から飛び降りてくる。しっかり認識阻害を掛けながら降りてきたようでパパ達はいきなり現れたように見える拓にビクッとしてる。なので拓の頭をペちっと叩く。無意味に怯えさせないの。
「その何かの原因だよ。拓也っていうの」
「えっと、初めまして?拓也だよ。姉さんの弟なんだ」
パパは拓の顔を見て一瞬怪訝そうな表情を浮かべた後私の弟という言葉でようやく分かったらしい。顔が引き攣っている。けど何も言わずに苦笑いで迎えた。拓はなぜそんな表情をされているのか良く分からず首を傾げていた。
「あら、お久しぶりです」
「あ、原因その二だよ」
「原因って……まあその通りだけど」
ルーレが不満そうに顔をむくれさせる。パパとは会ったことがあるみたいで挨拶をしていたけどパパが今度は分からないようだ。
「湊ちゃんだよ。私の幼馴染」
そう言うと納得した後ため息を吐いた。まあ私の事件?を知っているならそういう反応も仕方ないとは思う。
「???」
シェスも降りてきたけどそもそも言葉が分からないせいで首を傾げていた。あ、さっきまでのシェスはあっちの言葉だけど私がそれを知っていたから話が通じてただけね。私の言葉自体は日本語だったから通じてなかった可能性が高い。翻訳魔法みたいものは実は滅茶苦茶難しいのでシェスに言葉を通じさせるのは出来ない。出来たとしてもそれが正しく伝わるかは微妙だ。付きっきりになって動けなくもなるし。
「まあ原因その三だけど言葉自体通じないのであまり気にしても仕方ないよ。通訳だけなら出来るけどこの子自体どうも話自体が苦手そうなので気にしないで」
シェスの事は唯一私が覚えていない子なんだけど幼馴染と弟がわざわざ連れてくるのだ。それを信じずに誰を信じろというのか。
「まあ多分拓か湊ちゃん、ルーレが相手すると思うから気にしないこと。まあ気にしても言葉自体通じないから気にすることも出来ないと思う。ということでこの子達三人と出会ったから少し遅れたの。ごめんね」
「いや構わないけどな……この子の父親をやらせてもらってる、こういうものだ」
言葉よりも名刺を渡した方が良いと思ったのかさっと名刺を取り出すとそれを拓とルーレちゃんの二人に渡す。警察官だから社会的信頼も高いしね。
「……へぇ、姉さんが父親と認めたのか……ふぅん、まあ良いか。姉さんが娘なら僕も息子になるのかな?まあ、よろしくね」
拓がそう言って手を差し出す。まあそういう反応になるだろうとは思っていた。だから拓の頭をペちっと叩いておく。叩かれると思っていたのか拓は笑顔でそれを受ける。やだ、この子Mだったかな?まあ単純に私とこういうやり取りが出来て楽しいだけなんだろうけど。その顔は色々とやばいからやめた方がいいと思う。
「……改めてよろしくお願いします。パパさん?」
ルーレの言い方だといかがわしい意味に聞こえるから不思議だ。ルーレの頭はぺちっとは出来なかった。だから魔力の糸を伸ばしてルーレの身体の中に接続してゾワッとさせるように悪寒のようなものを発生させた。その後こしょばい感覚を発生させると変な喘ぎ声を上げ始めたのでやめておいた。
「はぁ……はぁ……はぁっ……もう、やめなさいよ。変な気持ちになっちゃうから」
「私としては単純にお説教のつもりだったんだけど変な喘ぎ声を上げたのはルーレちゃんじゃん」
「だって……うぅ、思い出したくない」
涙目になったルーレちゃんは可愛いけどやり過ぎると嫌われそうだから程々にしておこう。
「とりあえずこんな感じの子達だけどやる事に変わりはないから安心して……というか拓達がやる?私がやる必要も実は無いんだよね」
私は私の力を取り戻すことに集中したいから少年少女の件は任せたいんだよね。シェスは無理でも二人なら私の魔力や力ぐらいなら簡単に回収出来るだろうし。何が言いたいのかは良く分かってないだろうに二人は頷く。私が言うのも何だけど私に対して盲目的過ぎる気もする。そういう風に弄ったのは私だけどさ。
「じゃあ記憶だけ渡すからよろしくね?」
さっきの男から抜き取った記憶を二人に渡すとさっさとパパの手を取る。
「じゃあ私達お散歩の続き行ってくるから。またね」
有無を言わさずさっさと離れる。というか時間的にもパパ眠そうで疲れてそうだからさっさと寝かせてあげたいんだよね。二人なら安心だから任せた。私も寝る。なんか色々疲れちゃったからね。後地球の神は会う機会があったら今度はその顔面に本気で拳を入れようと思う。そう誓おう。そんな事を考えながらその場を後にしたのだった。
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