第334話 三人の存在
「一応聞くけど社会的制裁も欲しい?」
私の問いに少年少女は少し悩むがすぐに首を横に振った。良かった、証拠やらを探すとなれば面倒だったから横に振ってくれて助かった。パパは表情的に欲しそうだったけど言葉にするつもりは無いみたい。まあ警察官としてはそりゃ欲しいよね。
「ん、じゃあ……抱えていくのも面倒臭いな。パパって確か私に会いに車で来てたよね?」
「うん?あぁ、そうだな。まだあの工場付近に置いてあるはずだ」
「少し路地から出て待ってて、ちょっと取ってくるから。多分十分もあれば持ってこれるから」
パパは私の十分という言葉になんとも言えない表情を浮かべる。まあ
「じゃあ行ってくるね」
三人を置いてその場から飛び立つ。あ、暗い道だからしっかり光球で道案内はさせておいたよ。懐中電灯とか流石に持ってないだろうし。
廃工場に辿り着くと入口付近に見慣れた車が一台あった。パパの車だ。しかしそれと同時に見慣れない存在も居た。
「…………スイ、ようやく会えたわ」
白磁の様な肌に色彩が薄い上にグラデーションのように先端に行くにつれて輝く紫髪、月の様にはっきりと映る金瞳。はっきり言って人に見えない。いや人ではないのだろう。先程からこの子を見ているとゾクゾクする。
「良かった、帰ってくると思ってたよ姉さん」
それともう二人程居る。艶やかな黒髪を持ち白磁のようなきめ細かい肌を持つ美しい少女……に見える少年と綺麗な金髪に琥珀色の瞳を持つ少年だ。
「ねえちゃ、また、会えた。嬉しい」
この三人を見ていると酷く気持ちが悪くなる。何故だろう。三人の言葉は私の事を歓迎する言葉だ。敵対している訳では無い。その筈……なのに。
「…………気持ち……悪い」
魔力が勝手に荒れ狂う。目の前の存在を殺せと叫ぶ。まるで誰かに操られているかのように殺したいという欲求が抑えられない。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「姉さん?」
「スイ?」
「ねえちゃ?」
三人が心配そうに私を見る。来るな、来ないで、殺したくない。来い、殺してあげる。やだ、殺す、近寄らないで、死ね、逃げなきゃ、逃がさない、殺したく、殺したい。
「あ……あ、ぁぁあ、ぁぁぁぁああぁぁぁ!!!!」
私の身体から魔力が溢れていく。それを見た三人は咄嗟に離れる。
「に、げ、て……!早く!じゃないと…………!」
「ルーレ、シェス!姉さんが何かに操られてる!大体こういうのは意識を飛ばすのが正攻法だ!まだ完全じゃない姉さんに殺されたりしたら僕がその前に殺すからな!」
「無茶言わないでよ!というかスイを操ることの出来る存在って誰!?」
「変なところ、から糸がみえる!ここから、いけない、人じゃない」
「成程!なら操ってるのはほぼ確定だ!相手は地球の神!」
黒髪の男の子がそう叫ぶと残りの二人の表情が硬くなる。私は私で地球の神に操られていると知って驚くが納得した。あからさまにおかしいこの衝動に近いそれは吸血衝動に近い感じがする。近いだけで別物の可能性が高いけどどちらにせよ普通じゃない。
「…………ごめん、名前も知らない人達。死なないでね」
これが地球の神による行為なら恐らく抵抗するだけ無駄だ。攻撃に手心を加えるぐらいなら許してくれるだろうがそれ以外は許してくれないだろう。ならこの人達に私を倒してもらおう。
「ぐぅ……姉さんに知らない人って言われるのがこんなに辛いなんて!」
「ねえちゃ、覚えてない?」
「私とシェスは分かるけど拓も覚えてないって明らかにおかしいわよね」
「……抑え、きれない」
私の背中から何かが生えた気がする。あぁ、もう意識が。
「あはっ、殺してあげる」
どれから殺そうかな?女の子?ちっちゃい少年?何故か胸を抑えてる少年?どれも魅力的だなぁ。
「ねえ?誰から死にたい?」
「誰も殺させないよ。姉さんが正気に戻った時悲しむのなんて見たくないからね」
「そんなことが聞きたいわけじゃないのに」
「ごめんね。だけど姉さんの為だからさ」
ケチな男の子がそう言って笑う。けど油断はまるでしていない。三人とも油断せず隙も見せてくれない。つまんないの。
「なら貴方達以外なら良いのかな?」
私がそう言うと三人に緊張が走る。何時私が飛び出しても行けるように身構えている。
「あはっ、あははははははは!!!!つまんない。死ねよ」
足に力を入れて近くに居た黒髪の少年に突撃する。かなりの身体強化をしているのかそれに対して反応を返す少年。というかかなり余裕を持って対応されてる?
「姉さんの力がかなり弱い……?抵抗して、いやしていたようには見えない。出力が弱すぎるのか」
「このっ!!」
私の拳に余裕を持って合わせられた。そのまま地面に押し付けられる。
「離せ!離してよ!」
「何がどうなって……さっきまでの魔力は間違いなくやばかったのに身体能力がこんなに低いなんてどうなってるんだ?」
「くそっ!くそっ!どけぇ!開かれしは大いなる世界!万象の尽くを記す!閉じた世界は全てを飲み込む!外典・生逆の」
「はぁっ!!」
私の頭に凄い衝撃が走る。先程までの文言を強制的に止められる。意識が朦朧とする。ぐったりした私に油断なく黒髪の少年は再度私に衝撃を与えてきて私は意識を失った。
「あぶ、なかったぁ……」
拓也は自分が組み伏せた筈のスイ、自分の姉の転生体から目を離せなかった。取り押さえて安全を確保出来たかと思った矢先にこれまでとは桁違いにも程がある魔力がスイに集まったかと思うと明らかにやばそうな雰囲気の詠唱を始めたのだ。どんな魔法かそれとも魔法じゃないのかは分からないが集まっていた魔力量を考えると碌な事にならないのは目に見えている。
そもそもスイが基本的に詠唱を必要としない事を拓也は知っている。であるならば詠唱を必要としたあの魔法はまず間違いなく一撃で自分達三人を吹き飛ばしかねない程の凄まじい魔法であることは疑いようもない。
ルーレやシェスもあの魔法の危険性を理解したのだろう。意識を失っているスイに対して向けるその視線には多少の恐怖が混じっている。シェスはスイに対しては視線を向けておらずやや上の方を見ている。
「大丈夫、さっきの糸、まんぞく?した。戦い、見たかっただけ?」
単なる刺激欲しさということだろうか。確かに地球で異能力バトルの様なものは発生しえないだろうがそれをここで再現させるのは色々とおかしい気もする。とはいえ地球の神の思考など誰にも分かりはしない。考えるだけ無駄なのかもしれない。
「……ねえちゃ、力の欠片、誰かに取られてる。戦い、起きるかと、思ったけど起きなかった?」
何となく察した。スイの力を誰かに、この場合地球の人達だろうか。その人達に奪われ取り返そうとしたのだろう。その流れだと確かに戦いになりそうなものだが基本的なスペックが違いすぎて戦いになり得なかったのだろう。肩透かしを食らった地球の神がモヤッとしたから戦えそうな僕達にその役目を押し付けたと言ったところか。
「それと……ねえちゃに、力あげた?見たかったって」
というかさっきからシェスは一体何と喋っているのだろうか。はっきり言ってシェスの存在は未だによく分からない。この世界に渡る時も僕とルーレだけじゃ足りなくて何故かと悩んでいたらシェスがどこからか来て力を貸してくれたと思ったら移動出来たのだ。あとサラッとスイに力をあげたとかいう不穏な言葉が聞こえた気がしたがそこは流しておく。ほぼ間違いなくさっきの魔法らしきものだと思うし。
「とにかく地球の神様も満足?したみたいだし姉さんが起きるまで待つことにしようか」
しかし姉さんは寝ている時も可愛いなぁ。そんなことを考えていたらルーレに足を蹴られた。ルーレだって姉さんを見て可愛いとか思ってただろうに。シェスだけは首を傾げてた。というか……姉さんはなんでこの車を取りに来たのだろう?それだけは良く分からないなぁ。
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