第333話 少年少女
「かくかくしかじかで説明出来たら楽なのにね?」
「俺に反応に困ることを振らないでくれ……」
パパにそう返されたので仕方なく説明をすることにする。
「まずは……邪魔くさいからこの男の処遇からで良いかな?これどうする?最終的に死ぬことだけは確定しているけどどう殺すのかは貴方達に決めさせてあげる。苦しませてから殺す?安らかな眠りの中で殺す?それとも自分達の手で殺す?勿論私に殺させるのもありだよ」
「なあ、この男は力を失ったんじゃないのか?」
「ん?ああ、関係ないよ。そもそも私の力を使うという事は人を辞めるって事だよ。こんな魔力に満ち溢れ過ぎて素因すら失活する様な世界で魔法の行使が出来る身体になるって事がどれほど危険な行為かパパなら分かるよね?」
私の言葉にそうなった時の未来を想像したのだろう厳しい顔をしたパパが頭を振る。しかも本来なら私の力は悪人が使える物。先程まで起きていた男が何をしたのかは分からずともその性根が善ではないこと位は分かっている。パパは少し考えた末に頷いた。
「ということで……えっと、名前も知らぬ少年少女さんどうする?あ、名乗らなくても良いよ。私も名乗るつもりは無い。それにこれ以上この件で関わるつもりもないし記憶も消させてもらうつもりだからね」
私の言葉に少年が険しい表情を浮かべる。記憶を消すということに抵抗があるのだろう。だが残しておいてもこの子達の将来に変な禍根を残しかねない。無難に消しておく方が楽なのだ。
「その前に聞かせてくれないか。俺の……身体の中にあるこの力の正体は何なんだ」
「私の力の欠片とでも言えば良いかな?あ、力は使わないでね。その瞬間私は貴方を殺さなくちゃいけなくなる。例え私が殺さなくても貴方の存在を認めない私よりやばいやつに目を付けられると思うよ。今なら何も起きないままに貴方から力を抜き出せる。抵抗したら多分死んじゃうけど受け入れてくれるなら身の安全は保証する」
少年は悩む様子を見せて傍らの女の子を見つめる。
「でも……」
「でも?」
「例え俺が死んだとしてもこいつらを守れるなら俺は……」
「あはっ、死にたいってことで良い?」
くだらない事を言いかけたので殺気を送る。例えこの子が悪人でなかろうと私の故郷でもあるこの地球で馬鹿なことをしようと言うのなら容赦なく殺す。その意図が伝わったのか少年の顔が強張る。
「勘違いしないでね?私が貴方を殺すことを躊躇うと思ってる?私が何人の人を手に掛けてきたと思ってるの?最低でも万単位の人間を殺してるんだ。今更貴方一人程度躊躇わないよ?今回は私自身の不注意でもあるから話をしてあげてるだけ。調子に乗るな」
完全に身体の動きを止めてしまった少年の頬をぺちんと指で叩く。それで先程までの硬直が解けたのか少年が荒い息を吐いて地面に座り込む。殺気を送ったのは少年だけにだったからか少女とパパは何が起きたのか分からずおろおろしている。
「だけど!由美がまだ!それに二人はまだ狙われる!その時に戦える力が無いと駄目なんだ!」
少年が殺気を送られたにも関わらずそれでもまだ目に光を失わずに私に食ってかかる。本当に少年漫画の主人公みたいな子だなと思いながら話を聞いてあげることにする。
そして分かったのがこの男は実はどこかの組織に所属している者らしく双子だったらしい少女を狙っているそうだ。少女達は財閥の娘らしく身代金目的だと思われるとのこと。しかも少年はそれを自分の持つ人脈を使って調べあげた結果、敵に一歩先んじられて少女達が誘拐される。少女達は恐らく身代金目的+変態達に買われる可能性が高いとの事。攫われて時間はあまり経っていないがこのままだともう一人の少女が売られてしまうということ。それを泣きながら説明された。
「…………重っ」
想像以上に凄い事情で思わずそう言ってしまった。というかせいぜい中学三年生か高校一年生とかその程度にしか見えない少年の人脈が凄い気になる。実は裏の顔があって世の中を牛耳る存在とかじゃないよね?後少女二人にはSPが付いていたらしいが倒されて今は病院で集中治療室に居るらしい。まあ私の力を持った人に襲撃されれば仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。というかそういう状況でも死んでない事に少年漫画的な何かを感じる。
「この力が駄目だって言うのならせめて彼女達を守ってくれ。頼む。俺だけじゃ出来ないんだ」
少年が土下座の体勢になってそう口にする。はっきり言って面倒くさい。ただパパが凄い気の毒そうな表情をしているしなんとか出来ないかなと私に目線でそう聞いてくる。
「はぁ……まぁ、何とかしてみるよ」
私がそう言うと少年がガバッと頭をあげる。
「んと、要はその組織が無くなって女の子を買うような変態が居なくなれば万々歳って事だよね?全員殺せばいいんでしょ?どんな組織だろうがそれが大手の会社だろうが世の中にどんな影響があろうが関係無く全部殺せって事だよね?」
私の問いに少年が目に見えて狼狽える。組織と言うからにはそこそこ大きな存在の筈だ。私が壊した組織、というか宗教団体?とは違う。彼処は明らかに会社じゃなかったから壊したけど今回は恐らく公的に動ける立場がある筈だ。会社なのかどこかの金持ち集団なのかは分からないけど。
「捕まえるとか下らないこと言わないよね?私に頼むってことはそういう事だよ?全員滅殺で良いね?」
私の言葉に少年は青ざめながらもその首を縦に振った。
「あはっ、良いよ。人殺しの罪を背負ってでも少女を助けたいんだね?もしかしたらその罪で更なる苦難が待っている可能性があってもそれでも尚今助けたいんだね?」
少年は今度は迷いなく頷く。本当に少年漫画の主人公みたいな子だなと思う。仕方ないから今回ばかりは主人公君の手助けをする悪役っぽい立ち位置になってあげよう。
「そうと決まったらこの男の処遇も決まったかな。記憶を抜き出して拷問からの焼却処分で。目を逸らさないでね。これが貴方の罪となるから」
ただ力を大人しく返してくれたら良かっただけなのに何故少年に罪の意識を背負わせる話になったのか自分でも良く分からないけどまあ主人公君なら何だかんだで大丈夫だろう。支えてくれる女の子や仲間が居るみたいだし。
とりあえずで男の顔面を掴むと頭の中から記憶を抜き出して行く。正確にはコピーなんだけど見た目が完全に引きずり出しているようにしか見えない。組織の場所が分かれば良いのである程度抜き出して場所が分かれば男から手を離す。そして男を掴んでいた手から炎を出すとその炎をポイッと投げて男に引火させる。
「焼却終了と。さあ、組織とやらの場所も人も分かったし殺しに行こうか。あ、貴方達にはついてきてもらうから。記憶は後で消すけどその光景ぐらいは魂に刻んでもらうから」
私の言葉に二人がごくりと喉を鳴らす。
「まあ大丈夫だよ。安全だけは保証してあげるから」
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