第331話 力を持った人達



「やつと連絡が取れなくなったというのは本当か?」

「本当だ。つい先日花嫁を見付けたと報告してきてからやつの姿が消えた」


初老の男の言葉に対して若い男がすぐに返す。あるビルの一室、暗い部屋の中に複数の男女が思い思いの格好で居た。ある者は椅子を幾つも積み重ねた上で座っていたり、またある者は壁に寄りかかりながら話を聞いていたりと統一感のまるでない状況だった。


「あの子って結構派手に暴れてたからねぇ。警察にでも捕まったんじゃない?」

「警察程度に俺達が捕まえられるものか。銃弾ですら俺達にとっては致命傷になり得ない」


積み重ねた椅子の上で雑誌を読んでいた一人の女の言葉に壁際で話を聞いていた別の男が即座に返す。女はそれもそうだよねとあっさり意見を翻すと興味を失ったかのように手元の雑誌をめくる。


「であればやつはわざと連絡を取りに来ないと?」

「その可能性が一番高いが……その場合私達を敵に回してでも何かを成そうとしているということか?」


初老の男の言葉に若い男がそう返すと部屋の中に居た者達から剣呑な空気が漏れ出す。


「私達全員を敵に回してでも手に入れたいもの。更なる力か?そうであれば私達に先を越されない為と思えば十分に有り得る」

「マウント取ろうとしてるっての?殺すぞあの餓鬼」


初老の男の言葉に雑誌を読んでいた女が凄まじい殺気を放つ。それに触発されたか他の者からも殺気が膨らみ部屋の壁に亀裂が入り始める。


「やめんか。可能性があるというだけだ。それにそうであっても私を超えることは出来んよ。何せ力を与えてやったのは私だからな」


初老の男はそう言って殺気を収めさせる。未だ剣呑な空気は変わらないが先程までの重苦しいほどの殺気は消え失せる。


「何にせよ連絡を取れないことには話にならん。案外ただ花嫁とやらに夢中になっているだけかもしれないしな」

「夢中じゃなくて地獄に落ちたよあいつは」

「……っ!?」


初老の男の言葉にそう返すと私の方へと顔を向ける。いっぱい集まっている人達が居たのでこれ幸いとパパを連れて来たら集まって会話していたのでパパと二人で部屋の外で聞いていた。あ、ちなみに普通に近付いたら当然気付くだろうから魔法で気配を遮断してました。そのお陰で全く気付かれることなく近付けた。


「そう言えばこのビルの中に結構な数の人達が居たけどあの人達って何者?特に力を持っているようにも思えなかったけど」

「何者だ……?」

「質問に答えて欲しかったなぁ。まあいいや、後で記憶消しちゃえばそれで」


初老の男の人が私に対して凄い目付きで睨んで来る。特に怖くはない。どちらかと言うとこんな部屋の中に十一人も居たことに驚いてる。


「数が多いね。それぞれ独自に力を集めたのかな?それともそこの男の人に貰った?まあどっちでもいいか。全員人を辞めているみたいだし」


パパが顔を青ざめさせているけどどうしてかな?殺気とかは遮断しているから特に何も感じていない筈だけど。


「みどり、大丈夫なのか?流石に数が多いんじゃ」

「え?雑魚が幾ら群れようと雑魚は雑魚だよ?探し出す手間が省けただけで喜ばしい事じゃない?」


パパはどうやら心配していたようだ。心配される事がこんなに嬉しい事だとは思わなかった。なんだかんだ心配って言葉と縁が遠かったからね。


「雑魚、雑魚、雑魚って小娘がいい気になってんじゃないわよ。多少力を持った所で私達に勝てると思ってるの?殺すぞ雌犬が」


椅子を積み重ねた上に座っているという無駄に演出に凝った派手そうな女が睨み付けてくる。壁際で一人我関せずとばかりにチラッとこっちを見て小さくフッと笑った男も演出に凝りすぎだと思う。もしかしてこれが厨二病というやつなのだろうか。幾ら何でも成人してからもそれをするのは色々とやばいやつだと思う。


「むかつく目してるわね。私が現実ってものを教えてあげるわ!私がやるから手出すんじゃないわよ」


哀れんだ目で見ていたら気に障ったようで女が椅子から飛び降りる。それにしても一度降りたら戻るのにまた攀じ登るのだろうか。シュールだから少し見てみたい感じもする。


「ねえ、一回降りたら元の場所に戻るのに攀じ登るの?」

「はぁ?私の事馬鹿にしてんの?」


答えてくれそうに無い。少しだけ悲しい。


「舐めた口聞いてんじゃ……ぇぅ゛ぁ?」


殴りかかって来たのでとりあえず壁を壊さない程度に手加減しつつ女の顔を叩いた。風圧で椅子が倒れて何故か亀裂が入っていた壁に更に亀裂が入った。女の顔は残っていない。


「ん〜?思ったよりも壁が脆いなぁ。もうちょっと手加減しようか」


素振りでぶんぶん腕を振っていると衝撃で止まっていた人達がようやく動き始める。


「あ、一応聞くね。私が原因だから悪党だろうが聞いてあげるんだよ?感謝しながら答えてね。私に大人しく力を返して痛みなく安らかな眠りを与えられるか……さっきの女みたいに死ぬまでに苦痛を、ってあれ?気付いてなかった?さっきの女の人には死ぬ直前に感覚を一気に引き伸ばしてあげたから自分が死ぬのを凄いスローで感じたと思うよ?死ぬ間際にこれまでの記憶を振り返る時間をあげたんだから私って優しいよね」


私の言葉に即座に敵対心を見せた男達に私は笑みを向ける。


「その反応は後者って事で良いのかな?」

「行け、その小娘を殺すのだ」


初老の男の言葉に部屋の中に居た残りの9人が一斉に襲いかかってくる。それぞれ炎を纏っていたり明らかに他の誰よりも早かったりと何らかの能力を使っているのは間違いない。だけどその程度じゃ届かない。幾ら私が本調子じゃなくてもこの程度のやつらに負けたりしない。

魔法で返しても別に構わないのだけど、大して脅威でもないのにわざわざ魔力を使うのも馬鹿らしいので全て素手で返す。炎を纏って来た男にはお腹に風穴を開けるぐらいの裏拳を当てて早かった人には少しだけ大振りにした蹴りを顔面に叩き込んで首を飛ばした。霧化した人にはほんの少しだけ魔力を纏わせた手刀で両断して力自慢らしい人の拳は片手で受け止めてから握り潰して身体が追いつかないほどの速度で振り回して全身をねじ切らせた。

そこまですると突撃する事を躊躇したのか残りの五人がピタリと止まる。初老の男もまさか殆ど一瞬の内に四人も死ぬとは思ってなかったのか顔を引き攣らせる。本当は全員殺すことも出来たのだけどどんな反応をするか気になってやめておいた。あ、ちなみにちゃんと最初に殺した女の人と同様に感覚を引き伸ばしてから殺したので全員後悔しながら死んだ事だろう。


「な、なん……だと……?」

「あ、その言葉ってそれなりに有名らしいね。元のネタは知らないんだけど拓がたまに遊びで言ってた」


私の言葉に初老の男は言葉を返さず思考に耽ける。待つのも良いのだけど面倒だしこいつら以外にも私の力を持っている人が居るみたいだからさっさと次に行きたい。なので初老の男に近付くと目に見えて怯えた。


「ねえ、早くして?大人しく力を返すか抵抗して死ぬかの二択でしょ?そんなに悩む事?私の力を使って散々遊んだんでしょ?なら次は自分達が遊ばれる番ってだけだよ?」

「うるさい!この力は私の物だ!貴様のような小娘のものでは無いわ!」

「いや私の力……ふぅ、言っても無駄だし良いか。面倒だし全員抵抗するってことでいい?」


私の言葉に生き残った者達がそれぞれ構える。それを見た後私は彼らの首をへし折った。まあ伸ばしていた魔力に気付かない時点で実力なんてお察しというレベルだったし仕方ない。


「さあ、パパ次に行こうか」


今はパパと少しの間お散歩と行こう。屋上のお散歩となるけれどね。

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