第326話 魔法というもの
海の中というのは浅い所は本当に綺麗で幻想的な空間が広がっている。多種多様な魚が優雅に泳ぎまるで別世界のように感じる。しかしそこより更に奥深く潜れば途端に暗くなりまた違う世界が広がる。真夜中の世界、光がほぼ通らない暗闇の世界だ。
どうも魔力というのは空気よりかはそこそこ重いらしく海の底で巨大生物が誕生した事に気付いた私が潜っているのだが適当に泳いでいたら想像以上に深い場所で驚いている。
(此処って海溝って言われるような場所だよね。生身で潜れる私って本当化け物だなぁ)
短期バイト等でちょっと稼いだ私は水着に着替えて入っているのだが水着への負荷が半端じゃない。魔力で身体を覆うと一応保護出来るのだがさっきから水着がギシギシ言っている。水着でギシギシとか初めて聞いた。
(この水着捨てなきゃいけないだろうなぁ。流石に裸で潜るのは嫌だったし仕方ないんだけどそれなりに可愛い水着だったから悔しい)
後今更気付いたのだが私に泳ぎのセンスはまるで無いということか。今も身体能力に任せて無理矢理沈んでいるだけで泳いでいるとは言えない。どちらかと言うと沈んでいるの方が正しい。
(……私海面に浮上出来るかなぁ?)
幸い水の中だろうが特に関係無く目を開けられたりするので最悪海底から歩いて戻る必要があるだろう。呼吸も必要無いから何時まででも潜れるし。
沈んでいくと海底に今までの巨大生物の五倍はありそうな巨体が見えてきた。それはどうも目が見えていない上身体をじっと固めて動く事もしない。海溝の奥深くに生息する生き物はエネルギーを消耗しないため動く事を殆どしないと言うので恐らくこの何か分からない生物も同じなのだろう。
近付いて触るとその巨大生物はゆっくりと見えていないであろう目を開く。私を見てそれは何を思ったのか口を開く。食われるのかと少し思ったがそれはゆっくりと息を吐いていく。そして気付いた。魔力を返してきている?
巨大生物の目には知性が宿っているように見えた。どうやら私の魔力というのは一定以上吸収してしまうと知性が芽生えてしまうらしい。その巨大生物は私の事を親とでも思っているのか一本の触手で私の頬を愛おしげに触る。というかこの生物は何の生物なのだろう。
(面白そうだから回収しなさいよこの子)
(あか、どうやってこんな大きなのを回収するって言うの?)
(私の中にある記憶の開示をするわ。多分元々貴女が使えた物だし)
頭の中であかと会話していると魔法が教えられた。とは言ってもその魔法の使い方が分からないのだが。
(まあ時間はあるから良いけどさ)
地上にある魔力は可能な限り回収したし暫くは大丈夫だろう。それにさっきから愛おしげに触ってくるこの子を見ていると私もちょっと可愛く思えてきたし少しくらいなら時間を掛けても良いかな。
なんで私はそんな事を考えたのか。海溝生活二ヶ月目でそろそろ心が折れそうだ。未だこの子は回収出来てない。あかも気まずそうだ。あかの記憶は以前の私がどんな魔法を使っていたかの記憶はあってもどうやってその魔法を使っていたかは分からない。恐らく魔法が使えるのが当たり前過ぎて意識したことが無いのだろう。
(創命魔法)
命を創る等と書く魔法だが実態は全然違った。そもそも命を創る魔法で既に生きている子を回収する時点で分かりきっているけれど。
(多分私もそうやって創り出されたと思うのよね)
(なのに使い方は知らないと……役立たず)
(ちょ、私が居なかったら色々と困ってるでしょ!)
(そうだね、魔法以外でなら役に立ってるね)
(ぬぐぐ…………)
あかと下らない会話をしながら魔法を試そうとしていると巨大生物が口から魔力を吐き出す。ちなみにこの子はどうも複数体の生物が混ざった結果のようで身体が時折ぐにゃぐにゃと変態する。割と気持ち悪いのだが慣れた。
(あ……)
(どうしたのよみどり)
(いやさっきこの子が吐き出した魔力で魔法の簡単な使い方を思い出しただけ)
(…………えぇ)
(私の努力は何だったのかと本気で怒りたいけどまあ使えるようになったなら良いや)
(ちなみにどんな使い方なの?)
(発動出来るかは分からないけれど……魔力を込めてから想像するだけ?)
(はぁ?)
(とりあえずやってみるよ)
巨大生物の子に手を当ててから頭の中で創命魔法を発動させる。するとさっきまでのが嘘のように回収出来てしまった。
(…………)
(…………)
(帰ろっか)
(そうね、なんだか疲れたわ)
さて、とりあえず全力で海の外に出ようかな!もう暫くは海の中には入りたくない!海底を苛立ち紛れに蹴飛ばして私は海面に浮上するのだった。
二ヶ月の海溝生活で水着はお亡くなりになってしまったので岩陰に隠しておいた水着に着替えて念入りにシャワーを浴びてから服に着替える。人気の少ない場所で良かったと思う。
ちなみに巨大生物の出し方は知らないし分からない。そもそも私はあの子を何処に回収したのだろうか。あかに聞いてもさあ?としか答えないし。まあ多分未来の私がどうにかして出してくれるだろう。忘れてしまう感じもするけど。
とりあえず適当に街の中に戻っていく。暫くは海を見たくない。お金は一日バイトとかで二万円程度ならある。二日で二万円なら幾らでもやりたいものだ。たいして疲れもしなかったし。同じバイトの人はげっそりしてたけど。
海溝生活で何も食えなかった反動か久し振りに何か食いたくなったので適当な店に入る。ハンバーガー店のようだ。ハンバーガーを適当に二つ頼んで店内で食事をする。ポテトがホクホクで美味しい。暫く舌鼓を打っていると何故か私と同じ席に一人の男性が座った。店内には空いている席が幾つもあるのに何故ここに座るのか。幾ら私の背が小さくても居る事に気付かなかったというのはありえない。そもそもテーブルにハンバーガーとか置いてあるしね。
「アンタも同類か?」
「もぐもぐ……ん、もぐもぐ」
訳の分からない質問だったので無視してハンバーガーを食べる。
「……あの」
「もぐ?もぐもぐ……ん、こくっこくっ……もぐもぐ」
「いや反応したなら最後まで聞いてくれ!?」
男が小声で叫ぶという器用な事をする。仕方ないので男の顔を見る。それなりには整ってはいるが無造作に切られた髪と着崩した服のせいでチャラ男にしか見えない。
「何?」
「ふぅ……いやな、アンタからも同類の気配がしたんだよ。間違えてたらすまん」
「ナンパ?」
「あ、それは無い。俺彼女いるから」
「それはそれで腹立つ。で、同類ってなんの事?」
「しらばっくれてる訳じゃなさそうだが……」
男は顎に手を当てて少し考えてから私の目の前に指を出す。何だろう。噛めとでも言うのだろうか?やはりMだったのかもしれない。
「違ぇよ!?いいか、見てろよ」
男が否定した後指先から小さな炎が飛び出した。それは数秒程度ではあったが間違いなく炎だった。もしかしたら私の魔力が男に宿ったのかもしれないと改めて見るが男からは私の魔力の気配は一切感じない。むしろかなり遠い所に私の魔力の気配が集まっている。多分どこかで巨大生物が生まれそうになっているのだろう。
「それでアンタも同類なんだろ?魔法、使えるんだよな?」
成程、恐らくこの世界に元から居た魔法使いというやつだ。地球にそんなファンタジー溢れる存在が居たとは驚きだが逆に居たからこそ漫画やアニメで魔法という概念が生まれたのかもしれない。とはいえ私にとっては正直どうでもいい。この男が魔法が使えようが超能力が使えようがどうでも良いし私が使えることも教える気はまるでない。
「凄い手品ですね。それじゃ」
「え?あ、ちょっと」
とりあえず店を出てから路地に回って適当に走り回ってたら男を撒けたようだ。
「……魔力を集めて動かして震わせて……」
指先から炎が出た。あの男には少しだけ感謝しておこう。お陰で少し魔法の使い方が分かった気がする。
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