第313話 スイの治療
「えっと……」
「あ、大丈夫ですよ。スイ様の事がお好きなのは分かっていますから。返事は別に期待してません。ただ私が近くに侍る事をお許しになってくだされば結構です。子が望める身体でもありませんしね」
オルテンシアはそう言うとレクトに引っ付くように近付く。いやむしろほぼ抱き着いていると言っても過言ではない。
「良かったじゃないかレクト。可愛い女の子だよ」
「タクヤ!?」
タクヤに助けを求めようとして速攻で梯子を外されたレクトが驚いてい声を上げる。ちなみにディーンは即座に目を逸らした。
「レクトさんというのですね。オルテンシアです。以後末永くお付き合いを……」
「しないよ!?待って色々待ってくれないかな!?」
「ええ、待ちますよ。貴方が死ぬその時まできっと」
「重い!?ちょ、この子怖いのだけど!?」
「あはは、ヤンデレかな?いやどちらかと言うと単に感覚がズレてるだけかな?そう言えばオルテンシアは元は人族なのかな?それとも凶獣?」
「私は……どっちでしょうね?少なくとも人族として生活した記憶は御座いませんし凶獣でいいのではないでしょうか?まあ父が元人族というのがどう関係するかによりますけど」
「う〜ん、まあ元人族ってだけで今は違うんでしょ?なら凶獣で良いんじゃない?」
「では凶獣で、そんな私ですがよろしくお願いしますね?」
「え、ええ……」
「と、まあこの辺りで揶揄うのはやめておきましょうか」
「うん、レクトの反応面白かったからね」
「え、どこからどこまでが冗談なの?」
「勿論一目惚れ云々からですが?そもそも私に恋愛感情って芽生えませんし」
オルテンシアがそう言ってレクトからそっと離れる。それはそれで何とも言えないのかレクトが微妙な表情をしているが完全にそれは無視された。ディーンは自分も騙されたのにタクヤがそれを見抜いた上で揶揄っていた事を理解して少し悔しげにしていた。
「まあその話は置いておきましてスイ様からは出来る限りお離れしてください。あまり長時間近くに居るとお互いに危険な状態になる可能性がありますので」
オルテンシアはタクヤの手を取りスイから少し離す。レクトは先程揶揄った時点で離れていたので特に何もしない。
「どういう事?」
「本来魔族というのは内側にある素因からの魔力生成により膨大な魔力を保有します。しかしその大半は身体の構成をするのに使用されています。それが通常ですが現在のスイ様の身体はそれが正常に機能なさっていません。具体的には魔力生成機能がほぼ機能しておらずそれを治すのに外部からの魔力を受け入れそれを自身の魔力に変換して修復作業を行っている所です。普通はこれが最優先で行われて別の機能も治すのですがスイ様の素因は殆どの機能を停止なされています。素因という形を取っているだけで殆ど死んでいると言っても過言ではありません」
オルテンシアの言葉に三人の表情が強張る。
「ああ、安心してください。このまま放置しても死にはしません。ただ生命維持の為の機能も停止しかけているのでそちらを優先しています。その為生成機能の方はゆっくりとしか治せないので時間が掛かっているというだけです。一応私なりに魔力の変換をお助けしたり外部の魔力を満たしたりして回復を促してはいますが何分この様な状況は初めてですのでどう反応するか分からない貴方達の接触は控えめにして欲しいのです」
オルテンシアは少し申し訳なさそうに言う。実際オルテンシアとて手探りの状態での治癒なので手助けは欲しいのだがそれで万一の事があれば悔やんでも悔やみ切れない。なので手助けしたいと願う人の好意は嬉しいが断るしか出来ないのだ。
「姉さんの魔力に近いものが作れれば良いのかな?」
「魔力変換は難しいですし一見似たものでも拒絶反応が起こる可能性があります。好意は嬉しいのですが……」
「僕と姉さんには一応魔力的繋がりがある。僕自身素因を持たせられたし持ってる。それで何とか出来ないかな?」
タクヤはそう言うと自分の身体の中に腕を突っ込む。ディーンとオルテンシアが目を見開く。まさか、それが出来るのは魔族だけの筈。だが二人の驚愕はタクヤの手のひらで燦然と輝く光の玉が出てきた辺りで震えへと変わる。
「それは……!?」
「これ?今まで殺した魔族から奪った物だよ。どういう素因かは知らないけどいっぱい奪ったからね。それなりの物じゃないかな?後は『神使』とかいう三神の……誰かは知らないけど貰った素因だよ。結構便利だよこれ、魔力が中々尽きないんだ。残念な事に一回で引き出せる量には限りがあるみたいなんだけどさ。後あんまり使い過ぎたら死ぬほど疲れるんだよね」
タクヤはそう言って光の玉を再度身体の中に溶け込ませるように埋めると出ていた冷や汗を小さなタオルを指輪から出して拭う。やはり人族である事が原因か素因を取り出すのに相当な消耗があるようだ。
「後<
「……分かりません。ですがやるだけなら良いですよ。一応私が監督して駄目だと判断したら即座に止めて貰いますけどそれでいいなら」
「うん。じゃあやるよ」
オルテンシアが驚愕から覚めてタクヤと話をする。タクヤはスイに触ると魔力の波長を見ているのだろう。かなり真剣な表情を浮かべている。レクトは邪魔しては行けないと思ったのか少し後ろに下がってタクヤ達を見ている。
「……ここは、こうで、こっちが……いや、違う。これが……?ううん、難しいな」
暫く唸っていたタクヤは集中して魔力を生み出す。それを見たオルテンシアは暫く眺めた後に首を横に振る。タクヤは残念そうに溜息を吐く。
「酷く似てはいますがどちらかと言うと贋作とかに近いですね。本質を真似出来ていません。ですがかなり近いので暫く練習して本質を真似出来るようになれれば手伝えるようになると思います」
「本当に!?」
オルテンシアの言葉に嬉しそうにタクヤが言葉を弾ませる。レクトは少し苦い表情を浮かべているがこれは自分が役に立たなさそうな事に対してだろう。ディーンも同じ思いを持ってはいるが自分に出来ない事は最初から分かっていたのでそこまでではある。後は自分に出来る事でスイを既に助けているからこそそれ程切羽詰まっていないのもある。
「僕にも何か出来ればな……」
レクトの呟きをディーンが拾うが黙る。レクトに出来る事は確かに何も無いからだ。ここ帝都での活動の手助けというならば既にディーンがしているし直接的な手助けは出来ない。レクトにあるのは法国セイリオスでの活動を支援するくらいだ。それだって今必要かと言われたら無いと言わざるを得ない。だけど何も言わないのもどうかと思ったのかディーンが少し躊躇った後に口を開く。
「セイリオスで頑張ってください。きっとスイ様は起きたらセイリオスの方にも向かいます。その時に手助け出来るように今から基盤を整えておいてください。貴方に出来る事はそれだけです」
ディーンは冷たい言い方だがそうレクトに返す。それに対してレクトが少し驚いたような表情を浮かべたあとすぐに小さく笑む。
「そうだね。僕に出来る事はそれだけだ。せめてそれくらいはしないとね……」
寂しげにそう言ったレクトにディーンは今度こそ言葉を返さなかった。
「じゃあ僕は帰るよ。タクヤ迷惑を掛けないようにね」
「レクトは僕のお父さんか何かかい?大丈夫だよ。僕が姉さんの邪魔になるような事するわけがないだろう?」
「その麗しき姉愛が逆に暴走しないか心配なんだけどね……まあ良いや。ディーン君タクヤの事頼むよ」
レクトは早速とばかりに戻る為タクヤが使ったという転移魔法で戻ることになった。ディーンにそう言って苦笑いを返された後レクトはタクヤの魔法によって帰還した。
「さて、姉さんの為に少し魔力変換頑張るから部屋に籠るね!」
タクヤはレクトを送った後部屋まで蜻蛉返りする。ディーンは確かにこれはタクヤの事をしっかり監督しないと不味そうだなとそんな事を思ったのだった。
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