第301話.困惑した俺の視点



何だこれ、どういう状況だ、理解出来ねぇ!

今の俺の感情を表すならこんな感じだろう。馬車を何処か知らない大きな屋敷に止めるように言われて止めたら何故か俺だけ別の部屋に連行されてる。目の前を先導してるのはテスタリカとかいう魔族の幼女、アルフ達はメイドやら執事やらに案内されて何処かに行っちまった。

あ、あと理由だけなら分かるかもしれない。明らかにアンデッドで自立行動してる奴なんてかなり目立つのだし敵か味方かも分からない。色々話を聞きたいと思ってもおかしくは無い。となるとこの後に行われるのは拷問の類だろうか?あくまで俺は操作してるだけだから痛みなどは感じないが見ていて気分の良い物じゃないし拷問が行われ始めたら最低限の感覚だけ残して暫く放置しよう。

そう考えていたらテスタリカは一つの部屋を開けて中に入るように促した。というか今更だけど幼女と言って過言では無い姿だから扉一つ開けるのも苦労してる。せめて開けるぐらいは手助けしてやるべきだったかもしれない。まあ何処に行くかも分からなかったのだからちょっと無理かもしれないが。

中に入るとごく普通の部屋と言った感じか。応接室みたいな感じだ。少なくとも拷問器具とかは無い。あ、いやでもこの世界なら拷問器具とか無くても魔法で拷問とかなら出来ちゃうか。そうなったら適当に放置だな。

座るように促されたので座るとその向かい側、いや近くない?わざわざ椅子持ってきて目の前に座るか?まあ何かしらの理由なりがあるのだろうけどちょっと足を動かしただけで触れ合うのは流石に近すぎると思う。


「ふむふむ〜面白いですね〜」


テスタリカを俺をじっと見詰めると頻りに頷いたり感心の声を上げたりしていて俺に対して質問も無ければそもそも俺を見ているかも分からない。


「あはは〜なるほど〜ヨシカワソウジさんですね〜異世界の人でしたか〜」

「!?」


アルフ達は宗二とは言わなかったしテスタリカが知っている訳もないのに俺のフルネームを完全に言い当てた。警戒するとテスタリカは更にグイッと近付いて俺の操るアンデッドの頬に触れる。


「でもでも〜この程度で〜私からは〜逃れられませんよ〜?私は〜最古の〜魔族で〜誰よりも〜この世界を〜知り尽くしてますから〜それこそ〜この世界を〜創った〜三神よりも〜です。ということで〜私の前に〜姿を〜現してくださいね〜其処は此処ラゥィ・キィゥ


どう喋ったかも分からない意味不明な言語をテスタリカが口にした瞬間俺はその屋敷の部屋に居た。強制的に転移か何かをされたのだと気付いた瞬間咄嗟に離れようとして目の前に立っていたテスタリカに両手を恐ろしい程の力で掴まれて椅子に無理やり縛り付けられた。


「改めて〜初めまして〜ヨシカワソウジさん〜私は〜最古の魔族リィスフェクトの〜テスタリカです〜以後お見知りおきを〜です♪」


そう言ったテスタリカは幼女とは思えない程の妖艶な笑みで笑ってみせた。


「貴方には〜私の〜助手にでも〜なってもらおうかな〜って思うんですよ〜貴方なら〜複数人を〜操って〜色んな補助が〜出来るでしょう〜?貴方も〜興味ありませんか〜?アーティファクトの〜作成にです」


テスタリカのその言葉に俺は思わず喉を鳴らした。それを見てか分からないがテスタリカは断られるなど有り得ないとばかりに微笑みを強くしたのだった。




あの後俺の返答を待たずにテスタリカは部屋を出ていった。凄まじく上機嫌でスキップでもしそうな感じで。それは良いのだが俺はこの部屋から出て良いのだろうか?いや多分駄目なんだろうな。そう思った俺は仕方なく迷いの森のアンデッドを操ってアネリに心配しないように伝えさせた。どうやらここに転移したのは俺だけらしい。

というか転移って使えないんじゃなかったのか?俺が知る限りでもヴェルデニア達は使ってるし勇者も使えるらしいし遠目からだけど姫さんも使ってるっぽかったしテスタリカも使ったし……案外使ってる人多くないか?実は使えたけど利便性や敵対者への情報操作で使えないことにしてたとかそんな感じか?まあ今考えた所で結論は出ないしどうしようもないんだが。

そう思って部屋を見回してようやく気付いた。俺が使ってたアンデッドが居ない。そう言えば椅子にいきなり座らされていた事を考えると転移というよりは交換とかの方が近いのかもしれない。アンデッドと俺の繋がりを使って入れ替えたの方がしっくり来る気がする。

というか何で俺をここに連れて来たんだ?話をするだけだったらぶっちゃけアンデッド越しでも出来た筈。わざわざ呼び寄せる必要は全くと言って良い程無い。感覚的なものだがテスタリカは無駄な行為を嫌う感じがする。俺がこっちに居た方が都合が良いのだろう。

そこまで考えて嫌な予感がした。迷いの森付近は完全に俺の支配下にある。だからその近くに何かが来ればすぐに分かる。今も特に何かある訳じゃない。でも俺は俺の直感に従ってすぐに迷いの森を捨て去り帝都まで逃げ帰るように指示を出した。食事も出来るアンデッド達だが俺が魔力さえ送れば実は食事無しでも全く問題は無い。だから街に入らないように遠回りをしてでも移動させる事にした。

無駄になる可能性の方が高い。拠点を棄てるのは正直嫌だが何も無ければまた取り返せば良いだけの話だ。それにどちらにせよ俺が今すぐ迷いの森に帰る事は出来ないのだし戦力的な意味でも引き寄せておかないと困る。アルフ達が俺を殺すとは思えないしテスタリカも殺したりはしないだろう。だが世の中どんな事があるか分かったものじゃないし戦闘に巻き込まれでもしたら確実にお陀仏だ。用心に越したことはない。


「先に出しとくか……飛鬼ひき


俺の言葉に反応して蚊のような小さな魔物が俺が懐から出した瓶から飛び立つ。蚊のような小さな魔物といか蚊そのものに近い。だってこれ血を吸うくらいしか出来ないし。

ただ俺に情報を与えるという点においては優秀だ。まず数が多く次に気付かれにくい。これだけでも適当に飛び回らせておくだけで辺りの状況がすぐに分かる。惜しむらくは蚊だからはたかれて死んだりちょっとした事で死ぬので普段使い出来ない事か。

飛鬼ひきから与えられた情報としてアルフ達はどうやら今日一日は疲れを取る為休み翌日に天の大陸に向かうらしい。俺も行きたいのだが弱い俺が行っても仕方ないし剣やら槍やら持って振り回すのは性にあわない。裏方で情報操作したり斥候みたいなことしたりの方が俺的に好きだし。俺の情報で勝ったり偽の情報で踊らされる敵とか見ると凄いテンション上がる。性格悪い?知るか勝てば官軍ってやつだ。

暫く飛鬼ひきを飛び回らせて情報収集していたらアネリ達の方で事態が動いた。何故か超遠距離からの何かの砲撃が飛んで来て塔は粉砕されるわ森は焼き払われるわでやばい事になってる。

情報源はアネリ達に移動する前に適当に解放してもらっていた飛鬼ひきからの情報だ。いや、つうかマジで何が起こったのかさっぱり分からん。アネリ達はもうかなり離れてるから何ともないだろうがビビった。

飛鬼ひきは死んだが周りの街には俺のアンデッドがまだ普通に居る。なので適当に情報収集していたら分かった。幾つかの街の合同作戦で迷いの森に対して総攻撃を仕掛けて異界の危険度を下げるようだ。

……あれ、というか今さっきこれが行われてるって事を考えると割とギリギリだったのか俺!?危ねぇ。アルフ達の方に意識を割きすぎて周りの街の異常に気付かなかった。これだけでもテスタリカに協力するだけの理由が出来た。


「……いや、こんなに綺麗に行くか普通?」

「……行かないですね〜」


いつの間にかテスタリカが部屋の中に入ってきてた。飛鬼ひきの視界からどうやって抜けて来たんだこの幼女。


「……何をした?」

「あは♪貴方の存在を〜知らなかったので〜迷いの森の〜解放を〜命じてました〜ごめんなさい〜」


単なる後始末だった。まああのまま迷いの森に居ても特に何も変わりはしなかったかもしれなかったがテスタリカが何もしなくとも合同作戦で焼き払われていた可能性は否定出来ない。


「……色々言いたいけど今回は何も言わないでおく」

「ありがとうございます〜」

「だけどあんたにお願い事がある」

「何でしょう〜?大抵は〜叶えられると〜思いますよ〜」

「俺の操るアンデッドを住まわせる場所が欲しい」

「分かりました〜用意させてもらいますね〜何人位ですか〜?」


その言葉を発したテスタリカに対して言質は取ったぞと一言告げた後にその数を告げた。


「総数にして四千体くらいだ。頼んだぜ?」


テスタリカの頬が引き攣ったのを見てやり返したと思った俺は少しだけ笑った。

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