第295話 不思議な少女
「美しい少女ですね。眠られているのが残念です」
半ば強制的に連れて行く事になったキオと名乗る少女は元々乗っていた馬車からアルフ達の馬車へと移動してきていた。キオの姿は異様としか言えない姿でアルフ達はそれに対して問い掛けていいのか迷っていた。
「あぁ、申し訳ありません。この姿に不信感を抱くのは仕方ないですよね。私だってこんな姿したくありませんし」
そう言ったキオの姿は全身を覆うかのように白と黒の包帯のような物が巻き付いていた。唯一見えるのが口の中と鼻だけでそれ以外は一切見えない。包帯のような物には大量に謎の言葉が書かれた札が貼られており最早何かの魔物であると言われた方がいっそ納得出来る姿をしていた。
「ですけどこれのお陰で今私は生きていけますので外す訳にもいかないのですよ。私も花の十二歳、健康的に過ごせたら良いな等と夢想する少女なのですけれども神様は酷いと思いませんか?」
そうその言葉の通り少女はかなり小さかった。レクトの義理の妹という事なので分かってはいたがいざ見ると不思議な気持ちになる。言動がしっかりしているせいだろうか。
「さあな。というか護衛達は本当に良いのか?」
「彼等は仕事で無理矢理連れてきただけですし本来なら私に付ける護衛では無いのですよ。レクト様が心配して付けてくれたので嬉しいのですが私の護衛なんて一人か二人居れば十分なんです。元々しがない小さな貴族の娘ですし。まあ心配して付けてくれたお陰で盗賊達にイヤンな展開をされなくて済んだのですけど」
「……まあ良いや」
キオの感情の籠ってない言葉に何とも言えない気持ちを感じながら話を強引に終わらせるアルフ。話をしているとどうにも不思議な事にスイの面影を感じて渋い表情を浮かべてしまう。それはアルフだけでは無くフェリノ達もそうだったようで一様に渋い表情をしている。
「どうされました?私が変な事を言ってしまいましたか?だとしたらすみません。こんな嫌な目を持っていますが心情や過去まで見える訳じゃないので何が原因か分かりません。不機嫌にさせる要素がありましたか?」
「いや気にしなくていい。あんた自身には関係無くて俺達の問題だからな」
「そうですか……では万が一私が粗相をした場合はビシビシ叩いて下さって結構ですので。あ、でも本気はやめて欲しいです。見ての通り私身体が弱いのでアルフさんのような方に叩かれると多分一撃で死にますので」
「やるか!弱い事なんて最初から分かってるんだよ。というかだ。その目って一体何なんだ。俺達の名前も名乗る前から知っていたみたいだし眷属とか魔族とかを見抜く目なんて聞いた事ないぞ」
「良かったです。私の目に関しては私自身殆ど何も分かっていません。産まれた時からありましたから。とは言っても産まれてすぐに死にかけたので本来は何人か産まれていてもおかしくないのかも知れませんね。仮にも貴族の娘だから生き残ったと考えるのが無難でしょう」
「分かってないのか」
「ええ、今の所この目の事で分かっているのはその人の本質とでも呼ぶべきものが分かると言うこと。心情や過去までは分からないのに隠し事や秘密の類は分かってしまうこと。透視に遠視、犯した罪の有無と内容、強く念じれば物すら動かす事が出来ること、私の目を見た人が懺悔しだす事、目を見た人が私に対してやたらと好意的又は悪意的になる事、目には凄い魔力が宿っているらしくて使おうと思えば私一人で勇者召喚の儀式を行えてしまう程ある事ですかね。他にもありそうですけど何せ目一つでこんな訳の分からない事が起きていますので全部把握までは出来ておりません」
キオの言葉には嘘や偽りは感じられず恐らくその全てが本当なのだと無駄に理解させられた。アルフ達は思ったより厄介そうな少女にこの場で切り捨てるべきかと本気で考え始める。護衛達もキオがこちらの馬車に乗り移ってからは護衛達の指揮をしていたおじさんと一人の騎士以外は帰ってしまったしアルフ達ならば数分もしない内に制圧出来るだろう。
「……駄目……殺すのは」
小さく聞こえたスイの声にアルフが反応する。スイの元へと近付いて耳を澄ませるがこれ以上は聞こえてこない。キオは目以外は本当に大した事が無いらしくいきなり動き出したアルフに不思議そうに首を傾げていた。勿論ディーン達は亜人族であり五感が優れているからスイの声は聞き逃さなかった。
ちなみにオルテンシアは最初から関わる気が無いのかキオの近くにすら寄らずシェスは馬車の旅が飽きてきたのか既に寝ていてメリーは盗賊達を見て目の前で美味しそうにパンを食べるという拷問をしていた。昨日のパンが不味いかもというのが余程腹が立ったらしい。それを言った盗賊は下の方に居て恐らく既に圧死しているのだが。
「まあ良い。俺達と一緒に居る時はその目を見せないようにしてくれよ」
「当然ですね。というかこれ私一人じゃ外せないんですよね。お札が貼っているでしょう?これ私の力を極端なぐらい制限する物でして布を持つ力すら今の私には無いんです。私にあるのは足腰を支える力だけです。食事すら一人では取れません」
「……よく生きてきたなお前」
「私一人では呆気なく死にますので周りの助力あってこそですけどね」
「まあそうだろうな」
「とは言っても今や貴方達の助力無しでは野垂れ死ぬでしょうが」
「そこの未だに一言も喋らない護衛が居るなら大丈夫だろ」
「彼等は人ではありませんから無理ですね」
キオの何気ない一言にアルフが聞き間違えたかと首を傾げるとキオが再び同じ言葉を言う。
「彼等は人ではなくアーティファクトです。聞いた事ありませんか?
「いや、だけど
アルフの問いにキオが頷いて話し始める。
「ええ、大多数はその通りですよ。ですけどそれだけじゃアーティファクトとしては不十分でしょう?命令されなければ動けないというのなら
「なんて言うか……お前結構刹那的な生き方してるな」
「気付かれてしまいましたか」
「いやさっき護衛なんて要らない云々言ってた癖にコロコロ意見変わったら分かると思うが」
「その場のテンションで生きていますので。何だかんだでそれでも生きていけるんですよ?」
「周りの助力無しじゃ死ぬとか言ってなかったかお前」
「言ってましたね。よく覚えてましたね。私自身忘れかけていたのに」
「……なんかお前と話してたら疲れてくる」
「私と話をすると皆そんなことを言ってくるんですよね。傾城の美少女とまで呼ばれた相手に酷いです」
「顔も見えない相手に美少女云々は感じられないな。後その場合の傾城ってのは恐らく違う意味で傾城だろうな」
アルフがそんな会話をキオとしているとアルフの指先にスイの手が乗る。驚いたアルフがスイの方を見るとスイの手がゆっくりと動いてアルフの手を握ろうとしている。キオとの会話で嫉妬したのかそれにアルフがふっと微笑むとスイの手を握り締める。
「女性との会話中に別の女性と手を握り合うなんてこの破廉恥野郎。底なし沼に落ちて星の反対側まで行きやがれです」
「誤解を生みそうなこと言うんじゃねぇよ。というかいきなり口汚くなったな!?一応貴族の娘じゃなかったのか!?」
「貴族の娘だからといってお淑やかに清楚にしなくちゃいけないなんて幻想ですよ。大体の貴族の娘なんて裏じゃ下品で低俗な言葉を連発するなんて当然ですよ。私の知る限りでは十人に一人居るか居ないか位の数でいます」
「微妙だなおい、多いのか少ないのか分かんねぇし」
「少ないですね」
「大体の貴族の娘って言葉を今すぐ撤回しとけ」
アルフの言葉にキオがふぅっと溜息を吐きながら肩を竦める。物凄く苛つくその仕草にアルフの表情に怒りが混じり始めているのだがキオはそれには構わずに言葉を発する。
「私自分の言葉を撤回するのは趣味じゃないんです。前言撤回大嫌い。私は自分の生き方に誇りとプライドとその他諸々を抱えたり抱えなかったりしていますから」
アルフはキオの頭を両手で掴むと揺さぶり始めた。
「やーめーてー!?私の生き方が駄目だと仰るのですか!?無駄です!私の生き方はこの程度では!あ、あっ、あっ、駄目!それ以上は吐いちゃいます!吐いちゃいますからね!わか、分かりましたから!前言撤回!ちょっとは考えを改めたり改めなかったりしますから!やめ、やめて!」
暫く揺さぶった後ぐったりしたキオを放置したアルフはスイの頭を撫でる。心做しかスイの機嫌が良さそうに感じるのだがその機嫌の良さは撫でられている事よりどちらかと言うと面白い物を見付けたとでも言わんばかりにキオの方に意識が向いている感じがしてアルフはスイが起きた時面倒くさくなりそうだなぁなどと考えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます