第294話 唐突な乱入
呻き声を大量に響き渡らせながら街道を一つの馬車が行く。呻き声の主はかなりの数が居る盗賊達の声である。洞窟を出たアルフ達は盗賊達をどうやって連れて行くか迷った結果全員殴り倒して山積みにして魔法で作った土檻の中に入れて馬車で引き摺るという外道としか思えない行動を選択したのだ。どうせ大半は殺すつもりだし良いかと抵抗した者も無抵抗だった者も例外なく腹パンしたのだ。ちなみに宗二はドン引きしていた。
近くの街までそう遠くはないが近くも無いので既に呻き声の主達の下の方に積まれた者は圧死してるようなのだが所詮身元さえ分かれば良いので到着するまでに全員死んでいても手間が減るだけなので無視である。
アルフ達はそんな惨状を引き摺っているというのにも関わらず割とのんびりと笑顔で談笑していた。勿論早めに帝都に着きたいのでそれなりの速度は出しているがそもそも馬も今は余計な荷物があるのでこれ以上の速度となると出せないから談笑するだけの余裕があるのだ。
「まああっちの世界とこっちの世界じゃまるで文明が違うな。魔法があるせいかこっちが発展してる所もあるし逆にこっちの方が優れてるのもあるからなぁ。どっちも良い世界だよ。姫さんも俺達と同じかは分からないけど別世界の人間なんだろ?そういう話は聞かないのか?」
今は宗二が地球での話をアルフ達にしていた所だ。やはり車や飛行機、魔物も居らず魔法の存在は非日常のものだと言うとアルフ達は驚いていた。
「スイはどうも今の生活と昔の生活は分けて考えてるのかあまり教えてくれないんだよな。確か勇者と同じ世界で過ごしてたよって教えてくれたくらいじゃなかったか?」
「少なくとも私はそれ以上の事は聞いてない。話したくないのかなって思ったし」
「ふぅん、まあ転生してる以上間違いなく地球での生は終わってるだろうしもしかしたら現実味を未だに感じてない可能性もあるかもな。俺だって最初の数ヶ月はくそ長い夢なのかなとか思ってた事もあったし。今じゃ流石にそうは思ってないけどさ」
「宗二達は勇者召喚で来たんだったか?」
「そうらしいな。って言っても召喚場所を敢えて森の中にしてイルミアの王様は俺達を保護したって立場にしてたみたいだけど。勇者召喚は本来剣国でしかしちゃいけないみたいだからそれの対策だろ」
「でもそれだと魔導師達がいっぱい必要になる筈だけどそれはどうしたんだろ?イルミアの兵士達の中に魔導師達は居たけどそこまで魔力が多い人は居なかったよね?」
「あぁ〜、気を悪くしないで聞いて欲しいんだけどな。勇者召喚って使った時に魔力が足りなかったら足りる様に補充されるっていう設定になってるんだよ」
「ん?うん」
「その補充方法がな。魔力が無いならその命でって感じのやつらしくてさ」
「……」
「亜人族の奴隷数十人と十人程度の人族の魔導師、犯罪者とかで死刑になるような奴らを数十人、他国から攫ってきた魔力高めの一般人を数十人で無理矢理起動したらしい。結果として生き残ったのはゼロ、全員命を吸われて身体すら残さず溶け消えたらしい」
宗二はちょっと失敗したかなと思いつつも今更話を終わらせられないのでそのまま続ける。もしかしたら宗二自身一人で抱えるこの事実に重みを感じていたのかもしれない。
「それでいて魔法陣は途中キャンセルされたせいで付与された力は極小量、それじゃ俺達が死ぬかもしれないからって地球の神様が力をくれたんだよ。その力が今俺が使ってるアンデッドのやつであり他のクラスメイト達が使ってるチートスキルってやつだな。俺達に付与されたのはこの世界でも生きていけるだけの最低限の魔力量に毛が生えたくらいのもんだな。まあ鍛えたら増えるからまだマシかもしれないけどさ」
「そっか。まあ勇者召喚って最後の砦感あるから命を使うってのはなんとなく分からなくもないかな。数人の命と引き換えに一人の化け物を生み出せるならやる価値はあるのかも」
フェリノがあっさりとそう言ったので意外に感じた宗二が目を見張っているとそれに気付いたのかフェリノが苦笑いをする。
「亜人族が犠牲になったって言われても正直縁もゆかりも無いであろう人達の事なんて大して気にもならないかな?」
「だな。そもそも俺達は……って何だあれ?」
アルフが何かを言おうとした瞬間街道に何かが見えて来る。良く見たら立ち往生している馬車の周りに盗賊らしき者達が居てしきりに騒いでいる。
「多分こいつらの中で外に出てた奴らじゃない?遠いから紋章までは確認出来ないけど」
ディーンがそう言いながら十中八九そうだろうなと思っていた。仮にも大規模な盗賊団が居るような地域で少数の盗賊が好き勝手やれるとは思えない。そんな事をすれば嬲り殺しにされて終わることだろう。
「囲まれてる護衛達が強いな。盗賊の数が多いから倒せてはないけど立ち回りが上手い。馬車の一定範囲に盗賊達が近付けてない」
「指揮してるおじさんが上手で練度の高い連携のお陰だろうね。このまま放置しても一時間もしない内に決着が着きそう」
フェリノがそう言ってから少しすると盗賊達が焦れてきたのか少しずつ近寄り一気に襲い掛かる。しかしそれを待っていた護衛達により瞬く間に切り伏せられ形勢が一気に傾き程なくして盗賊達は全てが地に伏すことになった。その後馬車へと指揮していた男性が近寄り何かを報告すると何故か馬車を振り向かせてアルフ達の元へとやってくる。街道は馬車が二台横になっても通れるが少し狭くなってしまう。その為アルフ達が馬車を端に寄せると護衛達が頭を下げてくる。それに対してアルフ達も頭を下げる。
「止まってください」
通り抜ける寸前突然馬車の中から聞こえて来た女性の声で護衛達が戸惑いながらも止まる。アルフ達もまさか止まるとは思っておらず反応が遅れる。
「そこの男と犬、アンデッドですね。亜人族の小さい子を除いた者達は魔族の眷属ですか。眠っている魔族本人も居ますね。一体どういう繋がりなのでしょう?お聞かせ願いたいものですが」
馬車の中で窓も無いのに響く声は完全にアルフ達の事を言い当てている。驚愕すると同時にアルフ達の身体から殺気が漏れそれぞれの武器に手を掛ける。
「お待ち下さいな。私に貴方達を害するつもりなどありませんし現に護衛の方々も剣に手を掛けていないでしょう?」
そう言われるとアルフ達が武器に手を掛けたことで多少警戒はしているようだが護衛達は武器を抜くことも手を掛けることもしていない。
「あんたは誰だ?何故俺達のことが分かった?」
アルフが油断無く見ながら質問をする。それに対して馬車の中の女性と思われる存在は存外好意的な声音で答える。
「私の目は特殊な物でして見たくなくても見えてしまうのです。馬車程度の物であれば透視しますし貴方達が隠したい事も見抜けてしまう。反面それに対して私の身体は脆く光を数分浴びただけで肌が焼け十分を超えると火傷になります。そんな私ですが貴方達とは一緒に付き合っていきたいのです。何故かと言われましても困りますが。視えたからとしか言えません。貴方達に付き合うとその先に私の身体を治す方法を知れると分かったのです。だからわざわざ声を掛けました。理解して頂けましたか?」
さっぱり分からないと答えれば良かったのかもしれないがアルフの小さな特技とでも言うべき嘘を付いているかを見抜く力がその言葉が本当なのだと断言していた。フェリノ等は物凄く胡散臭そうに見ているが。
「護衛達が邪魔だと言うなら必要最低限は残しますが大半は返しましょう。どうでしょうか?」
「そもそもあんたは誰なんだよ。そっちの質問には答えてないぞ」
「これは失礼をしました。私の名前はキオと言います。キオ・エッケル。法国セイリオスにて法王となられましたレクト様の義理の妹です。なので前の名前であるエッケルを名乗らせて頂いています」
「レクト……あの馬車のやつか」
アルフが以前に見た少年の姿を思い出す。スイに惚れていたようで酷く苛ついたのを思い出した。
「……(まあスイは俺を選んでくれたし大丈夫だ。大丈夫だよな?)」
少し不安になりながらも表情には出さず馬車の中をまるで覗き見るかのように目を細める。
「……少しでしたら姿をお見せすることも可能ではありますがその際には陽の光を当たらないようにして頂きたいです」
アルフの視線を感じたのかキオがそんな事を言う。それに対してアルフは首を振る。
「見た目は正直どうでもいい。敵になるつもりは無いんだろ?なら後はどうするかを俺達が話し合うだけだ。だから少し待ってろ」
アルフがそう言うとフェリノ達に向かい合う。
「私はどっちでもいいかな。邪魔してくるなら殺せば良いだけだし」
「対処出来ないのは宗二だけみたいだし私も構わないかしら」
「言葉に嘘も悪意も感じなかったし何よりもう僕達の正体がバレてるから連れて行くか殺すか奴隷にするかの選択肢しか考え付かないかな。まあアルフ兄に任せるよ。僕個人としては連れて行った方が後処理も楽そうだからそうしたいけど」
ディーンがそう言ったのを聞いた護衛達が冷や汗を流しているがディーンにそれを気にした様子は無い。宗二だけは少し引き攣った笑顔を浮かべていた。
「分かった。連れて行ってやる。だけど妙な事をしたらその場で切り捨てるからな」
「ええ、構いませんとも。よろしくお願いしますねアルフ様達?」
そうして余りに唐突な展開に宗二は考えることを放棄した。意味分からない物は理解すら難しいのだと無駄に悟ったのだった。
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