第292話 洞窟?



「この内部繋がってないな」


盗賊達を縛り終えた後アルフ達はアンデッドの男に見張りを頼んだ後洞窟内を散策していた。本来ならフェリノは今回料理担当だったのだがアンデッドの男が何処からか呼び寄せた男女合わせて三人のアンデッドはどうやら料理が出来るらしいので任せることにしたのだ。


「う〜ん、これ元からあった洞窟を盗賊達が広げた感じかな?それで埋まる形であったこの洞窟?に繋がり掛けてる?」


フェリノが疑問形ではあるものの恐らくは合っているであろう推測を立てる。洞窟の奥に向かって歩いているのだが明らかに人の手が入っているのだ。盗賊達の数は多かったので住居確保の為に自分達で削ったと見るのが正解だろう。


「……ここか。何が居るか分からないし気を付けろよ」


アルフがそう言って洞窟の壁に向かってゆっくりと歩み寄る。勢い良くコルガを持って振り下ろすと甲高い音と共に弾かれる。


「……?何だ今の」

「結界ね。それなりに高度な結界が繋がってない洞窟を覆っているわ。まあアルフならもう少し力を込めて振れば壊せると思うわ」


ステラが今発動した魔法の残滓から何が起きたかを正確に把握する。


「結界って事は内部に魔物が居る可能性はあんまり考えなくて良いな」


結界がずっと張られているのならば内部に食料庫でも無い限り魔物は入り込んでいたとしてもほぼ間違いなく餓死している。それに先程の一撃はそこそこ力を込めて振り下ろしたのでそれを超える一撃を魔物が何があるかも分からない洞窟に対して放っていたとは思えない。


「魔物が張った結界の可能性は?」

「無いわ。人が使う結界だし見た事あるもの。魔物ならもっと原始的な結界を使う筈」


ステラの言葉に頷いたアルフは今度こそとコルガを構え直す。ステラなら結界を傷付けずに中に入る事も出来るかもしれないが無駄に魔力を使わせる結果にもなりかねない。それならばただ振り下ろすだけで済むアルフがこじ開けた方が余程良い。


「おぉぉらぁぁぁ!!」


コルガが洞窟の壁に触れた瞬間にバキッと嫌な音を立てて結界が砕かれる。それと同時に洞窟の壁が壊れ隣接していた洞窟と道が繋がる。いや洞窟ではなく何かの神殿のようだ。人の手により白い石が敷き詰められた通路が見える。


「……何か……感じる」


連れて来ていたシェスが身を震わせるようにしてふらふらと前に歩き始める。それをアルフは肩を掴む事で止める。シェスはそれを振り払おうとしてアルフの顔を見て止まる。まるで完全に意識の端にアルフ達の事をやっていたような態度だ。


「シェス、何を感じたんだ?」

「……力?」


曖昧な表現にアルフは首を傾げるがどうやら魔物等では無いようなのでまあ良いかと判断する。但しシェスを一人にするのは怖かったのでシェスの身体を持ち上げると左の肩の上に座らせる。まだ小さいシェスだからこそ出来る芸当だ。ちなみにディーンは最近少しづつ大きくなってきたので少し厳しい。

そうして歩き始めたアルフ達だったが一時間程でその洞窟の奥へと辿り着いていた。道中に魔物の気配は無く罠も何一つ無く部屋も無くただ一本の通路しか無かったからだ。傾斜があるのか螺旋状にひたすら歩き続けて辿り着いた先が奥だったのだ。ちなみにアルフ達が入った場所は元々地上に出ていた入口部分に程近い場所だと思われる。何故なら最初は一応逆方向にと思い歩いたらすぐに壁に阻まれたからだ。


「何だこの場所?ひたすら螺旋に回って降りた先が一つの部屋って意味分からないな」


アルフの疑問に他の皆も答えられない。何せ何の為の施設かさっぱり分からないからだ。一時間もの間ひたすら降りさせられただけなので当然と言えば当然だろう。そしてその先にあるのが木で出来た重厚そうな部屋だ。やたらと装飾に拘っているのか綺麗な扉だ。


「鍵が必要なのか。壊すか?」

「指輪に入れてしまえば楽じゃない?」

「その手があったか」


壊すのは簡単ではあるが扉自体が芸術品のような物だとやはり少し躊躇われる。どうしようかと迷ったがフェリノの言葉に盲点だったとアルフが思いながら指輪に魔力を込めて扉を収納する。

中は明かりが無いためかかなり暗い。通路も暗かったがこちらの方がより暗い。通路の暗闇で多少目が慣れた筈のアルフ達ですら足元が見えない。ステラが小さく光源の魔法を唱える。光る玉が幾つかステラの手から放たれていき部屋の中を隅々まで照らしていく。そうして照らされた部屋には凄まじい迄の量の金銀財宝の塊だ。


「うわっ、ここまで来ると凄いな」

「持ち帰るのも大変そう」

「というか多すぎて私達が持っている指輪じゃ収納しきれないわよ」


アルフ達があり過ぎるその財宝の塊に顔を引きつらせる。確かにあればいいなとは思っていたが流石に多すぎる。一番の長身である筈のアルフが立ったままの状態で埋もれる程の財宝となると逆にちょっと怖くすらある。


「まあ持ち帰らないって選択肢は無いけどなぁ……ステラ今からさっと収納量だけに全力注いだ指輪とか作れないか?」

「作ろうと思えば作れるでしょうけど一個じゃ無理よ?多分三つは無いと入り切らないわ。そしてそんな数の魔導具をこの短時間で作るのは無理よ。それだったらまた一時間掛けて戻ってスイの指輪を借りた方がマシよ」

「だよなぁ」


アルフとステラがそんな会話をしている中ディーンは部屋の中を散策して見付けたそれに頭を悩ませていた。


「皆この財宝の持ち主が分かったよ。宝王トナフだ」

「トナフ?……えっ、トナフ!?」


ディーンの一言にアルフ達がぎょっとする。宝王トナフは今現在一緒に行動しているオルテンシアの父親で最強の五振りと呼ばれるアーティファクトを作り上げ今尚生き続け?ている化け物だ。そのトナフの財宝を取ろうとするのは流石に怖すぎる。


「あら?別に構いませんわよ?」


骨を齧り続けていた為盗賊達の近くで置いてきたオルテンシアが骨をようやく食べ終えたのかすぐ近くに立っていた。


「構わないっていや駄目だろ」

「だってこれらの物は父上の生前の財宝ですもの。もう使えない物を持っていても仕方ないですわ。それにこれらは見つけた者に全てを渡すと決めていた物です。持って帰られなかったらそれはそれで困ります」


オルテンシアがそう言いながら懐からスイの指輪を取り出す。恐らくこの洞窟の存在をオルテンシアは知っていたのだろう。だから先んじてスイの指輪を持って降りてきたのだ。


「さあさあ、これらの物は売り払ってお金に替えて美味しい物でも食べたり使えそうな物があれば使ったりしてくださいな。ここで朽ちるのを待つだけの運命だなんてそっちの方が余程酷いですわ」


スイの指輪を近くに居たステラに渡しながらそう言うオルテンシアにアルフ達は少し悩んだ後回収を始めた。そうして回収を始めて気付いた。所々やばいやつが混ざってると。


「……自爆魔導具に地殻変動起こす魔導具?植物再生魔導具、逆に植物を根こそぎ枯らせる魔導具。いや何がしたいんだ?」

「金貨製造機?こっちには銀貨、白金貨……贋金作りの現場とかじゃないよね?大丈夫なのこれ?」

「剣、剣、弓、槍、剣、槍、斧、盾、鎧、鎧、服、服、剣、ネックレス、剣、弓、弓……武器庫?」

「宝石がこんなに……これだけあると値崩れしそうね。これは鉱石の類いかしら?スイも作れるそうだけど普通ならこれだけで一財産ね。後は書類かしら?昔の国だから意味は無いでしょうけどこれ汚職の証拠なのね。適当な学者にでも預けたら歴史書が幾つか書き換えられそう」


勿論普通の金貨や白金貨、宝石などもあるがそれ以上にやばいやつが見つかることこの上ない。これは例え指輪の中に死蔵してでも世に出してはいけないやつだと思われるものが幾つも存在する。地殻変動の魔導具など何の為に作ったのかと本気で思う。


「ん?これだけ何か魔力が異常に濃いような……」


フェリノが一つの小刀を手に取るとその異常なまでの魔力に思わず腰が引けそうになる。この小刀以外にも妙に魔力の濃い服やネックレス等が合ったが何故それほどまでに濃いのかがさっぱり分からない。何故ならそれらは魔導具でも無くアーティファクトの一種であるということしか分からなかったからだ。


「これって」

「あぁ、ここに放置しちゃってたんですね。スイ様がきっと凄く喜ぶと思います。是非ともお持ち帰りくださいませ」


オルテンシアの言葉にフェリノは頷くとステラの持つスイの指輪の中にそれらを収納していく。


「……(今ここで見付かるということはスイ様を守護者と認めたということ……時代が変わりそうですね)」


オルテンシアは軽く流したがその小刀達を見た時は内心でかなり驚いていた。あれらは意思あるアーティファクトであり普段は世界に溶け込んでいる物だ。決してこんな所に雑に置かれるようなアーティファクトではない。


「……(やはりスイ様のお側は楽しいですね。父上♪)」


オルテンシアは笑みを浮かべそうになる頬をぎゅっと掌で押さえて財宝をせっせと運び出しているアルフ達の手伝いをし始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る