第262話 アンデッドの繰り手



「助け……!?」


振り抜いた拳が何かを言おうとした男の顔面を撃ち抜く。大きな破裂音と共に男の頭が弾け飛び辺りに散らばる。歯や骨等の硬いものが吹き飛んだ先に居た男達に当たりその身を貫く。それでいて拳を振り抜いたスイにその返り血は一切掛かっていない。いやその表現はおかしいだろう。そもそも男達は人ではなかった。


「またアンデッド?盗賊の?」


人との違いが殆ど見受けられないアンデッドが徒党を組んで盗賊をやっていたというのが信じられない。いや少し前に冒険者パーティのアンデッドが居たのだから可能性は無いわけでは無いのだがこの規模となると疑問に思う。そもそもこれだけの数の人が傷らしい傷も無いままアンデッド化しているというのが不思議でならない。


「何か変だな」


考えながらもとりあえずとばかりに盗賊達のアンデッドを殺していく。逃げようとする者も居るがシェスが逃がすものかとばかりに瞬時に追い掛け串焼きの串で首を掻っ切る。って何で短剣を渡したのに串で首を切っているのか疑問でしかないが本人が良いならそれで良いかと思考を放棄する。串って人の首切れるんだとか思ってはいけない。


「やぁ!」


シェスの可愛い声が聞こえる度男達の首がまるで引っこ抜かれでもしたのかと思う程にあっさりと吹き飛んでいく。当然男達も好き勝手にさせない為にシェスに対して剣を振るったり斧を振るったりとしているがシェスはその全てを避けたり或いは串で受け……魔力で強化しているのは分かるけど木製の串で剣の刃を受けるのはどうかと思う。


「シェス何人かは殺さないでね」


スイの殺し方が相当トラウマにでもなったか数人程頭を破裂させたら向かってこなくなりシェスに向かうか逃げようとするようになってしまって暇になったのでスイは馬車の方へと向かう。商人の仲間だったのだろう女性達は皆呆然としていて心ここに在らずという状態だった。


「大丈夫?」

「……あ、はい。大丈夫、大丈夫です」

「無理しなくていいよ。辛いならそれを押し込める必要なんて無いんだから」


涙を拭いてスイに対応しようとした商人達の誰かの妻と思われる年配の女性にそう返す。その言葉に女性達は泣き始める。静かに泣き始めた女性達を結界で覆うとシェスの方を見る。既に戦い自体は殆ど終わっており残るは最初にスイやシェスを見て警戒していた男達ばかりだった。


「シェス、そこまででいいよ。後はその人達からアジトの場所を訊くだけだから」


スイの声に反応してシェスがスイの元へと走ってくる。その笑顔を見て一頻ひとしきり頭を撫でた後男達の元へと歩いていく。逃げようとしなかったのは逃げられないと悟っていたからだろう。武器こそまだ握っているが勝てるとは思ってはいないだろう。


「アジトの場所教えて?」

「教えたら助けてくれんのかい?」


男達の中でもそれなりに上の地位に居るのだろう男がそう問い掛けてくる。


「?勘違いしないで欲しいんだけど交渉出来る立場だと思ってる?」

「安全が確保されな」


何か言おうとした男の顔面を他の者と同じ様に破裂させる。そして他の男達を見ると一様に恐怖に顔を引き攣らせている。そんな男達にスイは笑顔を向ける。


「全員殺す前に教えて欲しいな。あ、勿論間違えた情報だったりしたら分かってるよね?」



暫くすると男達の死体が辺りに散らばる中スイはシェスの頭を撫でながら考えに耽っていた。男達が教えたアジトへはナイトメアを送り出しておいた。万が一にも逃がす事もましてや負ける事はありえないだろう。


「こいつら何でアンデッドなんだろう?それと何で死んだ事に気付いてないの?」


スイの疑問はそこだ。冒険者パーティの五人はまあ分からなくもない。スイなら気付くよりも前に五人程度なら始末する事は出来る。だがこの数の盗賊達を死んだ事に気付かせない程度に素早く殺せるかと言われたらすぐに無理だと答えられる。魔法を使えばいけるだろう。大規模な魔法で全員一度に殺すかスイの作った魔法の万毒ヒュドラ辺りなら出来る。だがそれはスイだからだ。魔物や人が気付かせずにこれだけの数を殺せるかと言ったら無理だろう。


「良く分からないなぁ」


ナイトメアが帰ってくるまでは暇になるので馬車に乗って待つ事にする。シェスが機嫌良くスイに抱きついてきたので頭を撫でて馬車で待つ事三十分程度が経った頃にナイトメアが帰ってきた。ナイトメアは馬車の中にスイの姿を見付けると駆け寄ってくる。


「どうだった?」

「……姫様の言う通りアジトに居た盗賊達も全てアンデッドでした。捕らえられていた者達も居ましたがそれも全てアンデッドです」

「……アンデッドだらけか」


あまりに不可解な状況にスイは首を傾げる。そもそもアンデッドというのはこの世界では死体を二時間も放置すれば割と簡単に生まれはするが損傷が激しければ激しいほど知性など生まれはしない。

ついでに言うならば知性が生まれるアンデッドというのはほぼ無傷であってもそう頻繁に発生するものでもなく、ましてや連携を取れる程に知性がある事など絶無とまでは言わないがかなり少ないと言ってもいい。

それなのに幾ら死にたてホヤホヤだとしても盗賊達の全てがアンデッドであり尚且つ知性があるなどありえないだろう。天文学的数値と変わらない程の可能性ならありはするがそれを考慮するのもおかしい気もする。

スイが頭を悩ませているとシェスがスイの服を摘んで何かを訴えようとしてくる。スイは一旦考えを止めるとシェスが訴えている方を見る。そちらを見ると確実に死んでいた筈の商人達がふらっと立ち上がる。アンデッドの誕生だ。


「……は?」


しかしスイはそれを見て思わず唖然とする。確かに死体を二時間も放置すればアンデッドなどポコポコ生まれるのだからありえない話ではない。だがそれはあくまでその死体が人型としてしっかりしている時だ。バラバラな死体であればまずアンデッドにはならないし四肢のいずれかが欠損していても中々なりづらい。頭部や心臓が欠損していれば同じくアンデッドにはならない。

つまり何が言いたいかと言うと胴体を袈裟斬りにされて心臓を切り裂かれていた筈の商人がアンデッドになる訳が無いということだ。ましてやその身体を白い煙のような物が覆うと修復されるなどありえない。そこまで行くとそれはアンデッドではなく蘇生の類となんら変わらない。しかも今生まれたばかりの商人は自分が死んでいた事など覚えていないのか頭を振って驚いている。


「……何が起きたの」


スイは馬車から降りると先程蘇ったばかりの商人へと近付く。商人の妻らしき女性には喜びよりも恐怖が浮かんでいる。商人自体はその妻を見て笑顔を浮かべているが。

死んでいたと思えないほどのその姿にスイは気持ち悪さすら感じる。近付いてくるスイの姿に商人は何かを感じたのだろう。身構えた瞬間スイの拳が商人の腹部に当たり貫通させる。痛みを感じるよりも前に死んだ?のだろう。声を上げることも無く商人はその身を横たえる。


「意味が分からない」


そしてスイは首を傾げていた。盗賊アンデッドと商人アンデッドから感じた奇妙な魔力は同一のもののように感じた。冒険者パーティの奇妙な魔力とも合致する。つまり誰かが意図的にアンデッドを作っているということになるのだ。しかし何故そんなことをするのかがいまいち分からない。基本的にアンデッドは生者であれば誰であろうと関係無く襲いかかって来る。作ったであろう存在にも襲いかかって来るそれを作る理由が分からない。


「作った本人がひょこって出てきたら楽なんだけど」


そんなことは起きないだろうなと少し残念に思いながら商人アンデッドから着けている衣服を除いた金目の物を取ると商人の妻らしき女性に渡す。これから生活が苦しくなるのは明白だからだ。


「……まあ何となく分かっていたけどね」


渡してからすぐに周りを見渡すとふらっと死んだ筈の商人達が立ち上がる。それを見たスイは顔を顰めた後魔力の糸を出すとその糸を周囲に回転させて展開させ商人達を切り刻む。


「……見付けた」


商人達から伸びていた奇妙な魔力の糸をスイは見付けると手繰り寄せる。


「さて、とりあえず大元を断ちに行こうかな」


そう呟いたスイの瞳は死者を弄ぶかのようなそれに怒りを宿していた。

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