第261話 間が良いのか悪いのか
「いやぁ、スイちゃん達ってあんなに強かったんだな!そりゃ何処でだろうが休憩出来る訳だ!」
そう男性の内の一人が話し掛けてくるのをスイは適当に流した。自己紹介もされたのだが覚える意味も特に感じなかったので無視をした。というより覚えても意味が無いというべきか。
彼等の身体は人の身体ではないのだ。いや見た目こそ普通なのだが良く見てみるとかなりおかしい。何がおかしいかと言うとそもそも普通の人族は腹が一部無くなった状態で歩き回れるのかということだ。
パッと見た感じでは人族だし近くに来ても一瞬分からない程度には普通だ。だがその本質は恐らくアンデッドなのだ。そしてそこまで思い出して今更だけど色々ありすぎてオルテンシアを置いてきてしまったことに気付いた。
「ナイトメア、オルテンシアどうしよ?」
「……姫様、意図的に置いていったとかではなかったのですね」
「違うよ」
スイはそこでシェスの方を見る。久しぶりに会った奴隷商とシェスの力に当てられたせいかオルテンシアの事を完全に忘れていた。
「……まあ良いか。必要な時に力を借りよう」
オルテンシアと常に行動を共にしなければいけないわけではないのだ。あくまでオルテンシアは私に従うと言いに来ただけでそれは基本的にヴェルデニアと決着を付けに行く時位にしか使われないのだから。
「ナイトメア、とりあえず斬りなさい」
「……御意」
ナイトメアが剣を二回ほど振るうと冒険者パーティ、いやそのアンデッド達が上下に分割されて地面に落ちる。
「あ、が!?ぐぅぇ!!」
「珍しくアンデッドにしては知性らしい知性があったけど素因無しだとすぐに知性を無くすだろうからね。まだ人と言えなくもない今殺してあげる」
「ぎぃぅ!!ぁあ!リヂ!ドオォォ!」
アンデッドの大半は知性があれば生前の行動をなぞる事が多い。それを考えれば死んで尚人を助ける為の行動をしようとする辺り本当にお人好しで良い人達だったのだろう。
「はぁ……仲良くなれそうかなと思ったらアンデッドって世知辛いね」
「……姫様、アンデッドというのはこういう存在なのですか?」
「いやこの人達はアンデッドに成り立てなんだろうね。見た感じ損傷も少ないし自分達の死に気付けなかったんだと思うよ。アンデッドにも偶にそういうのが発生するんだよ」
そう言いながらスイは死んだ、いや既に死んでいた冒険者達から荷物を取ると指輪に入れていく。懐に手を入れるとお金等もあったがそちらも回収する。最後に身分の証明の為に冒険者カードを手に取りこちらもまた指輪に入れていく。
「……貰うのですか?」
「要らないよ。近くの街にでも持って行って引き取ってもらう。死体は……持って行こうか面倒だけど」
指輪に入れていくのは構わないのだが心情的にも良くないしそもそも見た目はスイも間違えそうになるほど普通なのだ。もしもスイが殺したと思われると面倒である。
「まあお腹食い破られてるんだから大丈夫だと思うけど」
お腹を食い破られてるとはいってもそれほど大きな怪我ではない。いや死ぬには十分な程度には食い荒らされてるが内蔵の類がそれほど食えなかったのか少ししか凹んでおらず服の上からだと何も分からない。スイが分かったのも奇妙な魔力で動いていたから気になって見てようやく気付いたのだから。
そして食い荒らしたのは獣だと思われる。この人達を殺したのが魔物ならばこの程度の傷とは思えない。恐らく人を食わない系統の魔物と戦い負けて放置されたところに獣が来て食われたのだろう。半端に食われてるのは食べていた獣が何らかの要因で逃げたからだろう。
「まあなるようになるよね」
面倒になったので思考を放棄する。それよりナイトメアが作ってくれた料理を食べたいという気持ちの方が強い。シェスも既に椅子に座ってじいっと待ってる。その身体に血の一滴も見当たらない事からミストウルフとの戦いで傷が付くどころか返り血すら浴びなかったのだろう。まあスイも返り血は浴びていないが。
一応気分として魔法で適当に汚れを取り除いておく。シェスにも同じようにすると気持ち良かったのか目を細める。ナイトメアにはそもそも汚れが付かないので掛けたりはしない。そうしてからスイが出したテーブルの上に料理が並べられる。
メインはミニアルゴドルの焼肉だがそれ以外にもナイトメア自身が買ったのかサラダがあったりフランスパンらしきもの等が置かれる。そこにスイが果実水と幾つかの屋台料理を足していく。スイとしては食事の際にはお茶が飲みたいのだが残念なことに未だそれらしきものが見当たらない。
紅茶の類もありはしたが茶葉で作られているわけではないようで名前もアッカートとかいう謎の飲み物になっていた。紅茶に詳しくは無いのでどういう種類の紅茶に該当するのかは良く分からないが昔飲んだストレートティーの味に似ていたと思う。
「ん、いただきます」
「?いたます」
「食前の挨拶だよ。作ってくれた人への感謝や命を貰った動物とかに対しての礼だよ」
「……いただ?」
「いただきます」
「いただいます」
シェスが言葉を必死で覚えようとしてくれるので割と教えるの自体は楽かもしれない。多少の修正を何度か加えるとしっかり発音出来るようになった。これはまだ子供だから柔軟な思考が出来るのか生来の気質かどちらかは分からないが楽なことに変わりはないので気にしないでおこう。
「いただきます!」
「いただきます」
「……いただきます」
三人で手を合わせて食事を始める。ミニアルゴドルの焼肉は人気だったがナイトメアの調理途中何度かミニアルゴドルがお肉を提供してくれたのか最初に渡した量よりかなり多い。そんなミニアルゴドルはフゴフゴ言いながらスイが渡したサラダを食べ果実水を飲みゆったりとしている。
「迷いの森まであとどれくらい?」
「……順調に行けばあと五日ほどで着けるかと。迷いの森への侵入は六日後でしょうか」
「ん、分かった」
スイは馬車の方を見て少しだけ寂しげな表情をしてすぐにそれを打ち消す。しかしシェスはそれを見ていたのだろう。スイの服をぎゅっと握って心配そうに見つめてくる。
「ん、ありがと」
スイはシェスの頭を撫でると食事を再開し始めた。
馬車が進むに連れて景色が変わるのを楽しんでいたシェスが少しだけ険しい目をするとスイもそれに頷く。そしてそれから数秒後に馬車の動きが止まる。進行方向に何かがあったのは事実でそしてそれが愉快なものでない事は確実だろう。
「……姫様、盗賊です」
「襲われてるのが居るという意味で盗賊?それとも私達を襲おうとしてるという意味?」
「……両方です」
スイはその言葉に溜息を吐くと前方の様子を見る。商隊だったのだろう馬車が盗賊達によって無理矢理動きを止められ護衛達が全員血の海に沈んでいる。商人達も全員殺されたようで馬車の外見が赤く染まってしまっている。女性が何人か居たようでそれらは武器を持っていれば奪われ服も破かれている。
しかし事に及ぶ前にスイ達がやってきたのかはたまたここでは破いて反抗心を削いでからアジトで襲うつもりだったのかそれは分からないが何にせよ女性だけでも助けられそうではある。一緒にいた護衛達や商人達が死んだのを間近で見たであろう女性達の心までは助けられそうにはないが。
そして盗賊達は規模が大きいのか数えるだけでも五十は居る。アジトにもまだ居るであろう事を考えるとかなりの規模だ。それに護衛達が殺されているのに対し盗賊達に死者は居なさそうだ。普通の盗賊ではないのだろう。ならば何かと訊かれても分からないが。
スイが馬車から降りると盗賊達は各々口笛を吹いたり下卑た視線を向けたりするが何人かは険しい目で見たり後退る者も居る。スイが見た目通りの力でないことは分かったのだろう。
同様にシェスが降りてくるとスイに対して険しい目や後退った者は全員武器を構えて冷や汗を流す。威圧感はシェスの方が強いからそうなってもおかしくはないだろう。ナイトメアには来なくて良いと手で指示を出すと頷く。そしてスイが少し前に出て盗賊達に首を傾げながら口を開く。
「とりあえず……死ぬ?」
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