第256話 二人の会話
「イーグ見て。イルミア城」
「うわっ、すげぇ。やたらリアルだなおい」
「一回しっかり見たからね」
「それでこのクオリティとかどうなってんだ」
「それでイーグが作ったのはどんなの?」
「ふっ、見て驚け!アルドゥスの城だ!」
「……出来の悪いおでんとかじゃなくて?」
「砂浜でおでんの模型とか誰が作るんだよ」
「……」
「やめろ、分かってるからじっとこっちを見るな」
「センスって残酷だと思わない?」
「そういうお前の服のセンスは」
「イーグこれはお互いに良くないと思うんだ」
「奇遇だな。俺もだ」
「話を変えてとりあえずおでん食いたいっていう認識でいいの?」
「話変わってないんだよなぁ」
「ごめん、おでんの印象が強過ぎて」
「まずおでんじゃねぇんだよなぁ!?」
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「イーグ本当にそれで良いの……?」
「ああ」
「霊骨を使えば」
「スイ」
「……っ!!でもっ!!私は」
「ごめんな」
「……そんな……そんな顔で謝らないでよ」
「……」
「イーグ……幸せだった?」
「ああ、満足してる」
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「蟹美味しいね」
「久しぶりに食べたけどやっぱり蟹って良いな」
「アルドゥスは海と接してたんだから食べる機会は多かったんじゃないの?」
「いやこういう砂浜が少なくてさ。魚はそこそこ取れるけど岩場が無いから蟹とかはそんなにな。勿論取れない訳じゃないけど」
「お金はあるんだから買い漁れば良かったのに」
「金はあっても有名になり過ぎると気軽に外出ってのも難しくなるんだよ。下手な発言出来ないしな」
「面倒臭そう」
「今ならテレビ越しの有名人の気持ちが良く分かるぜ」
「その点私はまだそこまで有名じゃないからマシだね」
「まあいずれスイも有名人だけどな。しかも確定された」
「やだなぁ……」
「はははっ!まあ少しの間だけでもゆったり過ごせばいいんじゃねぇか?」
「そうさせてもらおう」
「休める時に休むってのは大事だからな」
「ん、という事で食べ終えたらビーチバレー?」
「お前の中の休むって単語の意味を知りたくなるわ」
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「スイ」
「何?」
「俺な、お前の事好きだった」
「知ってる」
「やっぱり知られてるのか……恥ずかしいなおい」
「まあ結構分かりやすかったからね」
「そんなに分かりやすかったか?」
「拓も気付いてたし湊ちゃんも分かってたよ」
「うわぁ、マジかよ」
「ん、マジ」
「……っ!」
「恥ずかしがらなくても良いと思うよ?だって他のクラスメイトも殆ど知ってたんじゃないかな」
「それが一番辛いんだが!?」
「まあそれだけ分かりやすかったって事だよ」
「あぁ〜、いやもういいや。スイに訊きたかったんだよな」
「何を?」
「もし俺が告白とかしてたら付き合ってた可能性があったのか」
「……ん、そう、だね。私達が死ななくてイーグも一緒に居て……そしたら……もしかしたら可能性はあったのかもしれないね」
「そっか、しときゃ良かったか?」
「さあ?分からないや」
「スイで分からないなら俺も分からないか。なら良いや。可能性があったかもってだけで満足しとく」
「ん、可能性はあったよ……(多分それなりに)」
「何か言ったか?」
「ううん、何にも」
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「無理無理無理無理無理無理」
「いや水着まで自前で作っといて海で泳ぐのは無理ってどうなんだそれ」
「だって泳げないよ?死んじゃうよ?」
「こんな浅瀬で死ぬかよ。俺が立てる深さってならまだしもスイでも立てる深さだろうに」
「でも水に浮かぶんだよ?」
「泳ぐんだから当然だよな」
「溺れるよ?」
「どんだけ苦手意識あるんだよ!?ほら、手握っといてやるから」
「絶対に離さないでね!?離したら海蒸発する位の魔法撃つからね!?」
「それもう殺害予告じゃねぇ!?」
「きゃっ!突っ込むのは良いけど手を動かさないでぇ……!!」
「分かった分かった。ゆっくり足を動かして前に進むぞ」
「足が少しずつ下にいくよ?」
「もうちょい力強く足を動かしてばしゃばしゃ水が鳴るくらいに」
ズドンッ!!!ドパァァァン!!!
「力強すぎだろ!?音凄いことになったぞ!?」
「前に進めてるよ!」
「その代わりに波が逆向きに発生するっていう訳分からない事起きたけどなぁ!?」
「これなら私も泳げる!?」
「泳いだっていうか……推進力っていうか」
「やったよ!イーグ私泳げるようになった!」
「泳……まあ良いか。良くやったな」
「うん♪」
「……まあ良いか」
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「スイ少しだけ頼みがあるんだ」
「ん、どんな頼み?」
「スイって魔族の吸血鬼だろ?」
「そうだよ」
「俺が」
「嫌だ」
「最後まで言わせてくれよ」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!嫌だよイーグ……!」
「スイ……」
「イーグどうして……?何でなの!?イーグと折角会えたのに……!どうして!?」
「スイ……!」
「嫌だ嫌だよぉ……!私イーグと離れたくない……!イーグを……死なせたくない!」
「……スイ、ごめんな我儘で」
「謝らないで!我儘だよほんとに……!」
「……」
「本当に駄目なの……?イーグは私と居たくない?」
「そんなわけない!けど俺はもう無理なんだ。スイの負担になるくらいなら俺は自分の首を掻き切る」
「負担になんて」
「吸血鬼の眷属。それにはメリットしかないように見えるけど相応の負担がスイに掛かるだろ。知らないと思うなよ」
「……っ!」
「そもそも魔族の眷属が少ないのはそれが理由だ。受け入れられないとかそういうのもあるだろうけど一番の理由として眷属を作る時にその相手に魔族は自分の力を渡す。それは眷属が死ぬまで戻ってくることは無い。弱い人ならそれほど負担にならないんだろうけどその相手が相応の強さを持つと話が変わる。そうだろ?」
「……誰かに教えて貰ったね?」
「ああ、それなりにこの世界で生きてきたからな」
「全く……要らない知識ばかり持って」
「そうでもないだろ、今役に立った」
「……イーグ」
「それに俺は十分に生きた。戦線から離れて延命したけどその結果としてスイに会えた。きっと最後に頑張ったご褒美として神様が会わせてくれたんだろうよ。だから満足してる」
「私は……っ!」
「スイ」
「……」
「だから最後の頼み……聞いてくれないか?」
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「ありがとな……スイ」
「馬鹿……馬鹿だよイーグ」
「ああ、俺は馬鹿だからな」
「馬鹿……」
「ああ……スイ、俺の所にはそんな早く来るんじゃねぇぞ」
「分かってる。ずっとずっとずぅっとイーグを一人ぼっちにしてやる」
「ああ、それが俺の罰だと思っておく」
「馬鹿……イーグの所にはきっと寂しくならないように色んな人が来るよ」
「そうか……そうかもな。でもスイ、お前は来なくて良いからな」
「……分かってる……分かってるよ」
「それなら良い」
「……」
「スイ、どんな味なんだ?」
「檸檬とか苺とか林檎とか葡萄とか蜜柑とか」
「フルーツジュースみたいな感じなのか……」
「……馬鹿」
「ああ、ごめんな」
「馬鹿……馬鹿だよ本当に……イーグの馬鹿。きっと馬鹿なイーグはずっと分からないんだよ」
スイは抱き締めていたイーグの身体を少し離すとその血に濡れた唇をもう動かないイーグの額にそっと重ねる。
「さようなら……私の初恋の人」
スイの瞳から透明な雫が一粒流れた。
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