第254話 遊びに行こう



「本当に…!本当にありがとうございます!」

「ん、分かったからもう良いよ」


グウィズがスイ達の目の前でずっと頭を下げて感謝の言葉を延々と言い続けているのでスイ自ら止めた。最初のうちはちゃんと聞いていたが流石に三十分以上頭を下げられたままなのは色々と面倒臭くなってくる。

グウィズの恋人である女性、シャリスも起きてはいるのだが衰弱が酷く声を出すのも辛そうだったのでベッドでそのまま寝かせてある。一応起きて頭は下げられたので何が起きたのかは大体把握してはいるのだろう。


「ですが……」

「次ぐずったら怒るよ」


スイがそう言うと流石にグウィズも止まった。スイに怒られる程度と思わなかったのはやはり集めてきた素材が素材だからか。一つでも凄まじいまでの力を発揮する物を五つも集めてきたのだ。そうなってもおかしくはない。そんなグウィズをシャリスは不思議そうに見ていたが。


「では私達の大陸の話でもしましょうか」


グウィズが仕切り直しのつもりか元々のお礼として提示したそれを口にするがスイは首を振る。


「いや別に良いかな。どうせ貴方達今のままだと帰れないし」

「帰れない……ですか?」

「王海の大陸だったよね?その大陸の存在をこの大陸の人達は知らないもの。船を出して欲しいって言っても出してくれないよ」

「私達の元の船ならば」

「聞くけど貴方達何か月前にこの大陸に来たの?」

「……半年程前でしょうか」

「なら無理だろうね」

「何故ですか?」

「私も自分なりに調べてみたけど王海の大陸って名前じゃなかったけど父様達がそれを知ってたんだよね。移動する大陸として」


スイがそう言うとグウィズ達は目を丸くする。スイが王海の大陸と聞いた時には反応しなかったが話を少し聞いた上で記憶を探ると該当する存在が一つだけあったのだ。夜宮やくう大島おおしま、海を漂う巨大な浮遊島だ。海流によって様々な場所に移動する為はっきり言って到着は困難と言わざるを得ない。


「私達の大陸は大陸では無かったと?」

「大陸って呼んでも良いくらいの巨大な島だね」


スイの言葉に二人が頭を抱えるがこればかりは仕方ない。自分達の住んでいた場所が移動していたなど分かる訳がないのだから。


「まあいずれ貴方達の大陸、いや島には行ってみたいし私が生きていたら貴方達を帰す為にそれなりに努力はしてあげるよ」


スイの言葉を気休めとでも思ったか曖昧な表情を浮かべたグウィズ達だったがスイは割と本気である。ヴェルデニアを倒した後スイが治めるようになればグウィズ達の言う王海の大陸と接点を持ち交流が可能となればそれはスイの評判が上がる事に繋がる。だから積極的にそれを進めるつもりだった。簡単では無いだろうが出来た時の評価は高い。


「まあ今は休んでおけば良いよ」


スイはそう言うと立ち上がり部屋から出て行く。出て来るとオルテンシアがにこにこ笑顔で立っていた。なのでふと思い指輪から適当な骨を二、三本取り出すと口に咥えさせる。


「あむっ♪」


特に何か用事があった訳では無いのか骨を咥えて齧ったりしゃぶったりしてるので放置しておいた。別に犬とかの習性に近い物を持っているとかではなくオルテンシアが見た目にはそう見えないがアンデッドである事が原因だ。本来ならば人を襲う存在であるオルテンシアはトナフと同じ様に骨を食べる事でその欲求を誤魔化しているのだ。見た感じ骨を食べるという行為が食事や娯楽と混ぜ合わさっているようにも見えるがその辺りは何か調整したのだろう。


「イーグ」

「あの子だけ出て来てグウィズが入ったって事は終わったんだよな?」

「うん、呪詛は消せたよ」

「そうか、それなら良かった。若いやつが死ぬのはあまり見たくないしな」

「……そうだね」


スイは少しだけイーグに近付くとその手を握る。


「ねえ、少しだけ遊びに行かない?」

「何処に行くって言うんだ?それに帝都に向かってるんじゃなかったのか?」

「ん、そうだけどここで二週間も使ったし後数日位なら誤差みたいなものだよ」

「そうか?まあそれなら良いか」

「ん、海にでも行こうか。砂浜とかで遊んだりしよ?」

「もしかして生まれ変わっても泳げないのか?」

「……」


イーグの言葉に顔を逸らす。それを見たイーグは堪えきれないといった感じの笑みを浮かべる。


「泳げなくても死なないもん」

「でも泳げた方が良いのは間違いないだろ?」

「……むぅ」

「分かった、分かった。もう言わないから」

「とりあえず海にでも行くの。良い?」

「分かったよ」


イーグの返事を聞いて頷く。


「じゃあ行こうか」

「へ?」


イーグの身体を掴むとそのまま持ち上げる。突然の事態に固まったイーグに笑顔を浮かべる。


「海まで遠いしいっぱい遊びたいから、ね?」


そう言いながら近付いてきたナイトメアに適当に金貨と銀貨を十枚ほど渡すと宿の窓から飛び出す。イーグは驚いているのかそれともこの位では大丈夫なのか声も上げずに私に必死に捕まっている。私はそのまま街の壁から飛び出す。正門から抜けても良かったのだが色々と面倒になりそうなのでやめておいた。


「さあ、飛ばすよ」


ティルを開いて翼のようにすると海に向かってかなりの速度で進んでいく。道中には色々と魔物も居たがそれらは完全に無視した。途中からはイーグも周りを見るようになったのか少し目を輝かせていた。



飛び出してから暫く経つと地面に降り立つ。まだ海には到着していないがこの調子なら明後日には到着する事だろう。


「今日は野営だよ。海に着くのは明後日位かな?」

「野営って言っても特に何も持ってきてないぞ?」

「食事なら大丈夫、寝る場所なら……土壁ウォール


言いながら深き道でも作ったような巨大な岩にしか見えない即席テントを作る。


「ここで寝れば良いよ」

「土壁ってそんな魔法じゃねぇんだけどなぁ……」


苦笑を浮かべるイーグの手を掴むと中に入っていく。少しばかり暑かったので空気穴を幾つか作って風を起こして涼しくさせると地面も綺麗に均す。その上に適当に作った石のブロックを敷き詰めると更にそれを均してツルツルにする。塔から拝借した布と魔物の毛皮を幾つか使って作ったカーペットを敷くとその上にベッドを置く。


「うわぁ……すげぇ」

「ん、以前野営した時は寝づらかったからね。ちょっと時間のある時に少しずつ作っておいたの」

「自作なのかよ」

「カーペットとその石のブロックだけね。ベッドは私が生まれた場所にあったやつだよ」


言いながら指輪から適当な料理を出していく。屋台で買った料理ではなくちゃんとした料理店で包んで貰った料理である。屋台の料理も美味しいのだが料理店で出している料理の方がやはり美味しいものが多いのだ。偶にとはいえ料理を大量に包んで貰うので料理人の間ではどこからともなく現れては料理を大量に包んで貰う上客の少女が居ると噂が流れているのだが当人であるスイは知らない。


「美味しかった」

「ああ、王味亭の料理だろこれ?」

「分かるの?」

「以前食べた料理だったからな。でも暫くぶりに食べたけどまた味が進化してたな」

「ん、初めて食べた料理だからつい頼んで指輪に入れてもらったんだよ」

「なるほど。まあ初めて食べた料理が王味亭ので良かったな。俺が食べた料理はめちゃくちゃ不味い粥だったぞ」


イーグと暫く料理の話で盛り上がった後に寝る事になったのだがイーグがそこで激しく反対した。


「いやいや、待て待て。そりゃ年齢的には大丈夫と思うかもしれないけど一応男女だぞ?しかもましてや前世での間柄だぞ?同じベッドで寝るのは駄目だ」

「なら一緒に雑魚寝でも」

「女の子なんだからベッドがあるならそっちを使え。おれはカーペットの上で十分だから」

「私だって、それにイーグより私の方が身体頑丈だよ?」

「そういう問題じゃない」

「むぅ」

「それに彼氏が居るんだろ?幾ら何でも駄目だろ」

「……分かった」


指輪からシーツだけでもとイーグに渡す。イーグはシーツを受け取るとこの話は終わりだとでも言わんばかりにカーペットの上で横になる。仕方ないので下の石のブロックに魔法を掛けて柔らかくする。低反発枕のような柔らかさになった事にイーグは驚くが手だけ上げて返事をする。私もベッドに横になると灯りの魔導具を消す。


「……(私達は後何日居られるんだろうね)」


イーグの横顔を見ながらスイはそんな事を思いながら手を少しだけ伸ばす。その手は何にも届かないまま戻されそうになった時にイーグの手が伸びてきてその手を掴む。


「……」

「……」


お互いに何も言わないままだがそこに感じた熱は多分ずっと忘れはしないだろうとスイはそんな事を思いながら眠りについた。

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