第229話 戦いの結末
スイです。現在敵である筈の九凶星の一人に求愛されています。しかも愛して貰えるならその立場は捨てるらしいです。
「とりあえず少し離れるね。此処は私の部屋だから来ないとは思うけどジェクスの馬鹿は来るかもしれないから」
「待って。その前に聞かせて」
「何を?」
「貴女はヴェルデニアについてどう思ってるの?」
「あの屑の事なんて話したくないんだけど……分かった。じゃあこう言おうか。私は全て知ってるよ。あのお方の忘れ形見様」
スフィアのその言葉に驚くけどその時にはスフィアは部屋から出ていってしまった。父様の事を知っている?いやもしかしたら鎌を掛けているだけかもしれない。適当な言葉でも自信を持って言われると信憑性が増すのと一緒だ。
「スフィア……」
あの子の姿を父様は知らない。少なくとも会ったことは無いのだろう。まあ父様もハーディスの国民全員の顔を見知っていた訳では無いだろうし周辺の村の者なら余計に分からない筈。そういった所に住んでいたのかもしれない。なら何故スフィアは私を忘れ形見と言ったのかそれが分からない。
私を産まれさせる計画はかなりの機密だった。知っているのは二十を少し超えた程度の人数だ。その誰かが漏らすわけもない。断言出来る程度には信頼関係が深い間柄の者達でそしてその中にスフィアは居ない。
「何処で知ったの?」
分からない。情報が少な過ぎる。あと頭が上手く回らない。想像以上にダメージが大きかったみたいで今は無理矢理起きたみたいな感じかな。まあ殆ど死にかけだったしね。
考えても分からないし私は再びベッドに横になる。隣のベッドにアスタールが寝かされていて何故かグライスを握っているのが良く分からない。グライスは指輪の中に入れたと思うんだけどなぁ。もしかして誰かが出したのだろうか?
そんな下らない事を考えていたら眠気が襲ってきた。私はその眠気に抗わずにそのまま深い眠りに落ちた。
「……ん?あ、起きた?二回目だね」
目を覚ましたら目の前に椅子を置いてそこで本を読んでいたスフィアに話し掛けられた。
「疲れてたんだね。気付かなくてごめん」
スフィアが申し訳なさそうな表情で謝る。何故か謝った後にベッドに潜り込んできたんだけど。
「何もしないよ」
既に抱き着いて胸に顔を埋めておいて何もしないは嘘くさい。とは言っても身体が痺れているかのように動けないから抵抗も出来ない。父様達の研究の一つに確か一度心臓又は脳に位置する部位を失った魔族のレポートとかあったっけ。私の場合消滅したのではなく一時的に切り離された状況だ。その場合はおよそ二日間身体の違和に悩まされたって書いてあった筈。
ということはこの身体の痺れは恐らくそれなのだろう。二日間もこんなのが続いたら逃げ切れるわけないね。だって力がまず入らないもの。
ケルベロス達の身体もどうやら死んだらしいし。いやケルベロスとアスタールだけは生きてるか。……ん?ケルベロスまだ生きてるの?今どんな状況なのだろう。
「スーハースーハー。良い匂い。何時までも嗅いでいられる」
ケルベロスの意識に繋がりを利用して周囲を確認しよう。可能ならケルベロスには死んで欲しくない。他の子達は私を生かす為にその身を使ったみたいだけど今の状況ならケルベロスという存在は残しておきたい。私が意識を飛ばす頃に何か服が捲れた気がしたけど気の所為だと思いたい。
「……がっ!?」
「グァウゥ!!」
「……クソ……何だ…よ…このバケ」
ガチン!!
ケルベロスの視界にリンクした瞬間ケルベロスの牙に誰かが喰われた。魔族であるのは間違いないけどあまりに一瞬過ぎて誰かまでは判別出来なかった。周りを見たケルベロスの視界には死屍累々の状況だった。軍服を着ているから魔軍の者達だろう。その内の一人にケルベロスは近付くと容赦無くその牙で葬った。
「この化け物がぁ!!」
少し離れた場所からケルベロスに向かって土弾の魔法が飛んでくるけどケルベロスの身体は炎の塊となってすり抜ける。魔法がすり抜けた瞬間実体化したケルベロスは魔法を撃った兵士に一瞬で近付くとその爪で引き裂いた。
(……ケルベロスこんな強かったっけ?)
確かに暇さえあればケルベロスに魔力を渡していたけど創命魔法では発動者の魔力を上回れない筈だ。つまりもしこれが本当の実力なら私はこれくらい出来ないとおかしくなる。だけど現実は出来ない。少なくともこれだけの数の魔軍の兵士を相手するなんて到底不可能だ。そもそも相手出来るのならヒークが死ぬのがおかしい。ヒークとケルベロスは共に私が一から造り上げた個体だ。そう簡単にはやられない筈。
「グルゥ……」
ケルベロスの周囲には魔軍の兵士達が倒れているけどその命までは失ってはいない。無造作に近付くと一人だけ引っ張り出して喰い殺す。まるで選んでいるかのようなその行動に驚く。そして選ばなかった者達には目もくれないのだ。暫くその行動を続けた後にケルベロスは歩き始める。
周りに倒れた魔軍の兵士達の姿があるせいで死体の花道のようになっている。そしてその花道の終わりに一人の魔族が倒れていた。身の丈程の長剣を持つ男だ。その近くには……??死んだ筈のヒークが飛び回っている。何かの魔法を掛けているようでその周囲が少し暗い。
「グルゥ?」
「……ホー、ホー」
「ガァ、グルル」
「ホー」
何を喋っているのかはさっぱり分からないけれど何かしているのだけは分かった。頭を傾げているとケルベロスとヒークの思考が流れてきた。どうやらケルベロスに見られているのが気付かれたらしい。そんな事も出来るんだね。私の知らない特殊能力増えてない?
(この者は天斬のジェクスと名乗る者です我が主よ。ケルちゃんの言う通りなら九凶星の二だそうです。まあ促成栽培の弊害でしょうねぇ。素因数十七の癖に弱かったらしいですから)
(ケルちゃんとか言わないで。ヒーちゃんの言う通りです主様。素因の殆どの力を引き出せておらず魔力に任せた魔法しか撃たなかったのでこうして仕留めておきました。既に消化中ですので万が一にも蘇ることはありません)
二人はメス?なんだね。いやそんなことはどうでも良いか。え、九凶星倒しちゃったの?しかもその言い方だとケルベロス単体で倒してない?本当?嘘じゃなくて?ケルベロス強くない?
(そう言われましても主様の力により私は強くなりましたので)
(ケルちゃんもヒーちゃんも我が主の眷属としての力を貰いましたので強いのは当然です。えへん)
(調子に乗らないの。主様は私達に魔法としての限界をお与えにならなかったのを覚えていませんか?主様と共に成長する魔法として私達は存在しています)
その言葉で分かった。ケルベロスもヒークも生み出した当初は私の素因が完全では無かったから後々力を与えて強くなれるようにしたのを覚えてる。
(そして主様は分かっていないようですが魔素の濃い場所に行かれたので私達にはその恩恵が直接来たのです。深き道の深層部であったり帝都のダンジョンであったりと異界という一種の魔力塊に魔法である私達を連れて行けばそうなる事は明白だったでしょう)
(深き道は良かったね!彼処の濃さは随一だったよ!)
(それに恥ずかしながらここ数日は主様が魔素の吸収に精を出されていましたので吸収し切れなかったものを私達二人で分け合いました。それでつい先日私達は魔法としての枠を消すことに成功しました)
(私達は魔法でありながら生物。前からそうではあったけどその比率が大きく変わって今では生物でありながら魔法という状態です。まあ何が変わったのかと言われても私達にも説明出来ないですけど!)
調べてないから良く分からないけどとりあえず強くなったと思っておけば良いのかな?後多分だけど生物でありながら魔法というのは自ら成長できるようになったってことだと思うよ。というか魔素の吸収を私からじゃなくて自分達からしている時点で分かってると思うけどね。
(成程、流石我が主!)
(主様、このジェクスはどうしましょうか?基幹素因だけは消化しましたが残りの十六の素因は手付かずのままです)
ん……と、そうだね。二人で消化しちゃって良いよ。そいつのなんて要らないから。
(分かりました。ありがとうございます主様。これで一層強くなり主様のお役に立てるよう頑張りますね)
(いっぱい食べるぞ〜♪)
そこで私は意識を戻した。最後に見た光景は嬉々としてジェクスの身体に喰らい付く二匹の獣だった。
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