第230話 突然の強襲



意識を戻した頃にはやっぱりというか当然の様に服を捲れていてその中にスフィアが潜り込んでいた。とりあえず離れるように言っておいたけどいつか無理矢理襲われそうな気がして仕方ない。

それとアスタールなのだけど何故か起きないので気になって繋がりを意識してみたら完全に死んでいた。見た目には生きているのだけど死んでいるという不思議な状態だ。魔力を与えたら蘇った。そもそも生死の境が曖昧な存在であったことを忘れてた。

蘇ったけど意識の復活まではさせなかった。私が意識を回復させるまでは倒れたままだろう。申し訳ないけど今の状況だとスフィアと私の関係を誤解されそうだからね。だって服が捲れていても自力で戻せないし。

スフィアは私に怒られた後何かに気付いたように外に出ていった。多分タイミング的にジェクスとかいうのがケルベロス達に喰われた事を何らかの方法で気付いたんじゃないかな。さて居なくなった所でケルベロス達を回収する。距離が少しあるので難しいかと思ったけど繋がりを利用したらすぐに戻ってきた。


(我が主〜♪)(主様♪)


戻ってすぐ顕現して抱き着くように体当たりしてきた。ケルベロスは当たり前だけど子犬サイズだ。元の姿での体当たりとかただの攻撃である。ヒークは元から小さいので元の姿だけど。二人とじゃれ合いたいけど身体が動かないから何も出来ない。

もみくちゃにされるようにして暫くじゃれ合って?いると二人が私の服を見て何故かピタッと動きを止めた。どうしたのだろうかと見ていたら二人の思考がダダ漏れになってきた。


(……エロい)(……エッチですね)


二人にもみくちゃにされたせいで服は捲れて遊んだことによって少し身体が上気している。偶に意図せず顔の所に二人が来るから息も少し切れている。なるほど確かに二人の言う通りかもしれない。でも二人のせいなんだけどね?


(……我が主!一生のお願いです!身体が人型になれるようにお願いしたいです!)

(……わ、私もお願いしたいです。主様)

「……人型になって何をするつもりなの?」

(我が主とエロいことを!)

(主様と……///)

「却下」


何でスフィアという子にまで迫られている状態で私が生み出した魔法にまで迫られなきゃならないのか。そして貴女達二人にそういう本能があったことにも驚きだよ。あっ、ほぼ生物になった以上その本能も芽生えちゃったのか。ケルベロスとヒークが多産とかだったら子供達だけで軍を壊滅させられるんじゃないかな?


(えぇ〜!駄目ですかぁ?我が主〜!)

(……残念です主様)

「別に人型にするのは構わないんだけど今は駄目だよ」


人型になればケルベロス達には色々な事を頼めるようになるだろうし別に人型にすることは構わないのだ。ただ迫られたら困るというのともう一つ単純に魔力が足りないしそこまで膨大な魔力を使えばすぐに気付かれるという事だ。


「だから駄目」

(それなら仕方ないです。分かりました!我が主!)

(主様の為に誠心誠意尽くします!)


二人が納得した所で服を直して貰い身体の中に戻って貰った。アスタールも戻したいけどスフィアに見られている以上いきなり居なくなったら……いや別に勝手に部屋から抜けたと思うだけか。別に大して問題が無いことに気付いたので戻しておこう。

そうしてから暫くしたらスフィアが慌てて戻ってきた。何やら焦っているようで私の身体を持ち上げようとしている。


「何?どうしたの?」

「不味い……不味いんだよ」


スフィアは私の言葉に返答せずひたすら同じ言葉を呟きながら私にマントを羽織らせるとフードをしっかり被らせる。影の衣ほどでは無いけどマントには認識阻害が加えられているみたいだ。その後私の身体を抱き寄せると部屋から走って抜け出す。突然過ぎる行動に私は目を瞬かせるしか出来ない。私の身体が不調であることぐらい分かりきっているだろう。なのにどうしてこんな事を……と考えたところで先程まで居た部屋が爆発した。明らかな攻撃に私の身体は強張る。


(我が主……凄まじい力が感じられました。あれは現状だと何も出来ません)

(主様力の限り戦うことで時間を稼ぎたいと思うのですがどうしますか?)


私はその言葉に返答することも出来ない。ただ後ろを見ている。そこに荒れ狂う程の力の奔流がある。スフィアはそれから逃げているのだろう。だけどそれはあまりにも……。


「何処に逃げようってんだ?スフィア?」

「っぁ!?」


声が響いたと思った瞬間私は地面に投げ出された。私を抱えていたスフィアは呆然と自分の切断された足を見ている。それを為したのは赤い髪の青年だ。一見して普通の魔族だ。赤い髪は炎が形になったかのように時折凄まじい熱が漏れている。そして右手には一振りの長剣が握られている。左手はいつ掴んだのかスフィアの髪を掴んでいて逃げ場は無さそうだ。


「ヴェ、ヴェルデニア様」

「質問に応えろよ。何処に逃げようってんだ?」


ヴェルデニア!!抑え切れない程の強い憎悪が胸の内から溢れてくる。殺す!コロス!殺してやる!!

私が睨んでいる事に気付いたのかこちらを一瞥すると興味無さそうに視線を逸らす。そしてスフィアを再び見ると嗤う。


「くっははは!!成程、このちびっこいのが俺の敵か。随分小さいのに恨まれたもんだ!!んでスフィアは可哀想でこいつを助けたいとそういうことか?」

「あ、ぁぁ」


ヴェルデニアから漏れた力の奔流でスフィアは恐怖を感じたのかガタガタと震える。


「命ず。応えな。このガキは何だ?」


ヴェルデニアから特殊な力の波動を感じた。これが魔神王の素因か。そしてそれを向けられたスフィアは暫く抵抗していたが答え始める。


「こ、この子はスイです。ウ、ウラノ、リア様の……む、娘」


抵抗に失敗したスフィアは泣きそうな表情で私を見る。魔王と言えるだけの素因数があろうと魔神王の素因が通用するレベルまで力が跳ね上がっている事に驚愕を隠しきれない。


「ウラノリアの娘……だと?」


ヴェルデニアが此方を凝視する。せめて逃げられないのなら誇り高く死のうとヴェルデニアを睨み返す。混沌の素因の準備もしておくけど今の状態で当てられるとは思わない。だけど最後まで諦めたりするものか。


「あいつに娘なんて居たのか?息子が居たのは知ってるがいつ生まれた?」


呟いた後ヴェルデニアは私に向き合う。


「命ず。応えろ。てめえは……」


その命令の言葉は最後まで聞けなかった。突如として横合いから出現したあまりに強大な魔法によってヴェルデニアが吹き飛んだからだ。


「そのお方は希望ですよ若造」


ここに居る筈の無い者の声が聞こえた。私は魔法が飛んできた方を見るとそこに立っていたのは。


「グルムス」

「はい。スイ様」


グルムスが幾人かの魔族を従えてやってきていた。その魔族達はヴェルデニアの消えていった方を睨んでいる。


「どうしてここに」

「それは勿論スイ様の為にとしか」


そして無造作に近付くとグルムスは私の額に魔法を掛けた。最近掛けられた魔法だ。


贈り物ギフト

「……グルムス!?」

「ええ、分かっていますよ。スイ様最後のお願いです。この宿舎の地下に存在する素因達を片っ端から奪ってきなさい。癒える影マリ・アリデ風の冷たき抱擁ルフト・ハンザ・ウラームデ


魔法が唱えられた瞬間私の身体が癒えた事が分かった。


「走りなさい。スイ様」

「……グルムス。ん、分かった。でも最後に」


立ち止まった私を見つめるグルムスに私は最初で最後となる命令を下す。


「貴方の爪痕をあいつに残してきなさい」

「!?勿論です。傷跡は必ず残しましょう」

「グルムス……貴方が居て良かった」

「ありがとうございますスイ様。私も貴女が居て良かったです」


その言葉を聞いて泣きそうになったけど私は気丈に笑顔を浮かべるとグルムスに笑いかけた。グルムスはにこりと笑うとヴェルデニアの消えていった方へと歩き始めた。私はそれを背中に感じながら走り出す。きっとヴェルデニアが生きている限り決して終わらないこの嘆きを力に変えて。誓おう。必ず私がこの手でこの嘆きを終わらせると。最後にもう一度振り返ったけどその時には何も見えなかった。

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