第227話 断裂剣グライス
【所有者の意識の喪失を確認。現在の状況では生命維持は困難と判断。繋がりを利用し一部の権限を掌握。これより断裂剣グライス。所有者の力、及び内蔵魔力を使い危険地域より離脱する。また所有者の害は極力排除する】
所有者スイの生命が危篤状態に陥りました。困ります。私は貴女を所有者とは認めましたがその他の有象無象を所有者になど致したくありません。仕方無いので少々無茶を押し通させて貰いたいと思います。
指輪の亜空間を抜け出し顕現致します。可能な限り所有者スイの身体を近くに寄せておきましょう。これで離脱の際に少しは楽になる筈です。
所有者スイの意識を断絶させた男が此方を見ていますね。丁度良いです。そのまま貴方は切り刻まれて死になさい。自立行動し始めた私の剣速に逃げられると思わないことです。
さて、切り刻んだ所で所有者スイの権限を利用しましょう。この場に存在する全魔族を殲滅するには些か私の内臓魔力が心細いです。それに所有者スイもそのような事は求めてはいないでしょう。良い剣というのはしっかり求められている事だけを実行するのです。
【危険地域より離脱の為行動を開始します】
私では所有者スイの身体を移動させる事が出来ません。短い距離ならば行けるのですがそれだけです。ですので身体を移動させる事が出来る者を呼び出しましょう。
【所有者スイの身体に眠る魔の者達よ。我が呼び声に応えよ。汝等が主、所有者スイの為にその身を捧げ幾許かの時を稼ぐ。これに失敗すれば汝等が生命は喪われると心得よ】
そう言って呼び出したのは所有者スイが名付けたブレーキゴリラのヤグー、セン、シュリの三体。これより作戦行動を開始します。ほんの少しの差配の間違いで所有者スイの生命は蝋燭の火よりも容易く吹き消されてしまうことでしょう。責任重大です。
「ウッホーホッホ!(俺が時間を稼ぐ!ヤグー!スイ様を連れて逃げろ!シュリは悪いが俺と共に)」
「ウホ!(うん!)」
「ウホ、ウッホホ(ああ、任せろ)」
やはりこの個体達不思議ではありますが状況把握能力が高いのは有難いですね。では続けて行きましょう。ヤグーと呼ばれた個体に意識の接続。道案内をしていきます。
「ヴェルジャルヌガ!?どうしてこんな所に!?」
誘導の素因のお陰か所有者スイの身体から滲み出るように生まれたのは確認されていなかったのでしょうか。それはそれで都合が良いので気にしないでおきましょう。次に呼び出すのは名前の無い個体達。ブレスウィーズルです。三体だけ呼び出しそれぞれブレーキゴリラ達に
これでブレーキゴリラの生存時間が恐らく七秒程伸びたことでしょう。再びヴェルジャルヌガ達を呼び出します。彼等の大半は混戦でこそ役に立ちますから。
イグナ、ダダ、キュリス、トンレン、テンニャンの五体を呼び出します。スライディングゴリラと股潜りゴリラです。現在斬られかけているセンの元に送り込みます。勿論ブレスウィーズルの祝福も掛けさせました。ここまでで十三秒です。魔族の力量を過小評価していたようですね。不味いです。
「くそ、追加だ!」
「叩き潰せ!」
身体の大きなヴェルジャルヌガ達によって通路が塞がれましたがそれでも包囲出来ずに魔族達は幾人か抜け出し追い掛けて来ています。ヤグーは強化されていますが建物内という事もありあまり速度が出ません。追い付かれますね。接敵時間は二十四秒後。早すぎます。更に上方修正しなければ。
「ウホ(道は)」
【右、二つ目の角を左にその後はずっと直進】
「ウホ(分かった)」
逃げている方角は北です。上手く逃げ切れたら良いのですがかなり困難ですね。現在の状況では所有者スイの生命断絶の可能性が九十八%。
「ウ……!?」
左に曲がった瞬間そこに居たらしい魔族によってヤグーが切り捨てられます。不味いです。咄嗟にヴェルジャルヌガの残りのアルフェ、ルメ、シニャ、ユユの四体を呼び出します。シニャに担がせ走らせます。
「ウホ!(行って!)」
「ウホウホ!(任されましたわ!)」
ルメに抱き着かれた魔族が抜け出そうとしていますが上手くいっていないよう……切り捨てられましたね。個体の能力値が高過ぎます。これが最強種族ですか。膨大な戦闘経験と戦闘センス、高い身体能力と魔力にて身体を作られている事による関節の稼働限界の突破。敵にすると厄介極まりないですね。しかもこの方々は軍属の兵士。当然他の魔族よりも強いに決まってますか。
「ウホッーウホッウウッホォーホォー!(顕れよ!根源たる魔!
吹き荒れる風によって魔族は吹き飛ばされますが受身を取りましたね。もっとヴェルジャルヌガが魔法を!?と動揺して動きが止まってくれたら良かったのですが。アルフェもそれを思ったのか一瞬動揺しましたね。あぁ、そんな事をしていたので切り捨てられましたね。
シニャも逃げていますがブレスウィーズルを出せなくて祝福が掛かっていないので接敵するまで五秒もありませんね。というか三体を瞬く間に切り捨てたこの人もしかして隊長クラスでしょうか?仕方ありませんね。
シニャを切り捨てようとした瞬間一体を呼び出します。所有者スイの忠実なる僕、ヒーク。本来なら直接戦闘は苦手な方ではありますがその高い隠密性と敏捷でその魔族の目を抉ります。
「ぐあっ!!」
追い討ちで魔法を使いましたね。初めて見る魔法です。ヒーク専用の魔法、
ですがこのお陰で時間が稼げそうです。今の内にブレスウィーズルの祝福を掛けておきます。あぁ、シニャを除くヴェルジャルヌガが全滅ですか。稼げた時間は五分も無いとは。シニャも分かったでしょうが泣く事もせず走り続けていますね。時は掛かりますが貴女達の献身は必ず所有者スイには知らせますので此処を生き残れたら復活出来ますよ。
短い時間ではありましたが指輪を取り出し中から素因を回収して所有者スイに再び入れる事は出来ました。首と下半身もずっとくっつけていたから治りましたね。まあ意識の断絶から復活するまでにはまだ時間は掛かるでしょうが。
「ウホウホ!(どっちですの!)」
【……っ!?】
先程まで無かった筈の曲がり角が生まれています。有り得ません。構造変化の音は聞こえませんでした。ならばこれは……!?
「ウホ……?」
曲がり角になっていた壁から剣が突き出されてシニャの腹を貫きます。やはり魔法で作りだした壁でしたか。暗くなっているというのにもう目が慣れたとでもいうのですか!?シニャの身体から力が抜ける寸前に呼び出します。
呼び出したのは最近眷属と化した存在、アルズァーンです。所有者スイの眷属の中でもケルベロスに次ぐ戦闘能力の持ち主です。ヒークは強いですが奇襲が主ですからね。
【状況は理解していますね】
【分かっておりますグライス殿。私の身命を賭けて主様をお救いしてみせます】
クルルゥァ!!っとアルズァーンが吼えるとその背中から大量の蜥蜴達が生まれます。分体ですね。それぞれの力はかなり弱いですが石化の能力自体は強いです。一度に放出するのではなく幾体かだけで纏める辺り良く分かっていますね。シニャを切り捨てた魔族が蜥蜴の石化により動けなくなりました。後は何処まで逃げられるかですね。
【少々無茶な移動をします】
アルズァーンのその言葉に疑問を抱くよりも前にアルズァーンが壁に向かって突進しました。凄まじい音が鳴り響き建物全体が震えます。アルズァーンの姿は十メートルを超す巨大な蜥蜴です。そんなものが体当たりをしたらそうなるのは当たり前ですか。
しかもアルズァーンはそのまま蜥蜴を撒き散らしながらひたすらに直進していきます。道中で魔族が居ましたが直ぐに通り抜けるアルズァーンに攻撃を当てられないか当てても硬い鱗に弾かれるか切れても直後に尻尾に弾き飛ばされます。
これならいけるかと思いましたが突如苦悶の声をアルズァーンがあげます。見るとアルズァーンの尻尾が断ち切られています。しかも魔族達も既にかなりの数が追い縋っています。
【これ以上は不可能です!グライス殿ケルベロス殿を!私はここに残ります!】
【分かりました】
私が呼ぶよりも前にケルベロスが出てきました。所有者スイの身体を咥えると即座に背中に乗せて走り抜けます。脇目も振らず走り抜けます。背後でアルズァーンが奮闘しているのは良く分かりました。
ケルベロスによって宿舎を飛び出せました。飛び出す寸前にブレスウィーズルを出しておきアルズァーンとケルベロスの両者に祝福を掛けさせました。ヒークはいつの間にか居ないのですが倒れた訳では無いようです。アルズァーンの援護でしょうか。
アルズァーンとヒーク、後わちゃわちゃしていた大量のブレスウィーズル達によって時間を稼いだお陰かその場を逃げ切る事に成功しました。
ひとまず安心と言いたいところですがケルベロスにはそのまま力尽きるその時まで走り抜けて貰いましょう。嫌な予感がするのですよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます