第217話 魔の大陸西方・概念迷路攻略



【主様見付けました】


アルズァーンの声に振り向くと小さな蜥蜴がその背中に光り輝く砂を乗せている。蜥蜴の頭を撫でるとその砂を手に入れる。


「これで四段階目はクリアかな」


砂を持ち上げ掌にグッと力を入れるとカシャンという音と共に空間が割れ次の段階の迷路が見えてきた。四段階目クリアに掛かった時間は五時間。本来掛かるであろう時間を思えば早い方だろう。


「ふぁ……」


流石に眠たくなってきた。迷路に入ったのが昨日の朝だったが一段階目で一日と五十分、二段階目で七時間、三段階目が一時間、そして四段階目で五時間。既に外は真夜中だろう。ずっと探していたせいで食事も碌に取っていないから疲れもある。


「ご飯食べたら寝よう」


五段階目の迷路に入ったらその場で座って指輪から適当に出して食事をサッと済ませる。美味しいけどそれ以上に眠たいからあんまり印象に残らない。


「誰か朝になったら起こしてね」


そう言い残してその場で横になる。疲れがあったのかすぐに夢の中に落ちていった。



顔をもふもふした何かがつついている。しかも身体の周りにももふもふした何かが居て暖めてくれているようだ。何か小さいのも居るみたいだがあんまり分からない。少しづつ目を開けるとまず手元にうさちゃんが居て手が冷えないように身体を乗せていた。次に耳にはヒークが居てぺたんこになって身体を擦り付けていた。腹にはペンペンが居てギューっと抱きついてきていた。そして最後に私の身体全体を覆うようにケルベロスがその大きな身体で包んでいた。そのケルベロスは私の顔を鼻先でつんつんと押していた。

……何この子達、可愛すぎて仕方ない。後小さ過ぎていまいち気付かなかったけど身体の細かい所が冷えないようにウィーズル達が尻尾や身体を使っていた。可愛すぎて仕方ない。アルフェ達ヴェルジャルヌガは身体が大きいからか居ないようだ。だけど少し離れた場所にその反応があるので外には出ているみたい。


【起きましたか主様】

「アルズァーン?ん、起きたよ」


皆の頭を撫でてからゆっくり身体を起こす。ケルベロスを除く全員が戻っていくのを確認すると周りを見渡す。目の前に広がるのは広大な草原だ。五段階目の迷路はシンプルだ。この草原に生息する魔物の全殲滅。いや言い方を間違えた。ここは草原以外にも色々あるのだからその全ての場所に生息する魔物の全殲滅と言った方が正しい。

五段階目にあるフィールドは初期の場所として草原、北に行けば氷原があり東に行けば海がある。西へ行けば山岳があり南に行けば砂漠がある、と何処かで聞いたことあるような配置である。というかそのまんまである。魔の大陸のフィールドに沿っているのだ。


「……はぁ、時間掛かるんだよね」


そう言いながら周りを改めて見渡して一回立ち止まってもう一度見渡す。ある筈の物がない。


「あそこにある筈の山……何処に行ったのかな?」


私の問い掛けにケルベロスが喉から唸るような声を出す。ケルベロスの方を見るとワンっと元気な声で返された。


【失礼かと思いましたが主様の記憶を少し拝見させて頂きました。この五段階目は魔物の全殲滅という事で素材も取れないようですし眷属の皆様にお願いして魔物を狩りに行ってもらいました。もしや駄目だったでしょうか?】

「え、あぁ、いや良いんだけどね」


アルズァーンが優秀で困る。この子本当にただの魔物だったのか疑問に思う。まあそれを言ったらイルナとか何って話になっちゃうからやめておこう。


【西の山岳地帯はケルベロス様に壊して頂きました。南の砂漠地帯は私が、東の海はうさちゃん様とヒーク様に、北の氷原はペンペン様とアルフェ様とルメ様に、この草原では残った方々に殲滅をお願いしました】

「……あれ、でもペンペンとかウィーズル達はまだあまり力を渡していなかった筈だけど?」

【それに関しては申し訳ないのですが主様の余剰分の魔力を拾い集め与えておりました。後は私の分体達を散らばせてケルベロス様達が殲滅した魔物の魔力を拾い集めて主様に注入、変化した魔力を再度拾い集めてペンペン様達にという形で強化しました】

「魔物の魔力を私にって大丈夫なの?」


なんか変な事されているのだがそんな事した人今まで居ない筈だから少し怖い。


【?普段から主様はしているようでしたが?】

「え?」


私が魔物の魔力を?そんな事した記憶は無いけど?


【主様は吸血鬼ですよね?魔物の血液を取り込んだ事は一切無いのですか?主様の身体の中から確認出来たのですがもしや何処ぞの誰かに強制されたもの等でご自覚なされていなかったのですか?】

「あっ」


そうか、魔物の血液には当然魔物の魔力が入ってある。それを取りこめる吸血鬼は確かに普段から魔力を拾い集めているといえる。もしかしたら血液以外にも魔力を拾い集めている可能性も無自覚なら有り得るかもしれない。


「私って魔物を殺した時に魔力を拾っている?」

【ええ、結構な量をですね】

「そっか。なら良いや」


害がないなら放置でいっか。気にしても仕方ないし。というかアルズァーンは魔力の違いとか分かるんだね。私ですら集中しても朧気にしか分からないのに。


「あっ、いややっぱり聞こう。その取り込んだ魔力を私どうしてる?」

【そうですね。最初は当然自身の使える魔力に精錬しています。その後は基本的に主様の魔法と共に外に出ていますね。一部は主様の胸の辺りに集まって吸収されて消えています】


一部は素因の再生に使われているってことか。意外にも魔物の殲滅は私の身体に良い事だったのか。


【あぁ、皆様が帰ってこられましたね】


アルズァーンの声に顔をあげるとヴェルジャルヌガの皆とその肩に乗る形でウィーズル達が居た。皆が合流した所で空間が割れた。次の六段階目だ。

六段階目にあるのは図書館の様なものだ。この中から館内に響く声に従って本を集めなければいけない。時間制限付きで。失敗してもペナルティは特に無し。強いて言うならもう一度館内放送が流れ始めてやり直しが発生する程度だ。なので館内放送が流れても無視をして中の本達を確認していく。本の中身は空白のみだ。タイトルを探し出す迷路なのだ。まあ探し出したタイトルは後から中身が追加されるのでその中身の問題をクリアして初めて六段階目がクリアだ。うん、覚えた。

館内放送が流れて直ぐに目当ての本を持っていく。もう一度流れて別の本を持っていく。それを計五回程繰り返す。他の迷路に比べて楽そうに見えるけど草原レベルに広い図書館だから目当ての本を見付ける前に時間制限が来かねないかなり腹の立つ構造だ。

集め終えるとサッと本を開いて流し読みをする。一冊辺り十分程度で読むとサッサと問題を解く。すると司書室の扉が開く。これでクリアだ。


【……】


アルズァーンがポカーンとしているけどこれくらい普通でしょ?覚えて持って行って時間以内に問題を解く。簡単だと思うけどなぁ。


「そして最後の七段階目、ここは……」


かつて魔の大陸で暴れ回ったある剣の所有者。それを打ち倒すのが最後の迷路だ。


「何処が迷路なんだろ?もう面倒になっただけだよね」

《はははははは!!!!まあ俺の人生は間違いなく袋小路の迷路になったから間違えてはいないんじゃねぇか!?》

「寄生剣カンターの最後の持ち主」

《可愛いお嬢ちゃんに知られていて嬉しいなぁおい!!俺がもう死んでいるなんて信じたくないぜ!!俺が死んでから何年経った!?》

「……六千七百八十年と二百七十日だと思うよ」

《あっははははは!?凄ェ!凄ェよ!そんなに前なのにまだ俺の事を後世に知らしめようとしてんのか!!あははははは!!なぁ!!歴史に俺の名前は載ってるかぁ!?》

「載ってるよ」

《なら良い!そりゃあ良い!あははははは!!なら俺の名前を更にとくと知れ!!俺の名前はアルガー!!寄生剣カンターの最後の所有者で史上最強の男だ!》


アルガーの顔を見て私は少しだけ目を伏せる。恥ずかしいけれどやらないと。こんな馬鹿みたいなやつだけどこれと戦えば決して勝つ事は出来ない。ヴェルデニアですら無理どころかこいつを止められるのは三神か三匹の誰かだけだ。魔王ですら止められない。そんな正真正銘の化け物だ。


「アルガー」

《何だお嬢ちゃん!》

「ん」


スルッとスカートをあげる。アルガーは目を見開いてそして鼻血を出して気絶した。史上最強の男は超が付く程の初心なのだ。何とも言えないけれどとりあえず倒したと判断されたのか空間が割れた。最後にアルガーの姿を見る。多分だけれどあいつはわざと倒れた感じがする。きっとそうだと思う。確信にも似た何かがあったけれどそれを追求はせずに空間を通った。

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