第216話 魔の大陸西方・概念迷路
概念迷路、如何なる手段を用いても壊す事の出来ない迷路だ。作成者は西の魔王アガンタ様の妻ミュンヒ様によって作られたものだ。ミュンヒ様の素因は明らかになっていないから分からないけれど空間系統の素因である事は間違いないだろうね。
そしてこの迷路なのだが一緒に入った人とは行動出来るが人数が多いと強制的に分断される。八人以上だったかな?無理に入ろうとしたり九人目が入ろうとすると弾かれるのだ。八人入るとその後十分の間入れなくなる。
しかも入った場所は特に関係なく適当な場所にランダムで移動する為十分待ってから入っても前に入った人達と合流する事は出来ない。迷路が飽和する程の人数がいれば話は変わるだろうがまあ無理だろう。
迷路には特徴的な何かは一切存在せず全て同一の壁である。長さも曲がり角も全てだ。それじゃ普通迷路としては成り立たないのだがそもそもこれは迷路と名付けられているだけで別に迷路でも何でもない。
「確か右右左後ろ後ろ右左左左止まって十秒、後ろ右左左右左左右右右右からのダッシュ、その後二十秒止まって一日何もしない。左右左右止まって回って回って止まって横になる」
誰が分かるというのか。拓が言うにはゲームとかでは良くあるらしい景色の変わらない迷路マップでは特定の動きで正解のルートに辿り着くのだと。但しこのルートはやりすぎだとは思う。
「ヴェルデニア気付くまで何日掛かるかなぁ?」
魔神王の素因がどれだけえげつないかにもよると思う。万が一力押しで壊せるのならばすぐにでも来るだろう。まあ混沌でも壊すどころか干渉すら出来ない迷路に魔神王の素因だからといって干渉出来るとは思えないが。
恐らく居ないと思うが万が一魔軍の兵士達の中にこの迷路の攻略方法を知っている者が……って考えても仕方ないか。私は最短のルートで進むしかない。ヴェルデニアより早くアガンタ様とミュンヒ様に会うしかない。
「……一日待つのが辛いなぁ」
強制的に一日待たなければいけないというのがもどかしい。けれど何かをすれば強制的に最初からだ。仕方ないので座って眠ることにした。「横になる」は残念な事に行動の一つとして認められているせいで寝ようと思っても横になってはいけない。壁に背を預けるように座って眠る。何事も無く会いに行けたらとそう思いながら。
一日が経過した……らしい。時計など無いし迷路の中では日が入らない為何時間経ったか正確に把握出来ない。但しどうやってかアルズァーンが把握していたらしく起こされた。少し耳を澄ましてみるが迷路の中での行軍の音は聞こえない。まだヴェルデニアは来ていないようだ。いや来ていて通り抜けた後というのも可能性としてはあるがそれなら迷路が健在な理由が分からない。
「よし、行こうか」
ルートを選択した後最後に横になる。ペターっと身体を地面に押し付けるようにしていたら目の前がいきなりギシギシと軋むような音を立てた後空間が剥がれ落ちるように現れた。この正解の道はおよそ二十秒しか持たない。身体を起こすと全力でその中に飛び込んだ。
空間を抜けた後目の前に広がるのはさっきまでと変わらないように見える迷路だ。一見間違えたかのように見えるが今回の迷路は壁の長さなどは均一ではない。
「概念迷路、第二段階だよ」
【なんと!?二段階目があるとは!?】
アルズァーンがかなり驚いている。全く同じように見える迷路が二つもあればその労力を考えると凄まじいと言わざるを得ない。だけどその驚きはまだ早い。
「アルズァーン」
【はっ、主様どうしましたか?】
「概念迷路ってね……七段階まであるんだ」
少し遠い目をして答えた私にアルズァーンがポカーンとしたのが良く分かった。仮にも魔王の妻が本気で作った侵入者撃退用の迷路だ。一個、二個で済むわけがない。
そして二段階目は凄まじい程長くごちゃごちゃした迷路だ。こちらも常に飛ばされる場所はランダムであり攻略方法は無い。地道に道を探すしかない。ちなみにこの壁ももちろん魔法や物理による破壊は無理だ。むしろ試みたら攻性複層結界による反撃で死にかねない。
「という事で地道に攻略するよ」
右に行ったり左に行ったり行き止まりにぶつかって戻ったりとかれこれ七時間は掛かった。ちなみに此処を最短でクリア出来るとしたら四時間でいけるらしい。私は無理だった。だって目印すらないんだもの。
「……今日中にクリア出来ただけマシ」
【私ではまずクリアすら怪しかったでしょう。お疲れ様です主様】
比較的行き止まりにぶつかる回数が少なくて良かったと思う。運が良かったと言うしかない。そして三段階目への空間を通り抜ける。目の前に広がるのは広大な草原ではなくじめじめとした洞窟である。一段階、二段階とは形が違うだけ多少気分はマシかもしれない。ごめん、じめじめしているからこっちの方が嫌かもしれない。
この洞窟はどうやら不思議な事に一人しか入れないようであり誰かが入っていたら入れないのだ。ならここにずっと居たらヴェルデニア達入れないんじゃと思うがこの洞窟そもそもタイムリミットが設定されている。五時間以内にトラップ犇めく洞窟を走り抜けて先にある星型のイヤリングを持って入口まで戻ってこなければ一段階まで吹き飛ばされる。カウントは入口に入ってすぐだ。
【何を思って作られたのでしょう?】
「さあ?娯楽大好きな人だからそれが原因じゃない?」
やらされるこっちの身にもなって欲しいけれどね!
「じゃあ行くよ。アルズァーン暫く話しかけないでね。集中しないと多分クリア出来ない」
ここの最短クリア時間は四時間四十分だ。ギリギリ過ぎて巫山戯ているとしか言えない。足首をプラプラさせながら入口まで近付くと全力で洞窟を走り始めた。
途中の落とし穴からの天井プレス等の物理的トラップは殆どを無視した。基本的に余程の威力じゃない限り私に刺さったり切られる事などありえないからだ。
色仕掛けらしき物もあったがどうでもいいので無視をした。アルフを連れてきたら良かったが良く分からない裸の魔族の男(多分幻影)を見せられても何とも思いはしない。強いて言うなら……アルフより小さそうだなとしか。まあ私もアルフのを実物で見た事は無いけどおよそで分かる。
時折男じゃなくて女とでも思ったのか色仕掛けが女性になったのは何とも言えなかった。そもそも色仕掛けが効いていないと気付いて欲しい。結局クリアまで走り抜けてタイムは一時間。最短クリア時間だった四時間四十分という数字に不思議と嫌悪感を抱いてしまった。
【……主様】
「何も言わないで」
今はちょっと誰かと話したくない。最短クリア時間の人は父様だったが父様は何を思ったのだろうか?まあ記憶の中の父様に他の女性の影が一切見えなかったので多分単純に初心だったのでは無いだろうか。というかそう思いたい。それにもしかしたら入る人の年齢によって罠の種類が変わるのかもしれないし希望は持っておこう。……ミュンヒ様に聞くことが出来たら聞いておこう。
空間を抜けると四段階目だ。広大な砂漠が広がる景色に顰めっ面をしてしまう。四段階目の迷路?は恐らく最も時間が掛かる迷路?だ。ルールは至極簡単。この砂漠の中から一粒だけ光り輝く砂があるからそれを見付けろというものだ。幸いなのが本当の砂漠のように砂嵐は起きず尚且つそれほど深さが無いことか。
「まあ……それでも一番しんどいんだけどね」
しかも忘れては行けないのが最大でもここには八人までしか入れないのだ。それを考えたら殺しに来ているとしか言えない。砂漠なので暑いしね。
「……皆出てきて」
ケルベロスは三頭の小型の犬となって出て来てヒーク達も出てきた。ヒークやうさちゃんはアルフ達の試練役にしていたが魔の大陸に行くとなった時に回収している。アルフェやルメは大きいが手先だけなら器用なので呼んだ。アルズァーンは大き過ぎるし小さくなるのは無理らしいので小型の蜥蜴達がいっぱい出てきた。
よし、人?海戦術開始!砂漠の輝く砂を見付けよ!ってね?
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