第212話 ごめんね



二時間が経過した事でお仕置きが確定した訳だが何をしようか迷う。というかアルフ達が嫌がる事って何だろうか?あまりにキツいお仕置きはしたくないが逆に温すぎても意味が無い。丁度いい塩梅のお仕置きをしたいが何を嫌がるだろうか?

一人一人お仕置きにしても良いが考えるのも面倒だし嫌がる度合いはそれぞれ変わるだろう。まあ攻略の様子を見てお仕置きを無くすというのもありだけど今のところは微妙だ。


「……ん、エガーテ。死なせないでね」

《承知している。ダンジョン内の全ては我が管轄だ。問題無い》


少しばかり気になったので入口近くまで送って貰うことにした。ダンジョン内の全てが管轄と言うだけあって直通の通路を作ったエガーテに感謝を告げた後その通路を使って四階層に到着した。


「……」


自分でも渋い表情をしているのが分かる。はっきり言って予定外だがアルフ達に見せたいものでもないから私一人でケリをつけるしかないだろう。重い足取りで四階層から三階層に上がる。三階層を少し進むと少し開けた広間がある。そこにあまり想像していなかった相手が立っていた。周りには屈強な男達が何人も立っていてそのいずれもが寄せ集めじゃない本物の強さを持った者達だ。


「……どうしてって聞いた方がいいかな?」

「それはお前が一番分かっているんじゃないのか?魔族スイ、いや国賊スイよ」

「……思い出しちゃったんだね」

「あぁ、全てな。忘れたフリをして生きていくことも出来たのだろう。だが私にはそれが出来なかったと言うだけだ」

「どうして?」

「私が私の誇りの為に生きる為だ」

「そう……なら改めて用件を聞くね。どうしてここに居て私を待っていたの?」

「そうだな。お前が国王様を殺した犯人だからだ。魔族だからでは無い。国賊を私は許せなかったからだ。だからこそ今私は此処に居る」

「私は貴方と相対したくはなかったよ」

「であろうな。でなければ私の記憶を消そうとしない筈だ」

「どうして記憶が戻っているのかな?」

「さあな、魔法の効き目が弱い者が稀に出てくるらしい。恐らくそれだろう」


普通に話しているように聞こえるのに彼は剣を握り周りの男達も武器を構えて臨戦態勢だ。本当に記憶が戻らなければ良かったのにと思う。


「……決意は変わらないんだね?それで死ぬとしても?」

「変わることは無い。たとえ誰にも知られず死んだとしても私は私の誇りの為に生きる」

「周りの人達もそうかな?」

「あぁ、俺達は今でこそ冒険者なんだが元はイルミアの騎士なんだぜ。色々と内部での衝突に嫌気が差しちまってな。それでも国を思って行動したかったから冒険者として素材やら何やらをダンジョンに行ったりして取って帰ってきてたんだ」

「そっか。覚悟の上か。私を殺せるとは思ってないよね?」

「難しいだろうな。近衛兵すらあしらえるだけの実力を持っているのだ。此処にいる者達ではただの無駄死になる可能性が高いのだろうな」

「けど止める気は無いと?」

「あぁ、これが私達の選択だ。馬鹿だと言われようが愚か者だと言われようが私達は!誇りを胸に戦う!」

「……」

「さあ!剣を取れ!スイ!この私、トラン伯爵家が長男!ティモ・トランが!イルミア貴族としての誇りを胸にお前を討つ!」


ティモ君は剣を掲げ私にその切っ先を向ける。きっとこうなってしまった時点で私が殺さずに制圧したとしてもティモ君とこの元騎士達は自分が死ぬまで私を殺しに来ることだろう。


「殺したく……無いんだけどなぁ」


私は顔を顰めてグライスを握る。けどここで負けてあげる訳にはいかない。ならばやることは一つだけだ。


「ごめんね、ティモ君。殺すよ」


私の宣言にティモ君は剣を持って斬りかかることで応えた。



「あぁ?」

「ん〜?」


アルフ兄とフェリノ姉の二人が突然立ち止まって後ろを振り向く。


「どうしたの二人とも?」


ステラが不思議そうに首を傾げる。


「いや、何ていうか」

「血の匂いがした気がして」

「僕達は怪我してないよ?」


今の所僕達の道程は怪我も無く順調に進んでいる。まあ二時間はとっくに超えちゃってるからお仕置きは確定してしまっているのだけど。


「あぁ、俺たちの血の匂いじゃない。別のやつらなんだが」

「何人かは分からないけど複数人の血の匂いがさっき通ってきた道の方から感じたの」

「手遅れかしら?出来たら助けてあげたいけれど」

「手遅れだろうな。かなりの血の匂いだ。治療してたとしても血が大量に出てるし魔物に襲われて終わりだろう。感じるって言ってもかなり戻らないといけないからな」

「そんな遠くからの匂いも分かるの?」

「普段は分からねぇよ?ただ今は神経集中してたからな」


アルフ兄達白狼族は亜人族の中でもかなりの嗅覚を誇る。本人曰く単純な距離だけなら帝都の端から端までの距離ならいけるらしい。まあ街の中は色々な匂いがあるから実際は無理と言っていたけど。現実的にはその半分もあれば良い方だと笑っていたけど十分だよね。


「多分数は……十…二、いや三か?」

「うん、それくらいじゃないかな?」


十三人の命が瞬く間に喪われてしまったらしい。その数でやられるということはもしかしたら初心者とかだったのかもしれない。僕達も気合いを入れないといけないな。


「ディーン、お前には聞こえなかったか?」

「ダンジョンの中は妙に静かだけど階層を超えると途端に別の空間になるせいか声がそこで切れちゃうんだ。残念だけど聞こえなかったよ」


聴覚は役に立たなくさせるのに嗅覚は通用するとか一体このダンジョンってどうなっているのだろうか?まあ嗅覚が現実的に使える存在となると白狼族以外多分居ないけれど。単純にドルグレイ様がうっかりしていた説を僕は推すよ。


「皆、少し離れた場所に魔物よ。大きさは多分私くらいかしら。湖の方から動かずにこっちを見ているわ」


魚の魔物の癖に泳がなくてもいけるとか色々巫山戯てるよね。何で待ち伏せするのさ。襲い掛かる側のくせに。


「ステラ、離れた場所ってどの辺りだ?」

「だいたい三百メートルくらい右の方かな。ほらあの岩が飛び出ている場所から左側に三メートルの位置辺りかな」


三百メートル先の魔物の姿を捉えるってステラも何だかんだおかしいよね。全然見えないよ。この程度の距離なら大丈夫って言ってたけど実際どこまで見れるのだろう?


「どうする?無視して来たら殺すか?」

「私がやるわ。弓で仕留める」


ヴァルトでもいけるだろうけど切れ味が落ちるのを防ぐ為かはたまた使いたかっただけかステラは指輪からスイ姉特製の弓を取り出す。エルダートレントから作ったとかいう弓はまるで工芸品の様に美しい。スイ姉が作った時はこんなに綺麗じゃなかった筈だから多分後々ステラが改良したのだろう。矢筒も同じくエルダートレントから作っているらしいが何故か矢が自動補充されるらしい。詳しい仕組みはいまいち分からなかったけど要はまだ生きているらしい。意味が分からない。

綺麗になった矢筒から美しい矢が取り出される。ステラって工芸品を作る腕前が尋常じゃないな。既に完成と言っても過言ではないそれを更に加工するんだから。ステラは弓を構えた瞬間放った。早撃ちすぎて狙いが付いているのかすら分からない。けれど魚の魔物が水面に浮かんできたことで理解した。


「後は……戻ってきなさい」


ステラが少し魔力を操るとヴァルトの要領と同じなのか矢が自動で戻ってくる、魔物に刺さったまま。


「この魔物美味しいらしいのよね。お仕置きこれで少しは緩和されないかしら?」


ステラの言葉にハッとなる。お仕置きは確定だが少し緩和させることなら出来るかもしれない。ダンジョンにはお土産となりそうな魔物や魔導具が多く存在する。浅い階層には大した物は無いが奥に行けば行くほどある筈だ。アルフ兄達も同じ事を考えたのか頷く。早く攻略しながらもお土産を集めてお仕置き緩和作戦開始だ!

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