第211話 二階層~九階層まで全力疾走だ!!



ペンギンを抱っこした後はとりあえず皆を集めてどういう風に攻略するつもりかを聞いてみる事にした。膝近くまである水は身体の動きをかなり制限するので普段通りに動くのはまず難しいだろう。まあ私なら水ごと吹き飛ばす形で動けるけれどもそれは参考にしてはいけない。

だからこそ皆の動きも変わるのは間違いない。前衛がアルフ、中衛がステラ、遊撃がフェリノとディーンという形が普段だったけどそのままじゃ厳しい筈だ。何せ遊撃の二人がちゃんと動けるか怪しいからね。足元が濡れて滑る上水の抵抗もある。身体が小さい二人には余計にやりづらいだろう。

という事で一旦聞いてみるが正直三十階層も歩きたくないのでさっさとクリアしたい。というか水か湿気か分からないが若干寒いので帰ってお風呂に入りたい。


「ええっと、とりあえず慎重に進む形かな。魔物の動きに慣れたらペースアップして四日位かけて攻略かな?」


アルフの言葉に頷きながら皆を見渡したら納得しているようだ。


「……そっか。ダンジョン程度だったら日帰りでいけると思ってたけど無理なんだ」


小さく呟いたが多分聞こえただろう。まあ聞かせる為に言ったのだから当たり前なんだけどアルフ達の表情が変わる。ダンジョン攻略に四日、他の冒険者が聞いたら口を揃えて早いと言うのだろう。だけど正直そんな言葉が聞きたいわけじゃない。というか今現在存在するダンジョンは魔族なら誰でも日帰りでクリア出来てしまう程度だ。アルフ達も頑張らないといけないだろうけど出来る筈なのだ。だからこそ少し残念としか言えない。


「ん、アルフ達が自分達の実力を理解出来ていないのは全力で戦う機会がそんなに無かったからかなぁ」


そう言いながらアルフ達から離れるように歩き出す。


「仕方ないなぁ。アルフ、フェリノ、ステラ、ディーン四人には課題を出そうかな」


私の言葉に皆が顔を強張らせる。そんな変な事を言うつもりないから警戒しなくても良いのに。


「私今から蒼龍の所まで走っていくから皆は二時間以内に私の所まで来て?そしたら蒼龍と一緒に皆に対して襲い掛かるから。道中に適当に罠も置いていくから頑張ってね。出来なかったら……お仕置きだよ?」


にっこり笑って奥に向かって走って行く。アルフ達は慌てて追い掛けようとしてさっきまで私が抑えていた魚の魔物の攻撃に怯んでいるのを後目にスキップ気分で走り抜けていく。どす黒い魔力を垂れ流して居るので魔物が寄ってこない。何匹かはそれでも寄ってくるけど私に襲いかかろうとはしてこない。

道中は凄く綺麗だったけど完全にエリア内が水没している場所があった。水着に着替えようかと思ったけど面倒だし空気の泡を作ってジェット推進かと間違えるような速度で突っ切った。水没ゾーンを抜けたら服から水気を飛ばして進む。偶に飛んでくる太刀魚達を捕まえてシメながら歩いていくと祠があった。


「だから蒼龍の祠か。そのままなんだね」

《その通りだ。可憐な魔王よ》

「あはは、お世辞は要らないよ」

《そうか、では何故なにゆえ此処に参ったのかお聞かせ願えるだろうか?》

「私ね、一緒に戦ってくれるって言ってくれる子達が居るんだけどまだまだ弱いんだ。だから鍛えたいんだよここで」

《成程、承知した。罠の質か魔物の質を良くするか?》

「ん〜、今はいいや。それより此処のボスの権限でもくれたら嬉しいかな。一時的な物で良いよ」

《承知。……付与に成功した。これで大丈夫な筈だ》

「ありがと、蒼龍君」

《いやこちらこそ退屈凌ぎになりそうだ。礼を言う》


蒼龍がそう言うとダンジョンが震える。不思議な事に蒼龍とダンジョンが別々ではなくまるで一体になっているように感じる。


《その思考の答えは是だ。我はダンジョンによって産み出されし個体だ。故に本体は天の大陸にて眠らせてもらっている。眠ると言っても死んでいる訳では無いが》

「へぇ、思念は別物で身体だけダンジョンの殻って事?」

《肯定しよう。普段はしないのだがダンジョン内に魔王が入ったと報告されたのでな。どうしたものかと思い此方に来た訳だ》

「成程、まぁ私の理由はそれだけだからこのダンジョンに対して何かすることはないよ。というかドルグレイ辺りに聞いたら答えてくれるんじゃない?」

《今は忙しく動いているらしくてな。声を掛けづらいのだ》

「ふぅん、それって私達の鍛錬の為かな?」

《いや、それとは別であろう。どうやら世界の理の管理のようだ。異常が発生したわけでは無いらしいがああして暫く動かなくなる時があるのだ。理ともなれば膨大な量が存在するだろうから一息にやってしまうことも難しいのであろう》

「理の管理中か。ならもう暫く様子見してからそっちに向かった方が良さそうだね。というか私の事知ってるでしょ?」

《肯定しよう。我は鍛錬相手として選ばれた者の一人だ。名をエガーテという。我と其方が戦うことは無いだろうが宜しく頼む》

「ん、分かった。エガーテ」


エガーテと暫く話しているとどうやら時間がかなり経っていたようだ。しかし二時間経過してもアルフ達の姿どころか戦闘の音すら聞こえてこない。少し心配だが四人も一緒にいるのだ。死んではいないと思うがどうなっているのだろうか。


「エガーテ、アルフ達の場所は分かるかな?」

《現在は九階層だな。随分早いと思うがそれでも魔王に比べたら著しく劣ると言わざるを得ないな。馬鹿正直に突破してきているようだ。怪我はしていないがそのせいで攻略が遅れているな。あの様子ならば後四時間程度で攻略出来るであろう。道中の魔王の罠を除けばだが》

「私の罠なんて十五階層から一個ずつしか置いていないんだから大丈夫な筈だよ?それと私の名前はスイだからそう呼んで」

《そうか?分かった。しかしスイの罠は凶悪としか言えないが。十五階層の罠等モンスタートラップハウスを擬似的再現など尋常ではないぞ》

「魔物を集めて籠の中に入れて落とせるようにしただけでしょ?そんな大した物じゃないよ」

《いや籠の中に二十体入ったものが天井一面にぎっしりと詰まっていれば十二分に凶悪だと思うぞ?》

「罠を踏まなきゃいいんだよ」

《発動箇所を四十箇所も置いて良く言えるものだ》


エガーテが苦笑いしているけれど私はそんなに変な事をしたつもりなど無い。そもそも集めた魔物も大して強くない。アルフ達なら無傷で乗り越えられてもおかしくないのだ。ならとにかく数を増やすしか無いだろう。せいぜい千匹程度しか居ないのだから頑張って欲しい。


《いや千匹は多……》

「大丈夫。アルフ達だもの。無傷で乗り越えられるよ」


私の言葉にエガーテははぁっと大きな溜め息を吐く。


「というか乗り越えてもらわないと困る」


ヴェルデニアが手足のように動かしている魔軍は当たり前だけど全員魔族だ。しかも軍属になれるだけのそれ相応の実力者ということでもある。そんな魔軍の人数は嵩増しされている可能性もあるし減っている可能性もあるが最低でも五万は存在する。魔族という種族は他の二種族に比べて圧倒的に少ないがそれでも全魔族合わせて二十万程度は確実に存在するのでどんな隠れた強者がいても驚きはしない。その為私は皆を鍛えたいのだ。だから少しばかり痛い目に遭ってもらう。


「ヒーク、うさちゃん、ペンペン」


三体を呼び出すと可愛く首を傾げられた。可愛い。いや違う、そうじゃなくて三体に魔力を渡すと凄まじい力の奔流が起こる。見た目こそ変わらないがこれで三体とも尋常じゃない力を発揮してくれることだろう。


「あなた達にはお願いがあるの。アルフ達の事を殺さない程度に痛め付けてね。うさちゃんは十五階層の罠と同時に出ていって、ペンペンは二十階層、ヒークは二十五階層の罠と一緒にね」


隠れた強者(眷属)に対して皆の反応がどうなるのかを見させてもらうとしよう。所で何でエガーテは顔が引き攣っているのだろうか?

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