第210話 蒼龍の祠・一階層
スイ目線
私の目の前に広がるのは凄く綺麗な景色だ。一面に青色が広がり光を反射してキラキラ輝いている。天井にも反射した青の光が埋まっている色とりどりの宝石を照らして幻想的な風景を見せている。まあファンタジー世界に幻想的なという表現が正しいのかは分からないけれど。ついでに足元は膝の辺りまで水浸しになっているから何とも言えない。
「ここが蒼龍の祠か。歩きづらいな。天井までは高いから振り回すのは楽だけど」
「でも私の戦い方だとここは厄介かなぁ」
「私もね。ヴァルトの動きが鈍いわ」
「毒は使えそうに無いなぁ」
アルフ達が各々この環境を見て話し合っているのを横目に私は綺麗な景色を眺めていた。偶に凄い勢いで奥の湖から尖った口の魚が飛んでくるけど全部掴んで投げて返した。これがキャッチアンドリリースってやつだよね?
時折鮪や鯵や鮃みたいな魚が飛んでくるから捕まえて食べてみたいのだけどそう思ってたら途中から飛んでこなくなっちゃった。まだ食べてないのに……。
「はっ!魚群が来た!」
魚群の構成は……多分太刀魚!食べた事ない!食べたいなぁ。そう思っていたら一気に飛び上がって私に向かってきた。というかさっきからアルフ達に向かわないのは何でだろう?アルフ達も何で私を助けに来ないの?まあこの程度に怪我なんてしないけどさ。
数はいっぱいいて数えるのが億劫な程だ。その中から肉厚に見えた個体を選んで捕まえたら首を捻ってすぐに指輪の中に入れていく。十匹程度だけど一メートル以上ある魚だからそこそこの量になる。どんな味かなぁ。あぁ、こうなったら他の魚を返したのが惜しく感じる。魚は中々この辺りには出てこないんだよね。少なくとも生魚は無い。こんな簡単に魚が手に入るのにどうしてかな?
ちなみに捕まえる最中ビッチビッチ他の太刀魚が当たったけど全部無視した。何匹かは顔とかに当たってイラッとしたので弾き落としたけど死んではいないだろう。生臭くなくて良かったと思う。
後やっぱり食べたくなったのでさっき飛びかかって来た魚達を無理矢理魔力の糸で引っ張り上げて釣り上げた。一本釣りならぬ網釣り?知らないけど。網にしたせいで想像以上に釣れたけどまあ多い分には良いか。
アルフ達の話し合いが中々終わらないなぁ。ディーンがダンジョンについて知っているみたいで次の階層の話とかをしているようだ。私は正直どうでもいいから殆ど聞いていない。だって私に傷を付けられるとしたらもっと奥深くに居るであろう魔物やトラップの類いだけだからね。トラップも生半可なものじゃ喰らわないだろうし。
暫く魚釣りをして遊んでいたらようやく話し合いが終わったようだ。さて、私は皆が死なない程度に助けるだけにしようかな。皆頑張ってね?
ディーン目線
スイ姉が何か魔物と遊んでいるけど普通あの突撃攻撃食らったら軽鎧程度だったら貫通するんだけどスイ姉が余りに無防備に喰らうから心配するだけ損だと分かった。というか分からされた。スイ姉って本気で戦ったら割と真面目に国ぐらいなら滅ぼせるんじゃないだろうか。いや、実質イルミアを落としていたか。兵士とか鎧袖一触って感じだったもんね。
とにかく僕達はそういう訳には行かないからアルフ兄達と密に連携を取って攻略する事にしよう。スイ姉は一応ギリギリの所では助けてくれるとは思うけどそれに頼ってちゃ意味無いしね。あっ、スイ姉顔に当たったやつだけ弾き落としてる。鬱陶しそうだねあれ。僕が喰らったら間違いなく首へし折れてると思うけど。
アルフ兄達もあの群れの突撃を見て真剣味が更に増した。スイ姉だから耐えられているけど僕達にあれを全て防ぐ能力は無い。アルフ兄ならコルガを振り回すだけで対処出来るかもしれないけどそれは自分一人だけだし何よりこのダンジョンには完全水没ゾーンがある。そこで同じ事が出来るとは流石に思えない。フェリノ姉も走りづらそうにしているしステラもやりづらそうだ。僕も厳しいだろうって……あれ、これ大丈夫なのかなぁ?
フェリノ目線
凄く走りづらい。入って真っ先に思ったのはそれだった。私の戦闘スタイル的にこの足場の悪さは最悪だ。お世辞にも私は自分のスピードを完全に制御出来ているとは言えない。そんな状態で濡れて滑りやすくなっている上膝まで水があるこの場所はとことん私の長所を消す嫌な場所だ。スイが言わなかったらこんな所絶対に来ていないだろう。
しかもダンジョンだから罠がある。表層階と呼ばれる五階層までは無いらしいがすぐにその辺りは踏破することだろう。足場が悪くて咄嗟に動けない場所で罠と魔物を警戒するのは中々難しい。とにかく最初はこの環境に慣れるようにしないといけない。
正直言ってかなり難しいと思うけどスイは出来ると確信している。なら攻略するしか無いじゃない!スイに失望されたくなどない。
でも実際問題どうしようか?ディーンから話を聞いたけど完全水没ゾーンってどうやって攻略するの?泳いでいくのは構わないけど水没ゾーンは一階層だけじゃなくて五階層分ある。息を止めるのもそんなに長く続くとは到底思えない。スイは行けると思う。そもそも息しなくても生きていけるみたいだし。私達は無理だ。
「水没ゾーンが厄介ね。最悪スイに魔導具を作ってもらうって形がいいのかな?」
私の言葉に皆が頷く。まあその前にそこまで行かないといけないんだけどね。とりあえず方針はある程度固まった。あそこで何故か釣り?をしているスイの元に向かうとしよう。
ステラ目線
完全水没ゾーンに群れで突撃してくる大量の魔物、最奥には蒼龍。中々凶悪なダンジョンよね。けどそれだけに出現する魔物も手に入る物もかなり良い物となるのは間違いない。そうは言っても私は魔導具も作れないのだけど。スイが万能すぎるだけよ。私は至って普通の筈。スイのせいで普通とは言いづらくなったけど。
しかしヴァルトが上手く動かないのは予想外だったわ。浮いているから大丈夫だと思っていたけどどうやらダンジョン内だとヴァルトのような操作系の魔導具が動かしづらいようだ。というより移動させる系の魔法がかしら?まあそれがやりやすいなら最悪攻略するまでルートさえ間違えなければ最短でいけてしまうものね。
そういえばスイがダンジョンは意図的に作られた異界だって言っていたわね。この異界は殆ど間違いなくドルグレイ様によって作られているとも。ならこれは亜人族である私達に対しての試練とも言えるわ。気を引き締めて攻略しないとね。それと……水没ゾーンでは水着なのよね?出来たら恥ずかしくないのを買っていて欲しいけれどスイはどんな水着を買ったのかしら?気になるけれど気にしたくないって何だか不思議な感覚だわ。
スイ目線
皆が戻ってきたから先に進もうとしたら変なのがあった。あったというか居た?丸っこくて白黒で何かペちペち歩いてお腹で滑る……あれペンギンだ!?ペンギン!?何で!?
ペンギンはシューッとお腹で滑って私にぶつかってきた。全然痛くない。つぶらな瞳でこっちを見るのが可愛い。思わずさっき捕まえた太刀魚を口元に持っていったらよちよち立ち上がって口に咥えて飲み込んだ。ペンギンって魚丸呑みだっけ?あんまり覚えてないなぁ。立ち上がって手?でぺちぺち私の足を叩いてくるのでもう一匹あげたら一回咥えなおして飲み込んだ。頭からじゃないと飲み込めないのかな?
「ペンギンだ、中々出てこないらしいんだけどスイ姉に懐いてるね」
あっ、名前ペンギンなんだね。他の魔物とかと同様に英語とかだと思ってたよ。ペンギンの英訳とか知らないけど。
私が歩いたらよちよち付いてきた。可愛いけど凄く遅いのでとりあえず抱えて歩く事になった。抱えてみて分かったけどなかなか重いねこの子。可愛いから後でうさちゃんと同様に眷属にしようかな。というかやっぱり思うんだ。三神絶対に地球の文化知ってるよね?この世界にペンギンとか元々居ないからね!?
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